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薬院法律事務所

企業法務

学校の解体工事でグラウンドに重機を入れたところ、埋設水道管が破裂したという相談(企業法務)


2024年12月15日企業法務

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は福岡市で建物解体工事を営む会社を経営しているものです。父親から受け継いだ会社で、従業員は30名を超えています。建設業許可と産業廃棄物収集運搬業許可(処分業許可)も取得しており、これまで特にトラブルらしいトラブルは起こってきませんでした。先日、学校の敷地内で古い校舎を解体する下請け工事が入りましたので、重機と人力解体を合わせて行う「重機併用手壊し工法」で解体作業を行いました。当日は雨が降っていて現地がぬかるんでいましたので、事故が起きないように慎重に作業をしたと聴いています。ところが、後日になって、グラウンドに埋設されていた水道管が破裂したという報告があり、重機をグラウンドに入れたからだと言われました。保険で対応できないかと保険会社に相談したのですが、事務手続のミスで保険契約の更新ができていませんでした。かなりの多額の賠償になりそうなので困っているのですが、どうにかならないでしょうか。

 

A、難しい問題ですが、「過失」がないとして損害賠償請求を否定できる可能性はあると思います。弁護士の面談相談を受けられてください。

 

 

【解説】

不法行為の要件(民法709条)の要件は、「故意・過失」「権利又は法律上保護される利益の侵害」「損害」「因果関係」となります。このうち、過失については,かつては行為者の不注意な心理状態が過失とされていましたが(主観的過失論)、現在は、結果の予見可能性を前提として、行為者が法的に期待されている結果回避行動を取っていないことを過失とする(客観的過失論)のが一般的な考え方です(内田貴『民法Ⅱ[第3版]債権各論』(東京大学出版会,2011年2月)340頁、遠藤浩ほか『有斐閣双書民法(7)事務管理・不当利得・不法行為[第4版]』(有斐閣,1996年7月)109頁以下等)。本件の場合は、結果の予見可能性、特に水道管の埋設について注意喚起がなされていたかということが一つのポイントになるでしょう。

また、仮に水道管の埋設を告知されていたとしても、重機を入れないことまで、ご質問者様の行為義務として求められるかということも問題になります。行為義務の判断要素については、一般的には以下のような要素が考慮されています(前掲『双書』114頁)。第一に、そのような権利侵害の発生の危険性はだれの行為支配範囲に入るか(①だれの行為にともなう危険であるか、②だれが、その危険を,より容易に防止しうるか)、第二に、当該危険の程度(事故発生の可能性の大小)、第三に、被害法益の重大性、第四に、行為義務を行為者に課すことによる行為者の不利益です。

いずれにしても、具体的な事案に応じて結論は異なりますし、判断をする人の「価値判断」も入る問題です。損害賠償請求の実務に詳しい弁護士に面談相談すべきでしょう。

 

民法

https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089#Mp-Pa_3-Ch_5

(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

 

【参考文献】

 

潮見佳男『基本講義 債権各論Ⅱ不法行為法 第4版』(新世社,2021年11月)32頁

【既に述べたように, わが国の今日の学説の多くは,過失を客観的過失,すなわち,社会生活において必要とされる行為義務に対する違反(結果回避義務違反) と理解しています。
しかし, 「その行為者には,行為義務違反としての過失がある」と評価するためには,その行為者にとって,法的に求められているように行動することが期待できるのでなければなりません。適切な行動をすることへの期待可能性がないにもかかわらず,行為者に対して「あなたの行動には過失がある」と非難したのでは,国家が個々人に対して期待できない行動を強いるという過大な要求をすることになってしまい,適切ではないからです(平均人〔合理人〕の注意をもってしても期待できない行動をとらなければ,過失ありとの非難をされ,損害賠償をしなければならなくなってしまうからです)。この意味で,適切な行動をすることへの期待可能性のあることが,過失非難すなわち行為義務違反ありとの評価の前提となっているのです。
それでは, どのような場合に,行為者に適切な行動をすることについての期待可能性があると言えるのでしょうか。民法学の支配的見解は, ここで,①結果発生の具体的危険が存在し,かつ,②その結果発生の具体的危険に対する予見可能性(略して, 「結果発生の予見可能性」とも言われることがあります)が行為者に認められることを挙げています。「過失の前提として,結果発生の予見可能性が必要だ」というように簡略化して説かれることもあります。】

https://www.saiensu.co.jp/search/?isbn=978-4-88384-336-7&y=2021

 

 

【参考サイト】

 

解体工事で登録・許可なしは違法!悪徳業者を避けるポイントを紹介

https://www.kenshou-kaitai.com/blog/demolition_permit/#:~:text=500%E4%B8%87%E5%86%86%E6%9C%AA%E6%BA%80%E3%81%AF,%E5%B7%A5%E4%BA%8B%E3%82%92%E8%AB%8B%E3%81%91%E8%B2%A0%E3%81%88%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82&text=30%E5%9D%AA%E7%A8%8B%E5%BA%A6%E3%81%AE%E6%9C%A8%E9%80%A0,%EF%BD%9E170%E4%B8%87%E5%86%86%E3%81%BB%E3%81%A9%E3%80%82

