「実例捜査セミナー 顔貌鑑定をめぐる問題点」東京地方検察庁検事 丸山潤ほか 捜査研究2018年3月号
2018年07月20日読書メモ
捜査研究2018年3月号。
「刑務所等における医療の現状について(上)」法務省矯正局矯正医療企画官西岡慎介
「刑事収用施設法56条、少年院法48条、少年鑑別所法30条で社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を講ずるものとされている。
全額国費負担で、原則施設内で治療。傷病によっては例外的に外医治療や病院移送をするが、病院移送の場合は、保安警備上の観点から最低3人の刑務官等を配置し、病院内で24時間交代で被収容者を監視する。そうすると、非番含めて6人の刑務官等が必要となり、矯正施設の運営を圧迫することになる。また、社会の耳目を集めた事案や、暴力団の抗争がらみの事案だと、危害を加えられたり身柄の奪還がされるおそれもあり、地元警察に警備応援を頼んでいる。
全ての矯正施設に等しく医療資源が配分されているわけではない。もっぱら医療上の措置を必要とする被収容者のために整備された4施設を「医療専門施設」として、重点的に整備された9施設を「医療重点施設」としている。その他が「一般施設」である。一般施設の多くは、常勤の医師一人、看護師又は准看護師数人しか配置されておらず、医師が総合診療医として対応する。矯正医管は著しく不足している。一時期は定員の2割が欠員となっていた。やや回復の兆しあり。
被収容者から負傷等の申告があった場合はまず看護師等がその状況を確認する。弁護士会等からの批判もあるが、現状では詐病や不定愁訴に医師が直接対応すると、真に医療が必要な者の対応が出来ないのでやむを得ない。被収容者の危険性を心配される方もいるが、診察には職員が立ち会うので、勤務後は「社会でモンスター患者に対応するよりはずっと安全で安心」とお話する方も多い。」
「実例捜査セミナー 共犯の離脱が問題となった指定薬物の輸入事案」東京地方検察庁検事 山田祐大
「海外の業者から指定薬物を購入していたものが、規制が厳しくなったことから、注文後、発送前にキャンセルメールを送ったが、キャンセル不可として発送され、税関で発見された事例。キャンセル不可だからといって一律に共犯の離脱が認められないとはいえないが、メールだけではなく、現実に発送手続を止める措置が必要(心理的・物理的因果性の除去)と考えて、起訴した。公判では争点とならず、有罪判決となった。」
「実例捜査セミナー 顔貌鑑定をめぐる問題点」東京地方検察庁検事 丸山潤
「防犯ビデオの顔画像と被疑者の顔画像の同一性に関する顔貌鑑定を犯人性の主たる証拠として有罪立証を試みた事例。裁判例は犯人性に関する顔貌鑑定については、おしなべて慎重な判断をする傾向にある。裁判員裁判の有罪判決を破棄して差し戻した事例も(東京高裁平成29年11月2日)。
顔貌鑑定には①二次元法(画像と顔写真を比較)と②三次元法(画像と被疑者の三次元画像を比較)の2種類がある。「同一人と考えられる」「恐らく同一人と考えられる」「同一人として矛盾しないと考えられる」などと記載される。
窃盗事案で顔貌鑑定が問題となった事例がある。手口捜査で浮上した被疑者の5年前の画像と比較し「おそらく同一人と考えられる」(2番目のランク)で起訴。公判で補充捜査を実施。科捜研では逮捕された被疑者写真と防犯カメラの二次元法で「同一人と考えられる」と最高ランクの結果が出て、民間鑑定人での嘱託でも「限りなく同一に近い」(最高ランク)の結果が出た。判決では、これらの結論部分は否定しつつも、類似性が認められる部分と、後頭部の痣様のものという顕著な特徴から、犯人性を認めた。
顔貌鑑定は、特に二次元法において主観がはいる。可能な限り三次元法を使い、鑑定資料も最新のものを使う。防犯カメラのレンズのゆがみについて補正する場合には、どのような理由で、どのような補正したのかを示す必要がある。前掲東京高判はこの点を指摘している。また、事例のように正面顔以外の特徴が役に立つことがある。また、近親者による同一性判断の立証は困難。写真では見間違える可能性は否定できない。設備の制限があるが、三次元法で客観的な立証を試みるべきである。」