静止画ダウンロード違法化に対する意見
2019年02月16日その他
パブリックコメントに意見を出しています。
B:ダウンロード違法化の対象範囲の見直しに、強く反対します。
ダウンロード違法化の対象範囲拡大は、1文化の発展を著しく阻害し、2著作者の利益にもつながらず、3国民のインターネット利用を広範に制約し、4インターネットの利用に対する監視を容易にします。
1ダウンロード違法化は、文化の発展を著しく阻害します。
あらゆる文化は過去の作品積み重ねの上に成り立っています。どの作家に聞いても、過去の作品を一切見たことがないという人はいないでしょう。幅広く過去の作品を収集し、そこに自らの考えを交えていくことで新たな文化は生まれています。そのような情報を取り入れていく過程において、「金を払わないで静止画をダウンロードしたやつは処罰する」という規範を入れ込めば、大半は金を払わないで良い娯楽に流れるだけです。そのように情報が統制された環境では、新たな作品の出現は望めません。何故、図書館が作られるようになったのかということを考えれば、多くの情報に無償で触れられる環境があるということが文化の発展には不可欠であることは当然分かることだと思います。
漫画家のうめざわしゅん先生の作品で『かいぞくたちのいるところ』というものがあります。知的財産権が高度に保護されるようになった社会で文化が停滞することを描いたものです。無償でインターネットに公開されていますので、是非ご覧になっていただきたいと思います。
2著作者の利益にもつながりません
ダウンロード違法化の対象範囲を拡大すれば、「公式」の作品にその分お金が支払われて著作者が潤うことになる、そう考えられているようですが、事実かどうか疑問があります。まだ漫画村などの海賊版サイトが閉鎖されたことによる売り上げの変動に関する調査もされていませんし、仮に短期的に多少の増加が認められたとしても、長期的に増加するとは思えません。
昔は、みんな雑誌を立ち読みや回し読みして単行本を買っていました。まず、その作品に人生の貴重な時間を割くだけの価値のあるものだということを知ってもらわないといけません。それなのに、「お金を出さない人は罰するぞ」とするのでは、最初から敬遠されるだけで将来の漫画・アニメのファンを自ら遠ざけることになります。アニメや漫画が世界で愛されるようになったのも、海賊版経由という人も多いでしょう。最近も、中国で『となりのトトロ』が初公開され、3日で興収15億円突破というニュースがありました。面白いかどうかわからないものに時間とお金を出すのは、私のようにもう漫画に価値を見いだしている人だけです(私は年間100万円以上漫画を購入しています)。仮にごく短期的に電子配信が売れるとしても、将来的には漫画市場自体が狭まります。
情報の受け手を処罰していこうという発想は、むしろ作品に近寄る人自体を減らしていきます。音楽や動画のダウンロード違法化の結果検証から始めて、相当慎重に取り組むべきテーマでしょう。
さらに、今回の規制について、実際にクリエイターから匿名アンケートをとるといったことがなされた形跡もありません。著作者の意向も無視して、名目としてクリエイターの保護を挙げているのではないかと考えざるを得ません。
3国民のインターネット利用行為を広範に制約します
インターネット上には、著作者その人や、その許諾を受けてアップロードされた情報もありますが、無許諾でアップロードされた情報も数多く存在いたします。その区別は容易につけられる場合もありますが、多くの場合は外部からは分かりません。
しかし、動画・音楽以外のダウンロード違法化がなされれば、国民はインターネットを使うだけで違法な行為をするということになります。インターネット上には無許諾でアップロードされた情報が数多く存在することは公知の事実なので、裁判実務では、公式のものと誤解する特段の事情がない限り「違法にアップロードされたものかもしれないのにダウンロードした」という「未必の故意」があるとされるでしょう。
4インターネットの利用行為に対する監視を容易にするものです
閲覧だけであれば違法にしないという話も出ていますが、アクセスした時点でキャッシュはされているのであり、外部からその区別はつけられません。サイトにアクセスした行為のみで、捜査を行う『嫌疑』は十分生じます。
「本中間まとめでは、対象範囲の拡大に当たっても、刑事当局において慎重な配慮・対応を行うことが望まれるとされています。」という記載がありますが、これは刑事当局の判断により「お目こぼし」をするという発想であり、法治主義ではありません。また、処罰を受けずとも、捜査を受けるだけで衝撃は大きいです。