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薬院法律事務所

【長文・必読文献】『類型別労働関係訴訟の実務』

2018年07月20日労働事件

東京地裁労働部に所属していた裁判官たちが、紛争類型別に、各種の論点について、端的に結論と理由、関係する裁判例などを示したものです。労働関係紛争のルールをできる限り整理して客観化することを目指したとされています。

東京地裁労働部は、労働訴訟における実務をリードしている存在です。従って、本書は良くも悪くも裁判実務における標準的な見解、として通用していくものと思います。一応、東京地裁労働部の統一見解ではない、と断っていますが、それは裁判官の独立上当然の話です。

労働事件に取り組む弁護士であれば購入すべきです。少なくとも、担当する事件に関係する部分は目を通す必要があります。

内容を見ると、最新の論点について触れつつ、古典的な論点についてもきっちりと説明しています。また、実務的に不備が多いのか、訴状の添付書類などについても記載があります。

引用文献は多方面にわたっていますが、主な文献は菅野和夫先生の労働法と東京地裁労働部所属の裁判官らが書いた書籍、その他コンメンタールなどです。客観性を目指した結果でしょう。

以下は弁護士と社労士向け読書メモ。

賞与の在籍日支給要件については最高裁判例があるが、具体的な権利の発生について使用者の決定を必要としない場合は別段の考慮がいる(30ページ)

職能資格制度の下では原則として資格、等級を引き下げての減給は出来ない。当該組織において職務遂行能力として位置付けられるのが各年度に発揮される能力で、引き下げに関する制度上の根拠規定が必要(62ページ)

時間外労働については使用者の指示が必要だが、黙示の指示で足りる。労働者が規定と異なる出勤を行って時間外労働に従事し、そのことを認識している使用者が異議を述べていない場合や、業務量が所定労働時間内に処理できないほど多く、時間外労働が常態化している場合などに黙示の指示は肯定される(102ページ)。

持ち帰り残業については原則として労働時間にあたらない。指示があったこと、成果物の作成、変更履歴などを示して具体的に専念した時間を立証する必要がある(109ページ)

使用者における勤怠管理が適切に行われてない場合でも、実労働時間を推認できる程度の客観的資料がない場合には、時間外労働の存在を認定することは困難である(東京地判平成28年3月18日、114ページ)

固定残業代については明確区分が必要。割増賃金の種類及び時間数の特定が最低限必要。但し、テックジャパン事件の櫻井補足意見ほどの要件は不要(126ページ)

明確区分性を欠く定額給与制度を固定残業代制度にきりかえることは、基本給の減額をすることなので、労働者の同意を得る必要がある(137ページ)※東京地判平成19年6月15日を確認

1ヶ月単位の変形労働時間制について、就業規則でその日、その週ごとの勤務時間を明確にするのが原則であるが、一定の基準を満たせば月毎の勤務割表で可能。ただし、勤務割り表の起算日と就業規則の起算日とが食い違う場合、変形労働時間制は無効(東京地判平成27年12月11日、146ページ)

事業場外労働のみなし制の、適用につき、通達は使用者の指揮監督下にあるかで判断、最高裁は明確でないが、直接、使用者にとって労働時間を把握することが困難といえるかいなかを判断している(158ページ)

日報を作成させているからといって「労働時間を把握できた」とすると事業場外労働みなし制はほぼ適用できないことになる。何らかの方法により正確性が担保され、あるいは確認でいいることが必要(160ページ)

専門業務型裁量労働制の適用にあたっては、業務の遂行や時間配分の決定に際して使用者の具体的な指示をしないことが必要、しかし、タイムカードの打刻や、個別的に特定の会議の出席を求めることは、全体として裁量労働が維持されていれば可能(166ページ)。

配転命令につき、職種限定の合意が認められるかについて、契約書に業務内容の記載があるとか、長期間同一の業務に従事していたということだけでは難しい(203~206ページ)

勤務地限定合意については、黙示の合意でもよい。しかし、現地採用職員でも、入社時に転勤規定があり、実際引っ越しをともなう転勤がなされていた場合は、黙示の合意は認めがたい(208~209ページ)

解雇無効紛争に関しては、菅野和夫先生の「労働法」と土田道夫先生の「労働契約法」を参照するようにしばしば言及されています。必携でしょう。

職種限定の合意までは認められない場合でも、ある程度職種を特定して採用したなど、労働者のキャリアに相応の配慮をしなければならない特段の事情がある場合は、キャリア形成上の不利益も配置転換の権利濫用性を基礎づける事情になりうる(217頁)。

労働契約法3条3項のワークライフバランス規定、育児介護への配慮規定(育介法26条)などの立法動向から、かつて労働者が甘受すべき不利益とされていたことも、使用者の配慮が不十分とされる余地もある。裁判例の蓄積が望まれる(220頁)。

配転命令の権利濫用性の判断にあたっては、配転の必要性と労働者の不利益が比較考量されるが、配転手続きにかかる手続きの履践や説明内容を主張することは妨げられず、むしろ手続相当性という観点から考慮されるべき(222頁)。

