依頼者の人生を護るために、警察実務を研究してきました。
私は、警察官向け・検察官向けの書籍や雑誌、実務資料を継続的に収集し、捜査の進め方や判断の仕組みを研究してきました。
その理由は、依頼者から寄せられる切実な問いに、具体的に答えたいからです。
「逮捕を避けるために、いま何ができるのか。」
「逮捕された場合、報道されないか。」
逮捕を心配して相談に来られた方が、まず知りたいのは、この問いへの答えです。私は、その問いに応えられる弁護士でありたいと考えてきました。
逮捕の適法性を検討し、違法な捜査を争うことは、もちろん重要です。しかし、逮捕される前に相談に来られた方に対し、逮捕された後の法律論を説明するだけでは、十分ではありません。
警察が、どのような場合に逮捕に踏み切るのか。それを理解しなければ、逮捕を回避するための弁護活動は組み立てられない。この考え方が、私の警察実務研究の出発点です。
依頼者の人生を護るためには、その人生に大きな影響を与える警察の判断と、その過程を徹底的に知らなければならない。私は、その必要性から学び続けています。
このページの内容
1.後から争うことだけでなく、その前に護ることを考える
2.法律上の要件と、警察の具体的な判断をつなぐ
3.必要な意見を、判断される前に届ける
4.警察を理解しながら、独立した弁護士として判断する
5.争うべき点を見極め、適切な早期解決を目指す
6.刑事手続上の「成功」だけで、解決を判断しない
7.見通しと判断の理由を説明し、方針を協議する
補足:刑事“専門”と言わない3つの理由
1.後から争うことだけでなく、その前に護ることを考える
逮捕を心配される方には、仕事があり、ご家族がいて、続けてきた生活があります。「数日でも仕事を休めば、会社に事情を説明しなければならない」「子どもの世話をする人がいなくなる」「事件が報道されたら、今の仕事を続けられないかもしれない」。相談で考えるべきなのは、そのような具体的な生活の問題です。
仮に後から逮捕が違法と認められても、拘束された時間が戻るわけではありません。その間に仕事やご家族との関係に生じた影響まで、すべて元に戻せるとは限りません。
だから私は、逮捕された後に何ができるかを考えるだけでなく、逮捕される前に、そもそも身柄を拘束せずに捜査を進めてもらうために何ができるかを考えたいのです。
これは、すでに逮捕された方への弁護を軽視するという意味ではありません。逮捕後は速やかな接見や身柄解放に向けて対応します。そのうえで、相談を受けた時点でまだ生じていない不利益については、回避できる可能性を検討し、必要な働きかけをしたいと考えています。
「何か起きたら争う」だけでなく、「何か起きる前に、いま何ができるか」を考える。それが、私の弁護活動の基本にあります。
2.法律上の要件と、警察の具体的な判断をつなぐ
「逮捕できるか」と、「この事件で逮捕をするか」は、同じ問いではありません
逮捕の法律上の要件や、それに関する裁判例を知ることは、弁護活動の基礎です。しかし、その知識だけで、「この人の逮捕を避けるために、いま何をするか」という答えが出るわけではありません。
警察は何を疑い、どのような証拠を持っていると考えられるのか。なぜ、在宅のままでは捜査を進めにくいと考えるのか。逃亡や証拠隠滅の危険について、どのような事情を重視しているのか。どの段階で、誰が、何を材料として判断するのか。
そうしたことを理解して初めて、依頼者から確認するべき事情や、準備するべき資料、意見を伝える時期と相手を考えることができます。
後に違法と評価されるかという問題だけでなく、そもそも逮捕を選ばずに捜査を進めることが相当だと伝えられないか。私は、その可能性を検討するためにも、警察実務を知る必要があると考えています。
依頼者の希望を、判断に必要な事実と資料にする
「仕事があるので逮捕しないでほしい」という希望は、ご本人にとって切実です。しかし、その希望を伝えるだけでなく、身柄を拘束する必要がないと考える理由を、具体的に説明しなければなりません。
例えば、住居や勤務先、これまでの呼出しへの対応、ご家族が協力できる範囲などを確認する。捜査上問題となる証拠が何か、すでに確保されているか、ご本人がそれに影響を及ぼす現実的な可能性があるかを、把握できる範囲で検討する。そのうえで、意見書や関係資料を準備します。
警察の判断基準に照らしても、なぜこの人を逮捕する必要がないと考えるのか。その理由を説明できる形にすることを重視しています。
何を説明し、何を提出するかは、事件全体の弁護方針に関わります。ご本人と協議し、その意味と影響を確認したうえで対応します。
そのために、警察官・検察官が読む文献を調べてきました
私は、一般の法律書や判例に加え、警察官向け・検察官向けの書籍、実務雑誌、絶版となった文献も収集してきました。捜査や処分の結論だけでなく、その判断に至る過程を調べるためです。
