load

薬院法律事務所

一般民事

友人に、海外出張期間中の一時的な使用ということで持ち家を貸したけど返してくれないという相談(賃貸借)


2024年09月10日読書メモ

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、海外に出張することになり、持ち家を処分することを検討しましたが、友人がその期間だけ借りたいということで貸しました。2年間の契約だったのですが、1年半が経過して退去の連絡をしたところ、事情が変わって住み続けたいと言われました。定期建物賃貸借契約という手法にすれば良かったと後悔しているのですが、どうにかならないでしょうか。

A、基本的には普通建物賃貸借契約として「正当の事由」がない限り一方的な明け渡しは求められないということになりますが、「一時使用目的のための建物賃貸借契約」として解約ができる場合があります。もっとも、その判断については厳格になされるべきという指摘があり、認められるかは不透明です。

 

【解説】

 

普通建物賃貸借契約については、借地借家法26条から39条において、借家人を保護するための詳細な規定が設けられています。貸主に契約更新拒絶についての「正当の事由」がなければ法定更新がなされることになっているため、原則として一方的な明け渡し請求はできません。もっとも、「一時使用目的の建物の賃貸借」契約と認められれば、期間満了での明け渡しを求められます。賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合でなければいけませんので、弁護士の面談相談が必須でしょう。

 

※借地借家法

(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)
第二十八条建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。

(一時使用目的の建物の賃貸借)
第四十条この章の規定は、一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合には、適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/403AC0000000090

 

【参考裁判例】

 

最判昭和36年10月10日

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=53627

【借家法八条にいわゆる一時使用のための賃貸借といえるためには必ずしもその期間の長短だけを標準として決せられるべきものではなく、賃貸借の目的、動機、その他諸般の事情から、該賃貸借契約を短期間内に限り存続させる趣旨のものであることが、客観的に判断される場合であればよいのであつて、その期間が一年未満の場合でなければならないものではない。】

 

■29055194

東京地方裁判所

平成30年(ワ)第13344号

平成30年07月11日
判決
東京都(以下略)
原告 株式会社X1
同代表者代表取締役 X2
同訴訟代理人弁護士 余頃桂介
東京都(以下略)
被告 Y

主文
主文
1 被告は、原告に対し、別紙「物件目録1」及び「物件目録2」記載の各不動産を明け渡せ。
2 被告は、原告に対し、平成30年4月1日から前項の各不動産明渡済みまで月額119万円の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 この判決は、第1項及び第2項に限り、仮に執行することができる。

事実および理由
事実及び理由
第1 請求
主文と同旨
第2 事案の概要
1 本件は、賃貸人である原告が、別紙「物件目録1」及び「物件目録2」記載の各不動産(本件不動産)の賃借人である被告に対し、賃貸借契約終了を原因とする目的物返還請求権に基づき、本件不動産の明渡しを求めるともに、債務不履行(賃借目的物返還義務の不履行)を理由とする損害賠償請求権に基づき、賃貸借契約が終了した日の翌日である平成30年4月1日から本件不動産明渡済みまで月額119万円の割合による約定損害金の支払を求める事案である。
2 当事者の主張
(請求原因)
(1) 被告は、本件不動産をもと所有していた。
(2) 被告は、平成29年12月22日、原告に対し、本件不動産を代金1億5550万円で売り渡した。
ただし、被告は、同日、原告との間で、被告が平成30年3月31日まで本件不動産を買い戻すことができる旨約した。
(3) 原告は、平成29年12月22日、被告との間で、本件不動産について、次の内容の定期建物賃貸借契約(本件契約)を書面により締結した。
ア 期間 平成29年12月22日から平成30年3月31日まで。本件契約は、この期間の満了により終了し、更新はしない。
イ 賃料等 月額59万5000円(駐車場代4万5000円を含む額)
ウ 特約 被告が本件不動産の明渡しを遅延したときは。本件契約終了の日の翌日から本件不動産の明渡しまでの間、賃料及び共益費の2倍相当額を支払う。
(4) 平成30年3月31日が経過した。
(請求原因に対する認否)
請求原因事実は全て認める。

当裁判所の判断
第3 当裁判所の判断
1 請求原因事実は当事者間に争いがないものの、期間の定めがある建物の賃貸借につき契約の更新がないこととする旨の定めは、公正証書による等、書面によって契約をする場合に限りすることができ(借地借家法38条1項)、そのような賃貸借をしようとするときは、賃貸人は、あらかじめ、賃借人に対し、当該賃貸借は契約の更新がなく、期間の満了により当該建物の賃貸借は終了することについて、その旨記載した書面を交付して説明しなければならないところ(同条2項)、上記書面を交付しての説明に関する主張のない本件においては、本件契約中、契約の更新はしない旨の定めは無効となる(同条3項)。
2 しかしながら、翻って検討するに、当事者間に争いのない請求原因事実によれば、原告と被告との間では、3箇月強というごく短期間ではあるが、本件不動産(被告の住所に照らせば、被告の居住用不動産であったと認める。)の元所有者である被告に買戻しの機会を与えるとともに、本来であれば売主として本件不動産の引渡義務を負う被告に、上記の短期間に限っては賃借人として従前と同様の使用収益をさせるために本件契約が締結されたものと解される。このような本件契約の締結に至る経緯等に照らせば、本件契約は一時使用のために建物の賃貸借をしたことが明らかな場合(借地借家法40条)に当たるというべきであるから、同法第3章の規定は適用されないことになる。
3 そうすると、本件契約の賃貸借期間が平成30年3月31日をもって満了した後、原告が同年4月26日に本訴を提起した本件(記録上明らかな事実)においては、賃貸人である原告が賃借人である被告による期間満了後の本件不動産の使用収益の継続に異議を述べたことは明らかであって、本件契約につき黙示の更新(民法619条)が成立する余地はないから、結局、本件契約は平成30年3月31日をもって終了したことになる。
4 したがって、被告は、原告に対し、本件不動産を明け渡す義務を負うとともに、平成30年4月1日から本件不動産明渡済みまで月額119万円(59万5000円×2)の割合による約定損害金を支払う義務を負うことになる。
第4 結論
よって、原告の請求はいずれも理由があるから、これを認容することとして、主文のとおり判決する(被告は当審口頭弁論終結後に口頭弁論の再開を上申したが、その主張する内容を検討しても、以上の判断は何ら左右されないので、弁論の再開はしないこととする。)。
東京地方裁判所民事第39部
裁判官 田中秀幸
別紙(省略)

 

【参考文献】

 

多比羅誠編著『駐車場・資材置場・一時使用・使用貸借の契約実務一借地借家法の適用されない契約一』(新日本法規,2012年4月)220頁以下

【Q30 海外赴任中に家屋を賃貸借した場合、一時使用目的の建物賃貸借となるか】

223頁

【本問のような契約が一時使用目的の賃貸借と認められるか否かについては、最終的には、契約の締結時期(借家法の時代か、定期建物賃貸借制度等が認められた借地借家法の時代か)、契約の締結経緯、契約期間、賃貸借の目的・動機、建物の種類・構造・利用目的やその使用形態、賃貸借の存続期間を短期間に限定した当事者間の意思といった各事情を踏まえて個別に判断されるものと考えられますが、上記の借地借家法における定期建物賃貸借制度の新設によって、現行の借地借家法のもとでは、一時使用目的と認められない可能性があります。なお、そのような場合には、更新拒絶または解約申入れの際に必要とされる正当事由の存否の判断において、それが認められるための有力な要素として上記の各事情がしんしゃくされることになります】