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薬院法律事務所

ご相談後の流れ(身柄拘束事件)


1.まず接見に出向き、事件の詳細、身上経歴をお伺いいたします。

身柄拘束事件については、まずご家族からの接見依頼があり、私が警察署に出向くというパターンになります。
逮捕されているということは、一定の嫌疑を裏付ける証拠があり、かつ、逃亡や証拠隠滅を疑われる事情があったということですから、その根拠が何かを検討します。急いで行動しないといけないことが多いので、ご家族の方にはわかっていることなどをまとめてもらい、それを踏まえて接見するというのが基本的な対応になります。

また、接見後に速やかに今後の方針について協議ができるようにすることと、捕まっている方もご家族のことで心配していることが多いので、ご家族に警察署で待っていてもらうということもしばしばあります。

2.身柄解放に向けて行動します。

逮捕後、概ね72時間以内に検察官からの勾留請求がなされなければ、あるいは検察官の勾留請求を裁判官が認めず、検察官が裁判官の決定を受け入れた場合には釈放されます。そこで、弁護人としてはまず勾留請求がなされないことを目指します。

なお、現行犯逮捕の場合は、より早く釈放されることもあります。というのが、警察は、逮捕後、まず警察官が留置の必要性を検討することになっているからです。留置の必要性が認められなければ釈放されます。但し、逮捕状を取得しての逮捕の場合は、警察内部で事前に十分な検討を経ているのが通常ですので、誤認逮捕といった特別な事情がなければ警察段階での釈放は困難です。

※留置の必要性
昇任試験問題研究会編著『全訂版体系整理警察実務用語辞典 第8回全訂版』(日世社,2006年9月)291頁

【被疑者留置の要否を判断する要素
犯罪捜査規範一三○条三項は「被疑者の留置の要否を判断するに当たっては、その事案の軽重及び態様並びに逃亡、罪証隠滅、通謀等捜査上の支障の有無並びに被疑者の年齢、境遇、健康その他諸般の状況を考慮しなければならない」と規定している。
(1)通常逮捕の場合は、誤認逮捕ではないか、逮捕状の有効期間内か、逮捕手続は、適正に履践しているか、緊急逮捕の場合は、逮捕要件を充足しているか、現行犯や準現行犯逮捕の場合は、その要件に当てはまっているか、時間を経過し、緊急逮捕すべきものでないか等である。
(2)逃亡のおそれの有無については、住居、家族関係、職業関係、年齢、社会的地位、身柄引請人の有無等の身上関係、また、犯罪の軽重、前科前歴、執行猶予、余罪等の犯罪関係、被疑者の態度等である。
(3)証拠隠滅のおそれの有無は、証拠が十分確保されていない。目撃者や参考人等の取調べが終わっていない又は未逮捕の共犯者があり、通謀や証拠隠滅のおそれがある等が一応考えられる。その他諸般の事情は、高齢者(おおむね七十歳以上)か、年少者か、健康状態、被害者の感情、特に示談成立、被害回復、処罰を望まない等である。】

