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薬院法律事務所

企業法務

職員用の浴室に、異性の管理職が立ち入ったことをセクハラにならないとした事例


2019年01月18日労働事件

女性管理職が、男性職員用の浴室に立ち入って着替え中の職員の姿を見た事例。

職務上の正当な目的のために、その目的に沿って必要な範囲で、かつ、基本的には相当な方法において行われた行為としてセクハラにならないとされています。男女が逆の場合でも同じ判決が出たのか・・・疑問が残る裁判例です。

平成17年6月7日/大阪高等裁判所/第4民事部/判決/平成16年(ネ)3055号
労働判例908号72頁
労働経済判例速報1936号27頁

「乙山は,労務や庁舎管理の責任を有する総務課の課長代理として,防犯パトロールの一環として本件浴室の状況を確認するために扉を開けたものであり,その際,浴室内に人がいるとは考えなかったため,ノックをしないで開けたにすぎない。また,2回目に扉を開けた際も,通常の勤務時間中に浴室が使用された形跡が認められたことから,服務管理の観点から,再度,浴室の状況を確認しようとしたものであって,その際には,本件浴室の扉の表示が「空室」となっていることを確認し,ノックをした上で扉を開けている。また,その際,浴室内で乙山が被控訴人に対してとった行動も,勤務時間内かどうかを確認するために話しかけたにすぎず,目的も正当であり,そのために必要な範囲の質問をしたにすぎない。
たしかに,職務の一環であったとはいえ,女性である乙山が,男性用浴室の扉をノックもしないで開けたことは,礼儀に反する不用意な行動であるといえる。浴室内に人がいないと考えていたとしても,相当であるとはいえないであろう。また,そのときの言葉遣いに必ずしも適切でない部分があった可能性がなくはない(ただし,被控訴人がいうようなものであったか否かまでは認定できない。)。
しかし,上記認定によれば,乙山の行為は,職務上の正当な目的のために,その目的に沿って必要な範囲で,かつ,基本的には相当な方法において行われた行為であるというべきであって,これを国家賠償法上違法であるとか,雇用契約上の義務違反といえるセクシュアル・ハラスメントに当たるというような評価をすることはできない。
本件においては,たまたま被控訴人が本件浴室内にいたため,乙山の行為の礼儀に反する側面や言葉遣いによって不愉快な思いをさせたことを否定できないとしても,上記のとおり,そのことから直ちに,乙山の行為を違法であるとすることはできない。」

 

※事案の内容

「以下の事実は,当事者間に争いがない。
(1) 被控訴人と乙山は,いずれも平成13年5月当時,郵政事業庁の職員として本件郵便局に勤務していた。被控訴人は当時47歳の男性であり,乙山は42歳の女性である。被控訴人は,郵便課主任として郵便物を配達する郵便外務事務に従事し,乙山は,総務課課長代理として,総務課長を補佐し,職員の人事,労務,庁舎管理などの事務を担当していた。」

「(1) 認定事実
乙山が本件浴室の扉を開けた際の行為の態様については,当裁判所は,後記証拠に基づき,以下の事実を認める。
ア 被控訴人は,平成13年5月30日,本件郵便局において,午前8時から午後4時45分までの日勤勤務に就いていたが,当日の配達業務が早く終わったため,1時間の年次有給休暇を取得して午後3時45分に勤務を終えた。勤務終了後,被控訴人は,本件浴室の浴槽を使用してシャワーを浴び,同日午後4時ころ,浴槽を出て,本件浴室内の脱衣室に立っていた。(〈証拠・人証略〉)
イ 乙山は,本件郵便局の総務課課長代理としての管理職の職務として,防犯パトロールのため,平成13年5月30日午後4時ころ,本件浴室内に人がいるとは考えず,ノックをしないで本件浴室の扉を少し開けた。その際,乙山は,浴室内の電灯が点灯され,石鹸のにおいがすることに気が付き,浴室が使用されているかもしれないと考えて本件浴室の扉をいったん閉めた。乙山は,本件浴室の扉の表示が「空室」となっていることを確認した上で,勤務時間中に本件浴室が職員によって使用されたことを疑い,ノックをした上で,再度,本件浴室の扉を開けた。乙山は,2度目に本件浴室の扉を開けた際に,被控訴人が私服を着用して脱衣室内にいることを認めた。そこで,乙山は,被控訴人が勤務時間中に職務を怠って入浴していることを疑い,被控訴人に対し,なぜ風呂に入っているのかを問いかけたが,被控訴人は,乙山の方を振り返ることもせず,返事もしなかった。
そのため,乙山は,被控訴人の勤務時間を自ら確認するため,郵便課の事務室に行き,郵便課長に対し,本件浴室を被控訴人が使用していたことを報告するとともに被控訴人の勤務時間を確認した。乙山は,郵便課長から,被控訴人が前記のとおり1時間の休暇をとり,勤務時間外であることを確認した上で,総務課の事務室に戻り,A総務課長に対し,被控訴人が浴室を使用していたが,1時間の年次有給休暇をとっていて勤務時間外であることを確認したと報告した。(〈証拠・人証略〉)」