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薬院法律事務所

刑事弁護

盗撮行為に関する軽犯罪法と迷惑防止条例の優先関係


2018年07月20日刑事弁護

盗撮行為に関する、軽犯罪法違反と迷惑防止条例違反の関係について調べてみました。

現在の実務は観念的競合という立場のようですが、疑問があります。

須賀正行『イラスト・チャートでわかりやすい擬律判断・軽犯罪法』(2014年)69頁

「従来、いわゆる盗撮行為について、「公共の場所又は公共の乗物」での盗撮行為は、迷惑防止条例違反として、また、「人が通常衣服をつけないでいる場所」での盗撮行為は軽犯罪法1条23号違反として対応していた。
平成24年3月30日公布・同7月1日施行の改正東京都迷惑防止条例第5条第1項においては、「公共の場所又は公共の乗物」に加え、「公衆便所、公衆浴場、公衆が使用できる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」も、盗撮行為の規制場所として拡大された(同項2号)。
このため、例えば、隠し撮りを行う目的で、スーパーの女性用トイレに入り、用便中の女性の姿態をカメラで撮影した場合、違法目的での侵入であるので、建造物侵入罪のほか、スーパーの女子トイレは公衆便所にはあたらないものの、「その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所」に該当し、カメラを用いていわゆる隠し撮りの目的も達しているので、迷惑防止条例違反の刑責も負い、軽犯罪法第1条23号違反の罪とは観念的競合となる。」

井坂博『実務のための軽犯罪法』(2018年)
「カメラやスマートフォンのカメラ機能を用いて便所内の女性の姿態等を「盗み撮り」する行為が、いわゆる迷惑防止条例で禁止されている「人の通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影すること」に当たる場合には、両罪が成立し、観念的競合の関係に立つと解する。なぜなら、本号が「場所」をのぞき見る行為を規制しているのに対し、迷惑防止条例は「下着又は身体」を撮影することを規制しており、その規制対象が異なるからである(伊藤・勝丸171頁)」

下記の軽犯罪法の趣旨から考えると、軽犯罪法が別段の規制を容認する趣旨とは考えがたいので、公衆要件をなくした盗撮行為の上乗せ規制はやはり違法なのではないかと思います。

大塚仁『法律学全集 42-Ⅲ 特別刑法』(昭和34年)

98頁
「軽犯罪法は、社会倫理的観点においては比較的軽度の非難に値するものではあるが、公安的見地からとくに取締りの必要のみとめられる行為を、ほぼ包括的に規定した刑罰法規である(政府の提案理由中にも、「日常生活における卑近な道徳律に違反する軽い罪を拾うことを主眼として」といっている。)」

99~100頁
「ただ、構成要件の解釈について、とくに、「この法律の適用にあっては、国民の権利を不当に侵害しないように留意し、その本来の目的を逸脱して他の目的のためにこれを濫用するようなことがあってはならない」とされていることに注意しなければならない(4条)」

117頁
「(23)窃視罪 正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者(23号)旧令に照応する規定はない

いわゆる出歯亀行為を禁じたものである。性的風紀を維持するとともに、被害者の個人的秘密を保護しようとする趣旨である。「ひそかに」とは、のぞき見られるものに知られないようにの意である。第三者に知られると否とを知らない。「のぞき見る」とは、隙間などから、こっそり見ることをいう。遠距離から望遠鏡で見る行為も含むであろう」

『シリーズ捜査実務全書9 風俗・性犯罪 3版』平成19年373頁

「「卑わいな言動」とは、いやらしくみだらな言語、動作で性的道義観念に反し、人に性的しゅう恥心、嫌悪感を覚えさせ、又は不安を覚えさせるに足るものをいう。
卑わいな言動の中にはわいせつな行為(いたずらに性欲を興奮又は刺激せしめ、かつ、普通人の正常な性的しゅう恥心を害し、善良な性的道義観念に反する行為〈最判昭27.4.1刑集6.4.573>) も含まれ、 「卑わいな言動」は、わいせつな行為(例えば、陰部に手を触れる、女性の乳房を弄ぶ、接吻をするなど) よりも広い概念である。卑わいな言動のうち、わいせつに当たる行為が、公共の場所又は公共の乗り物の中で行われる場合、通常、公然性を有すると考えられるので、刑法第174条の公然わいせつ罪が成立し、本項違反は、これに吸収される。しかし、わいせつな言語は、刑法第174条のわいせつ行為に含まれないとされているので、本項違反のみが成立する。したがって、卑わいな言動のうちわいせつ行為に当たらない卑わいな動作及びわいせつを含む卑わいな発言につき、本項違反が成立する。
例えば、卑わいな動作としては、瞥部、太腿、膝頭に触る、スカートをまくる、スカートのチャックをはずす、スカートの下からのぞき見する、スカートの下からビデオカメラ等で股間を撮影するなどがあり、卑わいな発言としては、通行中の女性に「パンティーちょうだい」、 「おっぱい触らせて」などと申し向けるなどがある。

なお、スカートの下からのぞき見したり、ビデオカメラ等で股間を撮影する行為が、便所等の人が通常衣服をつけないでいるような場所でなされた場合は、軽犯罪法第1条第23号が適用され、本条違反は成立しない。」

ジュリスト261号(1962年11月1日号)
座談会 ぐれん隊防止条例

「平野竜一(東京大学教授)さっきの続きですが、刑罰法規の場合に、自然犯といいますか、個人の法益を保護するというような場合ですと、やはり法律でやるのが建前で、条例の罰則というのはこういう都民の不愉快感というような法益を保護するものなので、実質的に条例の罰則の限界があるように思います。軽犯罪法というのはそういうものを規定していますが、軽犯罪法とこういう条例とは競合しうるわけでその場合には、今おっしゃったように真正面から軽犯罪の刑を重くするとか低くするとかいうのでない限り、競合する部分があってもいいんじゃないかと思いますが、しかしほんとうの刑法犯ということになると、条例できめるのは工合が悪い。」

※参考