逮捕後、48時間以内に警察から検察官に記録が送致され、検察官は勾留の理由と必要性があると考えれば、24時間以内に裁判所に勾留請求をします。

※勾留の理由と必要性
杉山徳明ほか編著『令状請求ハンドブック〔第2版〕』(立花書房,2021年9月)99頁
【(1)勾留の理由
被疑者の勾留の実体的要件は,刑訴法207条1項に「前3条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は, その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。」と規定されているとおり, 同法60条以下の規定が準用されることとなるから,被告人の勾留の要件と同一である。
すなわち,被疑者の勾留の実体的要件は, まず,被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があることを要し(犯罪の嫌疑),かつ,①住居不定(第41問参照),②罪証隠滅のおそれ(第42問参照),③逃亡のおそれ(第43問参照), のいずれか一つに当たることである(刑訴601)。これらが「勾留の理由」である。ただし,刑訴法60条3項に定められたいわゆる軽微事件ではこれらのうち住居不定の場合に限られることとなる。
(2)勾留の必要
次に, 「勾留の必要」も実体的要件となる。刑訴法は,勾留の理由又は必要がなくなったときは,勾留を取り消さなければならないと規定していることから(刑訴871), 勾留請求の時点で勾留の必要がない場合も勾留すべきではないと解されるからである。
勾留の必要とは, 身柄を拘束して取り調べた方が効果的であるなど,捜査処分としての必要性をいうのではなく,全体的な見地から判断される勾留の相当性を意味し,被疑者を勾留することによる公益的利益と, これによって被疑者が被る不利益とを比較衡量して判断される。勾留の理由の程度が高ければ,通常は勾留の必要性も認められやすくなるが,勾留の理由はあるものの, その程度が高くない場合には,勾留の必要性が否定される可能性がある。
勾留の必要性が否定されるのは,勾留の理由の程度が低い場合に限られるものではないが,勾留の理由の程度が低くなれば,勾留の必要性がより否定されやすくなる。例えば,住居不定ではあるが,信頼の置ける確実な身柄引受人がある場合,訴訟条件を欠くため公訴提起の可能性がない場合, また,被疑者の一身上の理由や事案軽微その他の理由から勾留することが被疑者にとって苛酷であると認められる場合,罪証隠滅の現実的危険性や実効性が考えにくい場合などが問題となる。また,公訴提起すべき事案であると認められる場合であっても,逮捕中に所要の捜査を遂げて起訴できる事案は勾留の必要がないと判断されることとなる(浅香竜太・令状実務319)。
なお,比較的近時の判例として,最決平27・10・22裁集318・11は,被害額300万円の業務上横領被疑事件につき, 「本件は,被害額300万円の業務上横領という相応の犯情の重さを有する事案ではあるものの, ……罪証隠滅・逃亡の現実的可能性の程度が高い事案であるとは認められない。……勾留の必要性を認めなかった原々審の判断が不合理であるとしてこれを覆すに足りる理由があるとはいえ」ないと判示している。】

裁判所は、直接本人の言い分を聞く勾留質問手続きを経て、本人の身柄を引き続き拘束するか否かを決定します。勾留決定がされれば、引き続き10日間拘束されます。

弁護人としては、逮捕直後であれば警察官と、留置後であれば検察官と、勾留請求後であれば裁判官とそれぞれ交渉して、意見を述べます。

この意見を出す際に大事なことは、被疑事実の正確な理解と、それを立証するために収集が予定される証拠としてどのようなものがあるかということ、さらにそれを隠滅する危険性がどの程度あるのか、といったことです。これらを的確に見極めて意見書を提出することにより、勾留決定を避けられるということも少なくありません。また、この際は身元引受人がいるかも重要ですので、身元引受人からの陳述書も取得します。

※刑事訴訟法
第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。
② 前項の場合において、被疑者に弁護人の有無を尋ね、弁護人があるときは、弁護人を選任することができる旨は、これを告げることを要しない。
③ 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
④ 司法警察員は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
⑤ 第一項の時間の制限内に送致の手続をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第二百四条 検察官は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者(前条の規定により送致された被疑者を除く。)を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。但し、その時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
② 検察官は、前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
③ 検察官は、第一項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、被疑者に対し、引き続き勾留を請求された場合において貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは裁判官に対して弁護人の選任を請求することができる旨並びに裁判官に対して弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
④ 第一項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。
⑤ 前条第二項の規定は、第一項の場合にこれを準用する。


第二百五条 検察官は、第二百三条の規定により送致された被疑者を受け取つたときは、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者を受け取つた時から二十四時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければならない。
② 前項の時間の制限は、被疑者が身体を拘束された時から七十二時間を超えることができない。
③ 前二項の時間の制限内に公訴を提起したときは、勾留の請求をすることを要しない。
④ 第一項及び第二項の時間の制限内に勾留の請求又は公訴の提起をしないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