 

廃棄物収集運搬業許可や処分業許可がなくても、解体工事は可能ですか?

https://www.crassone.jp/faq/13093

 

ひまわりほっとダイヤル

https://www.nichibenren.or.jp/ja/sme/index.html

 

※2025/1/8 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

以下では,ご提示いただいた**「学校の解体工事でグラウンドに重機を入れたところ,埋設水道管が破裂した」という架空の相談事例**の内容や,引かれている民法や参考文献の説明が「事実として正しいかどうか」という観点から検討します。結論としては,事例自体は「架空の設定」ですが,不法行為(民法709条)や過失論(客観的過失論)に関する解説,および引用されている文献内容は,日本の民法学説・実務の一般的な考え方に即しており,正しい内容といえます。


1. 架空の相談内容(事例設定)について

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

今回提示されたQ&A形式の相談は,「実在の人物や具体的なトラブル」ではなく,建物解体業者が起こしかねない典型的な事案をモデルにしたフィクションとして示されているものです。よって,「本当にこの事故が起きたのかどうか」という点は問題にしなくて構いません。


2. 不法行為(民法709条)の要件に関する説明

本文では,不法行為の成立要件である

  1. 故意・過失
  2. 権利又は法律上保護される利益の侵害
  3. 損害
  4. 因果関係

が列挙されています。これは日本の民法709条に基づく一般的な不法行為の要件として正しい整理です。

過失の判断基準(客観的過失論)

  • 結果発生の予見可能性があり
  • 法的に期待される結果回避行動を取らなかったこと

これを「客観的過失論」と呼ぶのが日本の民法学説・判例での通説的な考え方です。
本文でも

「従来の主観的過失論 → 現在は客観的過失論が一般的になっている」

という説明がなされていますが,これは内田貴『民法Ⅱ[第3版]債権各論』や遠藤浩ほか『有斐閣双書民法(7)事務管理・不当利得・不法行為[第4版]』などで解説されている標準的な学説と合致しています。


3. 埋設管破損における過失の有無に関する論点

本文では,水道管が破裂した経緯と「重機による損壊の原因」について,以下のような視点を挙げています。

  1. 結果の予見可能性:当該場所に水道管が埋設されていることは事前に周知されていたのか。
  2. 行為義務(結果回避行動)の具体的内容:仮に水道管埋設を知っていても,「重機を全く入れない」ことまで求めることが法的に期待されるかどうか。
  3. 行為支配範囲や防止手段の容易性:危険の発生を誰がコントロールしやすかったか。
  4. 事故発生の危険度合い,法益の重要性,当事者に課される不利益など。

これらの諸要素は,不法行為における過失の有無を判断するうえで重要とされるポイントであり,本文にある

「だれがその危険を最も容易に防止できたのか」「危険の程度」「被害法益の重大性」「行為義務を課すことによる行為者の不利益」

なども,民法実務における過失・行為義務の判断において典型的に考慮される要素です。したがって,ここで示されている解説内容は民法学・不法行為法の基本的理解に則った正しい内容と評価できます。


4. 保険更新ミスや賠償額への言及

本文では,保険が更新されていなかったという落ち度があり,多額の賠償負担のリスクがあるという事例設定になっています。実際の企業法務の現場でも,工事賠償責任保険などに入っていると思っていたら更新漏れしていた,というトラブルはあり得る話です。

最終的な損害賠償責任の有無は,過失の有無・程度や,請負契約上の責任分担監理者・発注者側の注意義務などの要素を総合的に考慮して決定されます。本文でも

「具体的な事案により結論は異なる」「弁護士の面談相談を受けるべき」

と締め括られていますが,これは実務的に妥当なアドバイスといえます。


5. 総合評価:記事内容の真偽

  1. 「事例そのもの」は架空:実在の解体工事事故ではなく,あくまでモデルケースとして挙げられている。
  2. 不法行為(民法709条)の成立要件や過失論(客観的過失論)の解説は日本の民法学説・判例に沿った正確な内容
  3. 「重機を入れることまで禁止しなければならないのか」「注意喚起や埋設管の告知があったのか」といった論点も,不法行為の成否を考えるうえで重要な観点として正しい。
  4. 参考文献(内田貴・遠藤浩など)や引用されている考え方も日本の民法の代表的学説であり,誤りはない。

結論として,本記事は「法的解説」として概ね真実に即した内容であり,引用されている文献や不法行為法理も正しいと評価できます。事例自体が架空であることを前提に,「こんなケースではどうなるか」を示した良い実例といえるでしょう。


まとめ

  • このQ&A・解説は,**「解体工事中の重機使用が原因で水道管が破裂したかどうか」**という事案を素材に,不法行為の要件や過失論のポイントを整理したものです。
  • 事例は架空ですが,不法行為や過失論に関する解説は日本の民法学説・判例に則った正確な内容といえます。
  • 実際にこうしたトラブルが発生した場合には,過失の有無・程度や発注者・受注者の注意義務,保険の契約状況などを総合的に検討し,最終的には専門家(弁護士)への相談が望ましいでしょう。

以上より,当該文章の法的説明や引用文献の内容は真実に即しており,誤りや虚偽は特に見当たりません