文献に書かれたことが、どの事件にもそのまま当てはまるとは限りません。刊行時期や法改正との関係を確認し、実際の事件での対応と照らし合わせながら、理解を深めています。
文献を集めること自体が目的ではありません。相談者の問いを、現実に取り得る行動へつなげるための研究です。
3.必要な意見を、判断される前に届ける
この考え方は、逮捕に限りません。捜索、報道発表、交通事件における運転免許への影響などについても、問題が表面化してから争うだけでなく、その前の判断過程に目を向けます。
捜索について――必要性を判断するための事情を示す
自宅の捜索を心配されている場合には、その捜索で何を明らかにしようとしているのかを検討します。事案に応じて、関係資料の整理や証拠の任意提出を検討し、それでもなお捜索・差押えが必要なのかについて意見を述べます。
「捜索されても後で適法性を争えます」と説明するだけでなく、捜索の必要性について、事前に伝えられる事情がないかを考えます。
報道について――公表された後の対応だけで終わらせない
報道を心配される方にとっては、氏名や事件の情報が広まる前に何ができるかが重要です。そのため、私は、警察が報道発表をするか、どのような内容を公表するかを判断する際の考え方も研究してきました。
公表によって生じる具体的な不利益や、その事案で発表を控えるべきだと考える理由を整理し、警察に意見を伝えることを検討します。『季刊刑事弁護』に執筆した実名報道回避に関する論考も、この問題意識から取り組んだものです。
運転免許について――処分の通知より前の手続にも目を向ける
交通事件では、刑事処分だけでなく、運転免許への影響が生活や仕事に関わります。そのため、処分の通知が来てから対応を考えるだけではなく、警察における違反等登録など、それに先立つ手続にも着目します。
事故や違反について、どのような資料を基に判断されているかを確認し、必要な意見を早い段階で伝えることを検討します。
何を主張するかだけでなく、誰が判断する前に、何を届けるか。
依頼者の希望を実際の弁護活動にするためには、手続の順序と判断の仕組みまで知る必要があります。私は、そのために警察実務を研究しています。
これらは、事案に応じて検討する対応です。意見を伝えれば必ず逮捕や捜索、報道、行政処分を避けられるというものではありません。それでも、結果を待つだけではなく、その段階でできることを検討したいと考えています。
4.警察を理解しながら、独立した弁護士として判断する
警察を詳しく知ることと、警察の側に立つことは別です。
私は、警察組織の一員としてではなく、依頼者の弁護人として、警察実務を研究しています。警察・検察にはそれぞれの職責がありますが、私は、受任した事件で依頼者の権利と利益を守る立場にあります。
相手の立場や実務を理解しているからこそ、必要な説明や交渉ができると考えています。同時に、その理解は、捜査機関の判断の前提に誤りがないか、証拠や手続に問題がないかを検討するためにも使います。
事実認定や捜査手続に問題があると考える場合には、必要な主張を行います。警察の実務を知ることが、異論を控える理由になるわけではありません。
捜査機関への協力も、対立も、それ自体を目的にはしません。事実と証拠、法令、ご本人の意向を踏まえ、弁護士としての判断を示します。
警察官向け専門誌『警察公論』の「涼井警部補の事件簿」では、捜査側と弁護人側の双方から同じ事件を描いています。相手の見方を理解しながら、自分の職責に基づいて判断するという姿勢は、執筆でも大切にしています。
5.争うべき点を見極め、適切な早期解決を目指す
私は、事件が続くことによるご本人とご家族の負担を考え、適切な早期解決を重視しています。しかし、早く終わらせるために、事実と異なることを認めるよう勧めるという意味ではありません。
実際に何が起きたのか。どこに争いがあり、証拠から何が言えるのか。まず、その点を確かめます。事実関係や法律上の評価を争う必要があれば、必要な主張を行います。
取調べで説明するか、黙秘権を行使するかについても、それぞれの選択の意味と見通しを説明し、ご本人と協議します。黙秘することと、身柄解放や被害回復に向けて活動することを、二者択一にして考えるものではありません。
逮捕を避けたいという希望を、権利を諦めてもらう理由にはしません。権利を守ることと、生活への負担を減らすことの両方を考えて、方針を組み立てます。
事件を争う場合にも、その間の身柄拘束や生活上の負担を抑えるためにできることを考えます。被害回復や示談交渉を進める場合にも、事実と証拠の確認を省くことはしません。
6.刑事手続上の「成功」だけで、解決を判断しない
刑事弁護人にとっての「成功」と、依頼者の人生にとっての「成功」は、必ずしも一致しません。
不起訴や無罪を目指すことは重要です。ただし、その結果だけを見て、依頼者にとって十分な解決になったと判断することはできないと考えています。
