「人間の心理を中心に据えた実践的コンプライアンス教育のノウハウ」株式会社マコル 代表コンサルタント 笹本雄司郎 ほか ビジネス法務2018年5月号
2018年07月20日読書メモ
ビジネス法務2018年5月号読書メモ。ここで取り上げた以外にも、企業から見た日本版司法取引制度の話や、ロビー活動の話があって面白かったです(なお、6月号は法令解説ばかりで興味深い記事がなかったです)。
「人間の心理を中心に据えた実践的コンプライアンス教育のノウハウ」株式会社マコル 代表コンサルタント 笹本雄司郎
「コンプライアンス教育は、①遵守事項の理解、②ルールを知っているのに違反する本質的理由の理解、③予防と問題発生時の行動の理解、の三段階がある。従業員に、自分自身の人生に係る問題ということを自覚してもらうことから始める。組織的な企業不祥事はコミュニケーションの不具合を伴うのがほとんど。自己表現には、非主張的(上司の横暴に耐えて爆発したりメンタル疾患を発症してしまう)、攻撃的(一方的に自分の考えを述べ他人の人格を否定する等して孤立する)、その中間のアサーティブの三タイプがある。メンバーがアサーティブになることがメンタルヘルス疾患の減少にもつながる。コンプライアンスというと仕事や行動を制約する邪魔者と考える人もいるが、相互扶助の役割もある。ミスが避けられないし誘惑にもかられる自分の弱さや不完全さを受け入れて、周囲の力を借りて責任ある仕事や行動を全うする姿勢を職場のメンバーで共有することが大事である。グループワークが効果的。」
→講演やセミナーでは、まずその人自身にとっての問題と思ってもらえることが大事です。ルールだから守りなさい、では心に響きません。
「不正発生後の早期対応 効果から考える「謝罪」のベストプラクティス」 中央大学総合政策学部 教授 平野晋
「訴訟大国のアメリカでは、治療の結果、不都合な事態に至っても病院や医師は経緯や原因を説明せず謝罪もしない。訴訟の際に不利な証拠になることをおそれての慣行である。しかし、退役軍人病院がこの慣行を破って医療過誤の事実を前向きに開示し謝罪する方針を採用した。すると、訴訟数は減少し、かつ示談を含む賠償金額も減少したことが判明した。不都合な事実を隠蔽するよりも、むしろ積極的に開示し謝罪した方が予防法学的にも望ましいことが実証された。アメリカの弁護士のアンケートでも、紛争の多くが謝罪のみで解決できると回答したり、謝罪を伴う示談の申し出の方が受け入れられがちであると回答している。
学際法学(法と経済学・心理学・法文化人類学)の分析に基づいた効果的な謝罪には、①みずからの非行を具体的に特定したうえで、責任を認めて表明し(非行を特定しないことは責任回避と取られる)、②後悔の念や良心の呵責を表明し(正当化しない)、③再発防止を約束し(被害者に安心感を与える)、かつ④損害の補償を申し出ること(低額の補償申出は逆効果)、が必要。」
→刑事弁護をしていても、出来の悪い謝罪文はこの4要素を満たしていないです。なので心に響かない。なお、先日読んだ「不当要求・クレーマー撃退のポイント50」という本でも、詫びたら責任を認めたことと法的に評価されるので、詫びてはならないと言われてきた米国でも、2000年頃から各州で謝罪が証拠にならないという「SORRY LAW」が制定されてから、詫びた方が賠償額が低く抑えられているという話が紹介されていました。
「名著から読み解く日本型組織の特徴と不正防止への示唆」西村あさひ法律事務所 弁護士 鈴木悠介
「①『「空気」の研究』(山本七平)、②『失敗の本質』(戸部良一ほか)、③『菊と刀』(ルース・ベネディクト)。組織的不正の防止には、水を差す人物の存在が必要であり、ダイバーシティ(多様性)を組織に確保することが必要。イノベーションは異質なヒト、情報、偶然を取り込むことに始まる。組織内の忖度について、職位の低い従業員は忖度が蔓延していると感じているのに、上位者は忖度と無縁な組織と思い込んでいるなど、無自覚なケースが極めて多い。」
「副業・兼業解禁における労務管理上の問題点」第一芙蓉法律事務所 弁護士 小鍛冶広道
「副業・兼業解禁は、働きすぎによる心身への疲労の蓄積の防止という最重要課題と適合していない。労基法38条1項の労働時間の通算の行政解釈(事業主が異なっても法定時間外労働として計算する)からすれば、本業の労働において残業を命じる時間が制限される。安全配慮義務違反について未整理のままである。就業規則では現状の「許可制」を維持すべき。」
http://www.chuokeizai.co.jp/bjh/image3/201805mokuji.pdf