【重要】福岡県迷惑行為防止条例違反事件(盗撮事犯)の一般的な捜査手順について
2020年10月10日読書メモ
お問い合わせで聞かれることが多いので、2021年1月時点での、
私の把握している福岡県迷惑行為防止条例違反の一般的な捜査手順について説明します。
他の地域でも概ね同じ手順になると思います。
なお以下の文章は、公共の場所などでスカート内の下着を撮影したという典型的な事例の説明です。
福岡県の場合、2019年6月1日から住居等の私的空間での盗撮行為も処罰対象となっています。
1.捜査の端緒
捜査の端緒は大半が現行犯です。目撃者に見つかって取り押さえられるというパターンが多いです。
ただ、防犯カメラから特定されて後日自宅捜索されたというパターンもあります。
また、報道をみると、現場で逃亡した事例などで近時は逮捕されることも多くなっています。
なお、取り押さえられても、被害届が出されなかったことから、警察署で説諭を受け、
映像を消して、身元引受人を呼ばれて、反省文を書かされるだけで終わるというパターンもあります。
2.捜索・押収
現場で取り押さえられた場合、撮影に使用した機械の提出が求められます。
併せて、自宅にあるパソコンなどの提出が求められることも多いです。スマートフォンは任意提出を求められます。
これらは任意提出なので、理屈上は拒絶できますが、
押収や現行犯逮捕の危険からその場で応じてパスワードを教える人が大半です。
パスワードを教えない人については、検証許可状をとって解析に回すということもあるようです。
解析されてしまったという話も聞いています。
最近は、逮捕までしないことが多いですが、現場から逃走したり、
その場でSDカードを破壊するなどした場合、現行犯逮捕されることもあります。
提出したスマートフォンなどに映像がない場合、改めて家宅捜索がされることもあります。
3.被害者への確認
被害者が把握できている場合、被害者に映像を見せて、確認をとります。
また、被害届提出の意向を確認し、被害者の顔が映っていない場合は、
当日に着用していた衣服や当日の行動についても確認されます。
これは、盗撮されたのが間違いなく被害者ということを確認するためです。
4.目撃者や防犯カメラの調査
併せて、目撃者がいれば、その調書もとります。
被疑者の挙動や、被疑者を発見した後の挙動などです。実況見分が行われることもあります。
また、被疑者が映っている防犯カメラの映像が収集されることもあります。
仮に犯行の瞬間が映っていなくても、前後の行動を確認する意味があります。
被疑者が否認する場合などは、交通系ICカードの履歴なども取得しているようです。
その他、被疑者の性癖を確認するためにレンタルビデオ店に対する照会をすることもあるようです。
5.犯行状況再現
被疑者の取調べにおいては、犯行状況の再現がされます。
取り押さえられたその日のうちに現場でどこで撮影したかなどは確認され、
警察署で、警察官やマネキン相手に犯行再現をするように求められます。
これは、はっきりと盗撮映像が映っていない場合なども、「差し向け」で立件することができますが、
そのためには下着や通常衣服で隠されている身体等が撮影可能な位置に差し向けられていないといけないからです。
6.取調
取調における一般的聴取事項は以下のとおりです。
【○犯行時の人着(服装,所持品及び体格)
○犯行の動機
○被害者との距離及び周囲の具体的状況
○被害者を選定した理由
○具体的な犯行方法(犯行場所・時間等)
○犯行終了後の心情と言動等
等について聴取するほか,
○盗撮に係る器具(カメラ等)の入手経路
○盗撮に係る器具の本来の使用目的,使用回数(例えばカメラ付携帯電話の場合等)
○盗撮の方法,頻度
○盗撮に係る記録の保存の有無(記録媒体の有無数量) ,保存場所
○盗撮に係る記録の活用の有無, その方法】
警察実務研究会『部内用 わいせつ事犯の初動措置要領』(立花書房,2012年1月)36頁
概ね1~2回の取調が行われ、検察官に送致されます。最低でも、1日午前と午後は取調にかかります。
弁護士がついて先に陳述書を出しておけば、取調回数が少なくなることもあります。
7.送検後
送検後、示談不成立の場合には、検察官から呼び出しがあります。
初犯の場合、2時間程度の取調があり、略式請求に同意するという書面に押印を求められます。
罰金は20~30万円程度が相場でしたが、
2019年7月1日以後は罰金額の上限が引き上げられたことから、相場が上昇する可能性があります。
送検までに示談が成立している場合、呼び出しがなく不起訴となることが多いです。
8.被害者不詳の場合
時々、被害者が気がつかないまま立ち去る、あるいは関わり合いになるのを嫌がって立ち去るというパターンがあります。
また、取り押さえられた事件については「差し向け」といえずに犯罪不成立ということもあります。
この場合、警察官は、押収した映像から余罪を調べて、別の被害者を突き止めて被害届を提出させるのが一般的です。
手間がかかるので、職場などわかりやすいところがあればそちらに行くことになります。
この際、担当警察官と交渉することで、職場に捜査に行くことを止めてもらえることもあります。
また、もう一つの手法として、被害者不詳のまま立件し、送致するということもあります。
専門用語になりますが、迷惑行為等防止条例は社会的法益を保護するといわれ、
その地域の住民の平穏な生活を保持することを目的としていますので、
被害者の被害届は立件に必ず必要なものではありません。処罰可能です。
※参考
このパターンでは、起訴されることも起訴されないこともあり、担当検察官の裁量が働くようです。
検察官と交渉して、身元引受人による陳述書なども提出したところ、本人の取調後に不起訴になったという事例もありました。
参考文献
福岡県迷惑行為防止条例逐条解説(2019年5月)
警察実務研究会『部内用 わいせつ事犯の初動措置要領』(立花書房,2012年1月)
執筆者不明『部内用 2訂版 地域警察官が取り扱う軽易な事件捜査要領』(東京法令出版,2012年7月)
警察公論 2018年12月号 「盗撮事犯の捜査」
KOSUZO AICHI 2019年4月号 「愛知県迷惑行為防止条例と盗撮事案の捜査要領」
THE BEST 2021年1月号(976号)「盗撮事案の捜査上の留意事項」
報道回避についてはこちらの記事をご参照ください。