解雇された場合の賃金請求の請求原因としては、労務の履行不能が使用者の責に帰すべきことを主張する必要がある。この要件を満たすためには、労働者に労務提供の意思及び能力があることが必要である。これを失っている場合は使用者の帰責性と履行不能との因果関係が遮断されるからである。従って、他に職を得ている場合は訴状であらかじめ就労の意思があることを主張しておくことが考えられる(244頁)。

使用者が、ある時期以降の労働者の就労の意思または能力について、その理由を示して否認した場合は、労働者において、就労の意思及び能力があることを、改めて立証すべきことになる(246頁)。

解雇無効訴訟での賃金請求につき、通勤手当は実費補償的性質のものであれば請求できない。時間外手当についても否定した裁判例がある(247頁)。

解雇が強行法規違反で無効と主張する場合の主張立証責任は労働者にある(250頁)。

就業規則に解雇事由が列挙されていたとしても、限定列挙であることが明示されていない限り、例示的に列挙したものと解するべきである(257頁)。

勤務成績不良を理由とする普通解雇の有効性については、1労働契約上その労働者に要求される職務能力・勤務態度がどの程度のものか、2勤務成績、勤務態度の不良はどの程度のものか、3指導による改善の余地があるか、4他の労働者との取り扱いに不均衡はないか等について総合的に検討することになる。長期雇用システム下の正規従業員については、解雇の相当性は比較的厳格に判断されるが、高度の技術能力を評価され、特定の職位・能力のために即戦力として高水準の給与で中途採用されたが、その期待されなかった技術能力を有しなかった場合は、労働者は給与に見合った良好な技術能力を示すことが期待されているといえるため、教育・指導が十分であったといえない場合であっても、比較的容易に勤務成績不良・態度不良に該当し、解雇の相当性が肯定されることになると考えられる。菅野労働法と土田労働契約法を参照されたい(258~259頁)。

労働者の帰責事由(能力不足等)と経営難の理由が重複する場合は、重畳的に検討するのではなく、普通解雇か整理解雇として許容されるかを別々に検討すべきである(261頁)。

試用期間中の解雇について、使用者が採用時に知っていた事情を主張することは失当であり、試用期間中の勤務態度等によって初めて判明した事実を理由にしなければならない(263頁)。

有期雇用については、施行通達と荒木尚志『有期雇用法制ベーシックス』が頻繁に引用されています。

有期雇用の更新拒絶が認められない「合理的期待」について、初回の更新でも合理的期待が認められることがある一方で、複数回更新していても合理的期待が生じているとは限らない。更新回数が明確に定められていて遵守されている場合などが考えられる(287頁)。

初回の労働契約締結時に不更新特約や更新上限を設定したとしても、雇用継続中に生じた事情によって合理的期待の発生が認められることもある(287頁)。もっとも、契約締結時に不更新条項がある場合は、基本的には雇い止めは有効である。もっとも、あくまで判断の一要素である(293頁)。

審査の厳格さは、正社員の解雇>実質無期雇用の有期雇用の雇い止め>継続特約(期待保護)タイプの雇い止め>反復更新タイプの雇い止め(291頁)。

有期労働契約と試用期間の区別について(3ヶ月は有期雇用で、問題がなければ正社員にするなどといった場合)、労働者の適性を評価判断するために期間設定した場合は、その期間満了により契約が当然に終了する旨の明確な合意があるなど特段の事情がない限り、当該期間は試用期間とみなされる。そこで、期間設定の趣旨・目的のほか、期間満了で雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意の有無等が審理の中心となる(292頁)。

契約更新時に不更新条項を入れた場合、不更新条項への同意が更新の条件となるため、労働者の自由意志に基づく意思表示といえるか慎重な検討が必要になる。仮に自由意志に基づくものとしても、雇用の全期間を通じて総合的に検討することにより、不更新条項による合理的期待の減殺を認めつつ、なおも合理的期待が認められることがある(295頁)。

更新回数に上限を定めることは、その回数以後の更新に対する期待を否定するものではあるが、それまでの更新を期待させるものでもある。従って、更新回数に上限が設定されている事案では、採用時に上限条項についてどのような説明をしているか、その会社の運用実態等を考慮して合理的期待の有無を判断する(296頁)。

傷病休職制度がある場合、治癒の見込みがないことが明らかなケースはともかく、そうでない場合はこれを適用せずに解雇することは、違法となる可能性が高い。特に、メンタル不調で治癒の見込みがないことが明らかであることは稀(307ページ)。

傷病休職事由としての「業務支障」等について、休職が解雇猶予の性質を有することから、それは解雇事由に相当する内容でなければならないという指摘があることに注意を要する。例えば、精神疾患による言動により周囲の者に悪影響を及ぼすなどとして休職を命じる場合、これが解雇事由に相当するか否かを検討し、それに至らないと判断したときは、賃金の支払い義務は生ずるものの、自宅待機命令等で対応することが相当と思われる(310ページ)。

