「(法外な)慰謝料を払わなければ警察・職場・マスコミに通報する」という手法と恐喝罪の成立
2021年07月02日読書メモ
たまにある相談です。
不貞事件や、盗撮事件などで、法外な慰謝料を支払わなければ、警察に通報するといったものです。
SNSに投稿する、マスコミに記事にしてもらう、といったパターンもあります。
実際に投稿した場合や記事にした場合は名誉毀損が成立し得るのはもちろんですが、
こういった行為が恐喝罪になることもあります。「権利行使と恐喝罪」という刑法上の重要論点です。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=56826
判示事項
権利行使と恐喝罪
裁判要旨
債権取立のために執つた手段が、権利行使の方法として社会通念上一般に許容すべきものと認められる程度を逸脱した恐喝手段である場合には、債権額のいかんにかかわらず、右手段により債務者から交付を受けた金員の全額につき恐喝罪が成立する。
この判例のポイントは、権利行使の範囲内でも方法が不相当な場合に恐喝罪が成立し得るということです。暴力団に取り立てさせたような事例が典型例でしょう。但し、権利の範囲内であれば、権利行使の方法に社会的相当性を欠く部分があったとしても、起訴猶予で終わることもあると思います。
大谷晃大監修『刑法犯捜査ハンドブック』(立花書房,2013年2月)310頁
【(1) 犯人(又は財物の交付を受ける第三者)に財物の交付を受ける正当な権利がある場合,その権利を行使するために恐喝した場合にも,その恐喝手段が権利行使の方法として社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱すれば,本罪は成立する。
(2) 権利を実行する意思なく,単に権利の実行に籍口して行う場合には,権利の濫用として恐喝罪が成立する。例えば,真に告訴をする意思がないのに,告訴権を濫用し,告訴する旨通告して相手方を畏怖せしめ,示談金名義の下に法外な金銭を交付させる場合などである。】
なお、第三者が通報すると脅す場合(盗撮ハンター)は当然恐喝罪が成立します。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53475
判示事項
一 恐喝罪と脅迫の内容をなす害悪の性質
二 恐喝罪が成立する一事例
裁判要旨
一 恐喝罪において、脅迫の内容をなす害悪は、必ずしもそれ自体違法であることを要しない。
二 他人の犯罪事実を知る者が、これを捜査官憲に申告すること自体はもとより違法でなくても、これをたねにして、犯罪事実を捜査官憲に申告するもののように申し向けてその他人を畏怖させ、口止料として金品を提供させれば、恐喝罪が成立する。