load

薬院法律事務所

犯罪被害者

交通事故加害者が自賠責保険しか掛けていないが、裁判基準で慰謝料の支払いをしてもらいたいという相談


2024年09月14日犯罪被害者

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市に住む40代男性です。先日、歩道を歩いていたところ、車にぶつけられて転倒しました。打撲ということで通院しているのですが、加害者は自賠責保険しかつけておらず、自賠責保険会社からは「支払基準」に沿った金額しか支払えないといわれています。相手はお金がないということで支払ってくれそうにないです。弁護士費用特約はあるのですが、なんとかならないでしょうか。

A、裁判を起こして、訴訟基準による請求をすることが考えられます。120万円の枠内であれば、判決で認定された金額が支払われます。

 

【解説】

 

交通事故の被害者は、いわゆる運行供用者責任に基づいて、車両の運行供用者に対して人身損害の賠償請求ができます。そして、自動車損害賠償保障法は、第16条1項で被害者に対して自賠責保険会社に対する直接請求権を定めています(いわゆる被害者請求)。ただ、この時はいわゆる「支払基準」に基づく支払しかなされません。もっとも、裁判所は支払基準に拘束されませんので、裁判所の判断が確定すれば、自賠責保険会社はその金額を支払ってきます。

 

自動車損害賠償保障法

https://laws.e-gov.go.jp/law/330AC0000000097

(自動車損害賠償責任)
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。

(保険会社に対する損害賠償額の請求)
第十六条 第三条の規定による保有者の損害賠償の責任が発生したときは、被害者は、政令で定めるところにより、保険会社に対し、保険金額の限度において、損害賠償額の支払をなすべきことを請求することができる。

 

【参考判例】

 

最判平成18年3月30日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=32815

【法16条の3第1項は,保険会社が被保険者に対して支払うべき保険金又は法16条1項の規定により被害者に対して支払うべき損害賠償額(以下「保険金等」という。)を支払うときは,死亡,後遺障害及び傷害の別に国土交通大臣及び内閣総理大臣が定める支払基準に従ってこれを支払わなければならない旨を規定している。
法16条の3第1項の規定内容からすると,同項が,保険会社に,支払基準に従って保険金等を支払うことを義務付けた規定であることは明らかであって,支払基準が保険会社以外の者も拘束する旨を規定したものと解することはできない。支払基準は,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合に従うべき基準にすぎないものというべきである。そうすると,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合の支払額と訴訟で支払を命じられる額が異なることがあるが,保険会社が訴訟外で保険金等を支払う場合には,公平かつ迅速な保険金等の支払の確保という見地から,保険会社に対して支払基準に従って支払うことを義務付けることに合理性があるのに対し,訴訟においては,当事者の主張立証に基づく個別的な事案ごとの結果の妥当性が尊重されるべきであるから,上記のように額に違いがあるとしても,そのことが不合理であるとはいえない。
したがって,法16条1項に基づいて被害者が保険会社に対して損害賠償額の支払を請求する訴訟において,裁判所は,法16条の3第1項が規定する支払基準によることなく損害賠償額を算定して支払を命じることができるというべきである。】