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薬院法律事務所

刑事弁護

「実例捜査セミナー 芸能人のアカウントID等を利用した不正アクセスを処理した事例について」東京地方検察庁検事 石井博ほか 捜査研究2017年1月号


2018年07月20日読書メモ

捜査研究2017年1月号。参考になります。

「最新刑事判例研究 第34回 裁判員裁判と正当防衛の相当性」前田雅英

「一審の過剰防衛を破棄して無罪にした東京高裁平成27年7月15日。判決のポイントは、殴って倒れた被害者を踏みつけたことが過剰防衛にあたるかどうか。一審は、殴打行為と踏みつけ行為を二つに分け、後者を被害者が攻撃できない状況であることを認識してあえて及んだとしたが、高裁は倒れる直前まで執拗な攻撃を加えてきたことから、すぐに体勢を立て直して攻撃してくることが予想される状況にあったと見ることが経験則に適ったものとした。近時は防衛行為の途中から防衛行為が過剰となった場合が問題となっている。一体性が認められなければ、第二行為については正当防衛・過剰防衛は問題とならない。防衛行為として一体とみられるかは、時間的、場所的一体性だけでなく、侵害の継続性、防衛の意思の有無も重要。最高裁は客観的一連一体性だけでなく、主観的事情も考慮している(最高裁平成6年12月6日刑集48巻8号509頁)。「反撃できない状況の認識の有無」が防衛行為の一体性について決定的な意味を持つ。」

→主観面が重要になるということで、捜査段階で変な自白調書を取られないようにすることが大事ですね。

「実例捜査セミナー 芸能人のアカウントID等を利用した不正アクセスを処理した事例について」東京地方検察庁検事 石井博

「5人の芸能人のアカウントに不正アクセスしていた事件。捜査の端緒は別の不正アクセスを調査していた時に、正規利用権者でも、その事件の犯人でもないアクセス履歴があった。調査の結果、IPアドレスからは家庭内の2台のパソコンに絞られ、アップル社のコンピューターからのアクセスと分かっていたことから、被告人の自室のコンピューターと特定できた。
虚偽の自白ではないかということで、慎重に対応するとともに、他もしているだろうということでパソコンの解析を進めた。大量のIDとパスワードらしきものを記録したデータが見つかり、膨大であるため、同様の不正アクセスを行うものがいることも想定された。芸能人のプライベートな画像データも見つかった。その画像の芸能人のログイン履歴を調べて、不正アクセスの履歴を確認した。遠隔操作ウイルスの有無の調査、不正アクセスしたパソコンがパスワードが必要であったこと、出入り可能性等を調査して、被告人と特定した。
しかし、被告人が会社員であるところ、平日日中のアクセスも確認出来た。そこで、被告人の勤務先会社の捜索差押を行いタイムカード等を差し押さえるとともに、逮捕の被疑事実は夜間の時間帯の確実なものだけとした。
被告人は一貫して自白した。関係者の供述や、勤務状況の調査からも被告人の犯行と特定でき、別件で再逮捕・再勾留後に公判請求した。
芸能人の画像データや供述調書の証拠請求については、プライバシー保護のため請求せず。立証に必要な範囲で不正アクセスの日時を特定する捜査報告書のみ請求した。弁護人から供述調書等の開示を求められたら閲覧等に限定する必要があったが、証拠開示の申出はなかった。被告人の不正アクセス手法についても、その手法を明らかにすることは危険であるので、手法部分を告知することは控えた。懲役2年6月、執行猶予4年の判決で確定。」

→捜査の端緒という意味と、不正アクセスされる危険性が高い芸能人は、自らのアクセスログを確認しておくというのは大事かなと思いました。

「実例捜査セミナー 交通事犯において,起訴後に行った補充捜査の結果、客観的事実関係が明らかになり、立証方針の再転換ができた事例」東京地方検察庁検事 吉竹大樹

「赤色信号殊更無視の危険運転致傷罪。実況見分調書で述べていた赤信号の認識時期と、供述調書での認識時期が異なっていた。赤色信号を認識した時点で急制動等の措置を講じた場合に停止線手前で停止できたかという観点が重視されていたことを踏まえ、調査したところ、本人の供述内容からして停止線前での停止は不可能だった。そこで、そもそも信号に従う意思がなかったという「殊更無視」を立証すべく、被告人質問で信号に対する認識を細かく聞き出した。被告人は黄色信号を認識した時点でその間に信号を通過できる見込みがなかったこと、制動措置を講じることなく自動車を加速させたこと、衝突の危険を感じるまで制動措置を講じなかったことから、有罪になった。」

→弁護人的には辛い展開です・・・

http://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/201701/