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薬院法律事務所

一般民事

裁判例紹介「無罪判決がなされた痴漢事件について、民事裁判で痴漢行為を認定された事例」


2021年09月18日読書メモ

東京地方裁判所平成14年9月3日判決です。

加藤新太郎編『民事事実認定と立証活動 第Ⅱ巻』(判例タイムズ社,2009年10月)91頁以下で、裁判長であった須藤典明判事が当時の判断理由を語っています。

その内容を見たときは「なるほど~」と思ったのですが…一方で、原告から見たら、無罪になったのに犯人認定されてたまらなかったろうなと思いました。

須藤判事としては濡れ衣を着せられた女子高生を守ったと感じているようなのでまたそこがなんとも…須藤判事はほとんど刑事事件担当されていないので、そういう感覚になるのかなと思っています。

なお、上掲書の記述によれば、この判決は控訴されたものの、控訴棄却で確定しているそうです。

 

東京地方裁判所平成14年9月3日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail4?id=5784

【8 まとめ
(1) これまでのところを総合的に勘案して判断すると,本件電車内で原告から痴漢の被害を受けたとする被告Aの供述は,全体としてみれば信用性の高いものであり,供述内容の主要な部分が真実であることをうかがわせるものであるのに対して,これを全面的に否定している原告の一連の供述は,いずれも場当たりで一貫性がなく,かなり不自然なものであるといわざるをえず,これを信頼することはできない。したがって,本件電車内で原告から痴漢行為を受けたとする被告Aの供述内容が真実であると認められる。
(2) そうすると,原告は,本件電車内で被告Aに対して痴漢行為をしていたものと認められるから,原告の本件請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないことが明らかである。】

★加藤新太郎編『民事事実認定と立証活動 第Ⅱ巻』(判例タイムズ社,2009年10月)93頁

【須藤 刑事事件の記録を見ると,被害者の告発を前提にしているので,被害者の供述調書はあるものの,加害者といわれる青年の行動などについては必ずしも十分な捜査が行われておらず, しかも,刑事事件の法廷では少女が沈黙してしまったので,供述証拠はないも同然でした。刑事事件と,その後の民事事件とは目的も違いますし,ある程度時間が経ったことで明らかになることもあると思います。例えば,パソコンを見に行くために朝早い電車に乗っていたといっているのですが,補充尋問で聞いてみると,青年は,保釈後にパソコンを買ったかというと買っていなかったとか,そもそも警察に突き出されて, しばらくは否認ではなく黙秘していたとか,最初は座っていたのに東京に近づく途中で車両を乗り換えてドアの付近に立つようになったとか,ですね。いっていることが直ちには信用できないわけです。それに対して,少女の方は,刑事事件ではほとんど供述できなかったのですが,民事事件ではきちんと話ができて,ある程度信用できる状況になってきたわけですね。】

94頁

【須藤 この事件については,実は週刊誌や2ちゃんねるなどでの少女へのバッシングが極めて悪質でしたし,結果いかんにかかわらず少女や青年のプライバシーを保護する必要があったものですから,所在尋問のような形で,事実上非公開で尋問をしました。尋問時間は十分にとっておいて,実際には2人で2時間近くかけて尋問しました。週刊誌などでは,刑事事件と民事事件で証拠は同じなのに結論が違うなどと書かれましたが,証拠方法(登場人物)は同じでも,証拠資料(供述内容)は異なりますから,証拠は違うのですね。週刊誌の記事を読んでみると,判決文を読んでいれば当然分かるようなことも間違っていて,がっかりしました。ちなみに,痴漢行為はあったとして青年の損害賠償請求を棄却したので控訴されたのですが,控訴棄却になっています。】