事件が終わるまでに、仕事やご家族との生活にどのような影響が生じるのか。必要な支出を、その後の生活の中で負担できるのか。再発防止の取組みは、事件が終わった後も続けられるのか。こうしたことも、方針を考えるうえで大切です。
例えば、処分を軽くすることだけを考え、到底支払えない高額の示談金を約束してしまえば、ご本人やご家族の生活が成り立たなくなるおそれがあります。約束を守れなければ、被害者に対しても誠実な解決とはいえません。
私は、刑事弁護に加え、犯罪被害者側の代理人業務、企業法務、交通事故などの民事事件にも取り組んできました。依頼者が直面する問題を、一つの法律分野だけで切り分けないためです。
刑事事件は、人生の一部であっても、人生のすべてではありません。刑事手続の結果と、その後に続く生活の双方を見据えて、対応を考えます。
被害回復を考え、ご家族にも無理を押しつけない
被害が生じている事件では、その被害をどう受け止め、回復していくかも重要です。示談についても、相手方の意向を踏まえ、実行できる約束を検討します。事実関係に争いがある場合は、その点を確認したうえで対応を考えます。
また、ごく例外的な事案を除き、ご家族に犯罪加害に対する責任はないと考えています。ご本人を支えたいという気持ちと、怒りや不安、経済的・時間的な負担が同時にあることも踏まえ、お話を伺います。
ご協力をお願いする場合には、その理由と必要な内容を説明し、実際に協力できる範囲を相談します。ご家族への情報共有も、ご本人の意向を確認しながら進めます。
7.見通しと判断の理由を説明し、方針を協議する
相談に来られる方が必要としているのは、「大丈夫です」という言葉だけでも、考えられる最悪の事態を並べた説明だけでもないと思います。ご自身の事件がどう見られるのか、何をすれば状況が変わり得るのか、その具体的な見通しが必要です。
私は、現在分かっていること、まだ分からないこと、これから確認することを分けて説明します。どの資料や事情を根拠に見通しを立てているのか、別の対応にはどのような利点や負担があるのかも、できるだけ具体的にお伝えします。
ご希望に沿うことだけでなく、難しいこと、不利な事情、不確実な点も説明します。そのうえで、ご本人が何を大切にし、何を守りたいのかをお聞きし、方針を協議します。
「最後はご本人の選択です」と判断を丸投げするのではなく、選ぶために必要な情報と、弁護士としての判断の理由を伝えることが私の役割だと考えています。
新たな証拠や事情が分かれば、見通しと方針を見直します。最初の方針に固執するのではなく、その時点で依頼者のために何をするべきかを考え続けます。
補足:刑事“専門”と言わない3つの理由
私は、刑事弁護を業務の中心としていますが、当事務所の広告では「刑事専門」という表示を用いていません。専門性を深めることを否定しているのではなく、次の3つの理由からです。
① 依頼者の問題を、刑事手続だけで切り分けたくないため
刑事事件に伴う仕事、ご家族、損害賠償などの問題を、「刑事手続の外のことだから関係がない」と切り捨てることはしたくありません。
受任する業務の範囲を確認しながらも、依頼者の生活全体に目を向ける。広告上の表示に自分の仕事を合わせるのではなく、目の前の人に何が必要かを考える姿勢を大切にしています。
② 広告上の自己評価より、仕事の内容を見ていただきたいため
日本弁護士連合会の「業務広告に関する指針」は、専門性の判断の客観性が担保されないまま「専門家」「専門分野」等と表示することについて、誤導のおそれがあるとして、「表示を控えるのが望ましい」としています。
私は、この指針の趣旨を踏まえ、どのような事件を担当し、何を研究し、どのような論考を執筆しているのかを、具体的にお伝えしたいと考えています。経歴、裁判実績、執筆活動は、弁護士紹介ページでご覧いただけます。
参考:日本弁護士連合会「業務広告に関する指針」(PDF)
弁護士紹介――経歴・裁判実績・執筆活動
③ 専門性を、依頼者の人生を護るために使いたいため
深い知識を持つことと、広い視野で依頼者の人生を見ることは、対立しません。私は、その両方が必要だと考えています。
警察実務を徹底的に研究してきたのも、自分の知識を示すためではなく、「この人の逮捕を避けるためには何ができるか」「この家族の生活を護るために、何をするべきか」という問いに応えるためです。
専門性を深めることは手段であり、依頼者の人生を護ることが目的です。私は、この順序を忘れずに仕事を続けたいと考えています。
警察実務を知る。依頼者の立場で考える。
警察に詳しいことを示したいから、研究してきたのではありません。依頼者の人生を護るために、警察に詳しくなる必要があったのです。
何かが起きた後に争う力と、起きる前に働きかける力。その両方を磨き、ご本人とご家族のために、いま何ができるかを考え続けます。
薬院法律事務所
弁護士 鐘ケ江 啓司(福岡県弁護士会)


