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薬院法律事務所

刑事弁護

盗撮(迷惑行為防止条例違反)の捜査では映像データ復元がなされます


2019年08月16日刑事弁護

盗撮(迷惑防止条例違反)で犯人性が争われた事件です。映像データの復元がなされており、参考になります。差し戻し前の一審では「卑わいな言動」該当性も争われています。

平成29年3月9日/宮崎地方裁判所/刑事部/判決/平成28年(わ)52号

【■28251134
宮崎地方裁判所
平成28年(わ)第52号
平成29年03月09日

被告人
氏名 Y
生年月日 昭和42年(以下略)
本籍 (省略)
住居 (住所略)
職業 地方公務員
弁護人 湯治克治(私選)

主文
被告人を罰金30万円に処する。
その罰金を完納することができないときは、金5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

理由
(犯罪事実)
被告人は、平成24年5月18日午後7時55分頃から同日午後8時13分頃までの間、宮崎県(以下略)所在のJR・B駅から(住所略)所在のJR・C駅に至るまでの間を走行中の電車内において、乗客のA(当時●●歳)に対し、動画撮影状態にした携帯電話機で同女の胸部、大腿部等を合計約14分51秒にわたって断続的に合計5回秘匿撮影し、もって公共の乗物において、人に対し、卑わいで不安等又は著しいしゅう恥を覚えさせるような言動をした。】

【2 ところで、本件は、被告人が、平成25年5月17日、C駅のエスカレーターで女性のスカートの中を盗撮した嫌疑により逮捕された際、所持していた公用携帯電話機(以下「本件携帯電話機」という。)の差押えを受け、捜査機関が同携帯電話機の内部メモリ内の削除データにつき富士通株式会社に依頼するなどして復元、解析処理を行った結果、5個の動画ファイル(以下「本件各動画」という。)が得られたことを端緒に発覚したものである。
そして、本件各動画には、A(以下「被害者」という。)が夜間電車内の座席に座った状態で、中国語のテキストを読んだり、仮眠を取ったりしている様子が撮影されていたところ、本件各動画の解析結果によれば、本件各動画のmvhdボックスに記録された本件各動画の撮影時刻は、平成24年5月18日午後7時55分頃から同日午後8時13分頃までであったというのである。被害者は、平成24年4月に入学した宮崎県T市内の大学への通学のために、JR・T駅からJR・aa駅に向かうJR・ab線(以下「本件路線」という。)を利用しており、金曜日である同日はJR・T駅を午後7時9分に発車する下り特急ac号に乗車していたというのであるから、上記解析結果を前提とすれば、本件各動画は、被害者が大学から帰宅する際に下り特急ac号に乗車した際に撮影されたと考えるのが自然で合理的である。他方で、被告人は、平成24年4月1日に宮崎県県土整備部ad事務所(以下「ad事務所」という。)総務課管理担当リーダーに着任し、自宅の最寄り駅であるJR・C駅から勤務先の最寄り駅であるJR・ae駅まで本件路線を利用して通勤しており、その際、夜間や休日における外部からの緊急連絡等に対応するために本件携帯電話機を自宅に持ち帰るなどして管理、使用していたというのである。そして、平成24年5月18日の被告人の勤務状況によれば、被告人が上記のような本件各動画の撮影時刻に下り特急ac号に乗車可能であったと認められるから、被告人には、本件携帯電話機を用いて下り特急ac号に乗車した際に、被害者を秘匿撮影するという犯行を行う機会が十分にあったということができる。他方で、被告人以外のad事務所の職員を含む第三者が、あえて本件携帯電話機を使用して本件各動画を撮影した上で削除しておくという具体的な可能性は想定し難いことも考慮すると、被告人は本件各動画を撮影した犯人と推認することができる。
もっとも、本件各動画が撮影された際、被害者自身は撮影されていることを全く認識していなかったというのであるし、目撃者のほか防犯カメラ映像等の客観的な証拠も存在しない。そうだとすると、上記のような推認に基づき被告人が本件犯人であると認定するためには、本件各動画が本件携帯電話機内に保存されたものと同一であること、すなわち、本件携帯電話機の内部メモリ内の削除ファイルの復元、解析の措置が適切に実施され、本件各動画の撮影時刻の点も含め、混同や誤復元が生じていないことが前提となっているといえる。
3 本件の審理経過を見ると、差戻し前の一審裁判所は、平成27年7月15日、本件各動画は、被告人が別件で逮捕された際に所持していて差し押さえられた本件携帯電話機から抽出されたものであると認定した上で、おおむね上記と同様の推認過程により被告人の犯人性を肯認し、被告人に対して罰金50万円に処するとの有罪判決を言い渡した。
これに対し、同月17日、弁護人が控訴を申し立てたところ、差戻し前の控訴審裁判所は、平成28年2月25日、上記2と同様の証拠構造を前提に、本件携帯電話機の動画ファイルの管理、保存等についての仕様、本件において実施されたダンプ処理の具体的手法、信頼性、ありうる誤復元の生じ方や程度、その頻度、別データの混入の可能性の有無等については、何ら具体的に立証されていないなどと指摘して、本件各動画が本件携帯電話機内に保存されたものと同内容のものであるか否かについて更に審理を尽くさせるために差戻し前一審判決を破棄して、本件を当裁判所に差し戻したものである。

当裁判所は、当審での証拠調べの結果を踏まえて、本件各動画の復元、解析過程の信頼性を検討した上で、判示のとおりの被告人の犯人性を認定したので、以下その理由を補足して説明する。】