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薬院法律事務所

企業法務

従業員同士の喧嘩と会社の責任


2018年07月20日労働事件

会社の従業員同士で喧嘩があった場合に、怪我をした従業員が会社に損害賠償を請求するには3つのルートがあります。

1 労働基準法に基づく労災補償請求(労働基準法75条以下)
2 安全配慮義務違反(民法415条)
3 使用者責任(民法715条)

1については、労災保険法でカバーされます。労働者は、災害の発生が「業務上」のものであることを立証すれば、使用者に故意・過失がなくとも補償を請求することができます。但し、慰謝料の請求は出来ませんし、金額も限定されています。

2については、1の要件に加えて(厳密には不要かも)、使用者に安全配慮義務違反が認められる必要があります。これが認められれば慰謝料も請求できますし、交通事故などと同様に賠償請求が出来ます。しかし、安全配慮義務違反の立証が必要になりますし、過失相殺をされる可能性があります。

3については、1とは実は要件が違います。1と2は被害者が業務上負傷したことを理由とする請求ですが、3は、加害者の行為が「事業の執行につき」なされたことを要件とします。

暴行については、業務との関連性が特に問題になります。一般に使用者責任は事業の執行の外観があれば良いとされますが、暴行については外観云々を議論するのは意味がないと言われ、暴行と事業の執行行為の関連性が吟味されます。「事業の執行を契機とし、これと密接な関連を有するときは、事業の執行について加えた損害にあたる」とした最高裁判例があります(最高裁昭和44年11月18日民集23巻11号2079頁)。

こういった裁判例もあります。
「被用者の暴力行為について使用者に民法七一五条の使用者責任が認められるためには、少なくとも当該行為が使用者の事業の全部又は一部を遂行する過程でなされたものであることが必要不可欠の要件であると解するのが相当であるところ、前認定事実によれば、被告松谷及び被告豊商事の氏名不詳の従業員二名の原告重則に対する暴力行為は、被告松谷が被告豊商事主催の行事終了後の自由時間中に同僚と私的な宴会を催していた際、フロントへ右宴会用のビールを注文に赴いたことが契機となつて発生したものであつて、被告豊商事の事業を遂行する過程でなされたものではないから、被告豊商事は本件事故について使用者責任を負わないものというべきである。(名古屋地判昭和58・11.30判タ520号184頁(27424156])。 」