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薬院法律事務所

山野目 章夫『民法概論 1 民法総則』

2018年07月20日読書メモ

債権法改正後の民法に基づく民法総則の解説書。かなりチャレンジングな本です。現行民法の話は完全に無視で、専門の消費者法の話も盛り込まれています。しかし、現行民法の無視は法律を学ぶにあたって大問題と思います。各種法制度は現行民法を基準に形成されてきましたので、そこを無視しては特別法も判例も理解出来ません。全て熟読出来た訳ではないですが、以下はざっと読んだ感想です。

制度そのものの説明は淡白で、制度の導入経緯や制度趣旨の説明は薄く、一通り民法を勉強した後でないと読みこなすのは難しいです。また、判例の説明、特に最新判例は引用だけで中身も書いていないものが多いですので、実務で使うのは論点についての山野目先生の意見の確認かと。法律の規定だけではなく、社会学的調査の報告書などを頻繁に引用しているのは面白いです。民法と弱者保護を結びつけたいという強い思いを感じます。

本書は、民法の基本原理を個人の尊厳として、自由は個人の尊厳を支えるための部分原理でしかない、という立場で一貫して書かれています。これは、民法の基本原理を契約自由とする通説的立場とは違います。かといって公序良俗違反で否定するのではなく、市民の個別の権利保障として実現されるべきだと。性風俗産業への従事の自由を否定する方向も示唆されています(11頁)。労働の内容が人たるに価するものではなければ、自由の名のもとに認めることは許されないという意見(人権派)と紹介されています。

私としては、何が個人の尊厳かは本人が自由に決めることで、自由は単なる部分原理ではないと思います。『個人の尊厳とは、すべての個人は、個人(人間)として尊重され(憲法13条)、その自由な意思が確保され、他人の意思によって支配されてはならない、ということである』(有斐閣双書民法(1)総則 第4版増補補訂3版20頁)、何が素晴らしい生き方かを多数派に強制されるべきではないでしょう。あえていうのであれば、個人が選択した生き方は、他人の権利を直接害するものでなければ、いずれも等しく素晴らしい、と。むしろ、個人の尊厳は契約の拘束力をどの程度認めるかというところで問題にすべきで、契約自体を禁止するような立論は危険と思います。契約締結過程の情報提供や、契約離脱の自由に個人の尊厳が関わらせるのでは、と。

とはいえ、これはこれでありな本なのだとは思いました。はしがきにもありますように、民法のあり方についてみんなで考えるための素材なのだと思います。