第二百六条 検察官又は司法警察員がやむを得ない事情によつて前三条の時間の制限に従うことができなかつたときは、検察官は、裁判官にその事由を疎明して、被疑者の勾留を請求することができる。
② 前項の請求を受けた裁判官は、その遅延がやむを得ない事由に基く正当なものであると認める場合でなければ、勾留状を発することができない。
第二百七条 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。
② 前項の裁判官は、勾留を請求された被疑者に被疑事件を告げる際に、被疑者に対し、弁護人を選任することができる旨及び貧困その他の事由により自ら弁護人を選任することができないときは弁護人の選任を請求することができる旨を告げなければならない。ただし、被疑者に弁護人があるときは、この限りでない。
③ 前項の規定により弁護人を選任することができる旨を告げるに当たつては、勾留された被疑者は弁護士、弁護士法人又は弁護士会を指定して弁護人の選任を申し出ることができる旨及びその申出先を教示しなければならない。
④ 第二項の規定により弁護人の選任を請求することができる旨を告げるに当たつては、弁護人の選任を請求するには資力申告書を提出しなければならない旨及びその資力が基準額以上であるときは、あらかじめ、弁護士会(第三十七条の三第二項の規定により第三十一条の二第一項の申出をすべき弁護士会をいう。)に弁護人の選任の申出をしていなければならない旨を教示しなければならない。
⑤ 裁判官は、第一項の勾留の請求を受けたときは、速やかに勾留状を発しなければならない。ただし、勾留の理由がないと認めるとき、及び前条第二項の規定により勾留状を発することができないときは、勾留状を発しないで、直ちに被疑者の釈放を命じなければならない。

3.勾留決定後も準抗告など身柄解放に努めます。

残念ながら勾留決定がなされた場合も、地方裁判所に「準抗告」という手続を行い、再考を求めます。例えば示談が成立した、とか身元引受人が確保できたといった事情の変更も考慮されます。事案によってはあえて準抗告をしないこともありますが、その場合はその理由を説明いたします。

身柄拘束期間中は、適宜接見を行い、捜査の進捗を確認して、取り調べ対応のアドバイスをいたします。

なお、ご依頼者様(逮捕されている方のご家族様)には私の携帯電話番号をお伝えいたします。担当警察官にも、示談交渉が必要であれば被害者にもお伝えします。誠心誠意対応して、ご依頼者様のご希望の結果がでるように努力いたします。

また、検察官に対して勾留延長請求をしないように働きかけ、仮に勾留延長がなされた場合は原則として準抗告等で争います。

4.検察官と交渉します。

勾留期間の満期の2日前ほどには、担当検察官は、最終的な処分(終局処分)について検討し、上司である検察官に「決裁」を申し出ます。
※検察官の決裁制度に関する近時の論文として、加藤俊司「検察庁法における「指揮監督」」佐伯仁志ほか編『山口厚先生古稀祝賀論文集』(有斐閣,2023年11月)があります。

弁護人としては、1~3までの弁護活動を踏まえて、検察官に不起訴や罰金刑、処分保留釈放といった、ご依頼者様にとって有利な終局処分ができないか交渉します。この時に重要になるのは、検察官や裁判官が書いた論文です(警察学論集や捜査研究等に掲載されています)。警察官向け書籍や検察官向け書籍を参考に、具体的な事件でどういった証拠が収集されているか想定し、起訴された場合に弁護側としてどのような活動が想定されるか、その場合に裁判官がどう判断するか、等々を検討して検察官と意見交換をします。決裁担当の検察官の目にも触れるように「意見書」という形で書面を提出することもしばしばあります。

この交渉を経て、当初は起訴するという意向だった検察官が、不起訴にするということもありますし、罪名を軽くして起訴するということもあります。

※起訴猶予に関する、元検察官による近時の論文として、城祐一郎「誌上講義(第38回)起訴猶予の弾力的運用 その功罪も含めて」(捜査研究2022年11月号59頁)があります。

5.起訴後も、継続して依頼されるか協議します。

1~4を経ても、事案によっては起訴を免れないことはあります。重大事件で示談ができなかった場合が典型です。

その場合は、起訴後の事件も私に依頼するのか、それとも別の弁護士に切り替えるのか(国選弁護人含む)、依頼者様と協議いたします。勝手に引き続き弁護人として行動して、起訴後弁護の報酬を請求するということはありません。