傷病休職事由の消滅事由である「治ゆ」とは、原則として従前の業務を通常の程度に行える健康状態に回復したときを意味し、それに達しない場合には、使用者が当該労働者の就労を拒絶し、解雇又は自動退職にすることがただちに違法とはいえない。職種限定特約がある場合にはより直截に妥当する。しかし、職種限定特約があっても、当初軽作業につかせればほどなく通常業務に復帰できる場合には、使用者にそのような配慮を行うことが義務付けられる場合があることに注意を要する。職種限定特約がない場合は、片山組事件(最高裁平成10年4月9日)の趣旨から、現実に配置可能な業務の有無を検討すべきであろう(312頁)。

主治医と会社の指定医とで、復職可能か否かの意見が食い違った場合は、その内容が問題になる。会社が結論を簡単に示しただけの指定医の意見書に依拠して復職を認めなかった場合、裁判になってからその所見に至った理由を主張立証することは容易ではない(315頁)。

裁判例上、使用者には配慮義務が認められていることから、傷病休職者には、診断書の提出などによって使用者による治癒の認定ができるように協力する義務がある。指定医の診察を正当な理由なく拒否した労働者につき、休職期間満了後の退職を認めた事例がある(316頁)。

期間雇用の更新上限を65歳と定めることは、制度の合理性を欠くとまではいえないとした裁判例がある(東京高判平成28年10月5日)(324頁)。

事業主が継続雇用制度を導入していない場合、定年到達者は労働契約上の地位確認及び賃金請求はできない。ただし、不法行為として損害賠償請求ができる可能性がある(328頁)。

継続雇用制度がある場合、定年到達者には雇用継続について合理的期待が存在する。そこで、会社が就労拒否した場合には、解雇権濫用法理が類推適用される(330頁)。

内定取り消しについても解雇予告制度の適用があるかは説が分かれている(358頁)。

解雇予告手当を欠く即時解雇について、最高裁は、使用者が即時解雇に固執する趣旨でない限り、解雇自体を無効とはしないという相対的無効説に立つ。
しかし、その後も下級審の裁判例では、労働者は解雇無効か、解雇予告手当の請求かを選択的にできるとするものがある。
これは、労働者が解雇を争わず予告手当だけを請求してきた場合に、使用者が即時解雇に固執していなければ、30日の経過で予告期間満了となり予告手当請求が棄却されるとの問題意識に基づく。代わりにその間の賃金請求をすれば良いと言っても、ハードルが高くなる。
しかし、実務的には相対的無効説でも認容される例がほとんどであること、論理必然的に棄却になるわけではないと考えられることから、相対的無効説が支持される(363~365頁)。

退職金は労働契約書や就業規則に定めがない限り、請求出来ないのが原則。労使慣行として請求出来る場合は、支給の実態と金額の基準が必要(383頁)。

退職金規定に不備があり算出できない場合は、合理的に解釈して算出する。不備が大きくて合理的に解釈出来ない場合は、規定の存在をひとつの間接事実として、労使慣行を主張することになろうか(384頁)。

退職金の金額が自己都合か会社都合かで差があるとき、いずれの都合によるものかは総合判断する。退職勧奨がされて退職届が提出された場合などが問題となり、退職届を出したからといって自己都合になるとは限らない(385頁)。

在職中の非違行為、懲戒解雇などを理由に退職金の減額、不支給が出来るかは、その行為が労働者の勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどのものかによる。背信性の強弱のほか、退職金の功労報酬的要素の大きさ、使用者の損害の大きさ、労働者の功労の大小、他の事例との均衡などを考慮(387頁)。

退職金の支給後に懲戒解雇事由が発覚したとしても、そのことだけを理由に退職金の返還は求められない。「懲戒解雇されたとき」とあれば、既に退職しているので返還を求めることはできず、「懲戒解雇事由があるとき」にしておけば、返還を求められる可能性がある(390~391頁)。

退職金不支給条項はないが、労働者が重大な背信行為を行った場合は、権利の濫用として争うことが考えられる。懲戒解雇を避けるために自主退職した場合など(大阪地判平成21年3月30日など)。但し、退職金不支給条項がそもそもない場合は、退職金の功労報酬的性格が弱いとして、支払い拒否のハードルが高い(391頁)。

労働審判で解雇無効を争う場合、解雇事由が明らかでないときの事業主との事前交渉は必須というべきである(423頁)。
→解雇理由証明書の交付すら求めずに労働審判を提起してくるような弁護士もいます。
労働審判では労働者の完全負けということが少ないので、復職の交渉を避けて最初から解決金を狙っているのだと思います。しかし、裁判所の印象は非常に悪いです。

労働審判で残業代請求を求める場合、予想される争点や事前交渉などを記載していない申立書が散見されるが、これらの事項が補正されない限り、第一回期日の指定が受けられない(426頁)。

https://www.seirin.co.jp/book/01723.html