【えん罪】落とし物を届けようとしたら、泥棒として通報されたという相談(置き引き、刑事弁護)
2024年12月01日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都墨田区の会社に勤めている20代の会社員男性です。先日、外回りの最中に公園で休んでいたところ、ベンチの上にカバンが置き忘れていることに気がつきました。放っておいても良かったのですが、「交番に届けてあげよう」と思い、Googleマップで付近の公園を調べて持っていこうとしました。すると、忘れたのに気付いたのか、落とし主が戻ってきて「泥棒」と叫ばれました。びっくりして「違う」といったのですが、警察に110番通報されて、取調べを受けました。えん罪なのに、犯人にされないか不安です。
A、不法領得の意思がありませんので、窃盗罪も、占有離脱物横領罪も成立しません。とはいえ、嫌疑を晴らすためにはしっかりと弁解する必要がありそうです。弁護士の面談相談を受けられて下さい。
【解説】
窃盗罪または占有離脱物横領罪が成立するためには、判例上、不法領得の意思(不正領得の意思)が必要とされています。不法領得の意思とは、権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従いこれを利用若しくは処分する意思です(大判大5.1.17録22・1)。遺失物等横領罪についても、同様に不法領得の意思が必要です。不法領得の意思は、①権利者を排除して自己の所有物として利用・処分する意思と,②経済的用法に従って利用・処分する意思とに分けられ、①は、使用窃盗を不可罰にする機能を有し、②は、窃盗罪と段棄・隠匿罪とを区別する機能を有します(法務総合研究所編『研修教材 刑法各論(その1)-個人的法益を害する罪- 三訂版』(法務総合研究所,2018年3月))172頁。
本件については、不法領得の意思がありませんので、窃盗罪も占有離脱物横領罪も成立しません。とはいえ、嫌疑がかけられている以上きちんと否認しなければえん罪となるリスクはあります。Googleマップで交番の位置を調べた履歴があれば、それを提示するなどして嫌疑を晴らすといいでしょう。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045#Mp-Pa_2-Ch_36
(窃盗)
第二百三十五条他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(遺失物等横領)
第二百五十四条遺失物、漂流物その他占有を離れた他人の物を横領した者は、一年以下の懲役又は十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
【参考文献】
増井清彦『新版・窃盗犯罪の捜査実務101問〔法令編〕(補訂)』(立花書房,2004年5月)
74頁
【窃盗罪の成立に必要な故意とは、財物に対する他人の事実上の支配を排除して、これを自己または第三者の現実的支配に移すことを認識、認容していることである】
76頁
【窃盗罪が成立するためには、窃盗の故意のほかに不法領得の意思を必要とするというのが、大審院時代からの判例の一貰した考え方である。そうでないと、友人の自転車を一時無断使用しても窃盗罪が成立することになるし、また、他人の車椅子を勝手に持ち去って壊したり隠したりしたような場合、窃盗罪になるのか器物損壊罪になるのか判断に苦しむことになるとされる。この不法領得の意思は、故意の内容そのものではなく、いわゆる主観的構成要件要素である】
※2025//8 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では,ご提示いただいた**「落とし物を届けようとしたら泥棒として通報されてしまった」という架空の相談事例と,それに対する「不法領得の意思がない以上,窃盗罪や占有離脱物横領罪は成立しない」という解説が,日本の刑法や判例に照らして正しいかどうかを検討します。結論としては,「不法領得の意思」がないので窃盗罪・占有離脱物横領罪は成立しない,という本文の見解は日本の刑法上おおむね正確**といえます。
1. 架空の事例としての前提
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
今回のQ&A形式の相談は,「公園のベンチに忘れられていたカバンを交番に届けようとしたが,落とし主に『泥棒』と叫ばれて通報されてしまった」という典型的なシチュエーションを想定しています。実際に起こりうるトラブルの形態ではあるものの,あくまでフィクションとして書かれています。
2. 窃盗罪・占有離脱物横領罪の成立要件
2-1. 「不法領得の意思」が必要
日本の刑法では,
- 窃盗罪(刑法235条)
「他人の財物を窃取した」行為に成立し,法定刑は「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」。 - 占有離脱物横領罪(刑法254条)
「遺失物や占有を離れた他人の物」を不法に領得した行為に成立し,法定刑は「1年以下の懲役又は10万円以下の罰金若しくは科料」。
これらの罪には,**「不法領得の意思」**が必要とされるのが判例・学説の通説です。**不法領得の意思とは,「権利者を排除して他人の物を自己の所有物としてその経済的用法に従い利用・処分する意思」**と定義されます(大判大5.1.17など)。
2-2. 具体例:他人の忘れ物を「届けようとしただけ」
忘れ物や落とし物を拾った人が,**「これを自分のものとして使ってやろう」「売って小遣い稼ぎをしよう」**といった形で権利者を排除する意図を持っていれば,占有離脱物横領罪が成立し得ます。しかし,
- 「拾った物をそのまま警察や交番に届けようとしただけ」
- 「所有者が現れたら即座に返すつもりだった」
といった事情があるなら,不法領得の意思は認められません。そのため,本文のQ&Aで述べられているとおり,「えん罪だ」と主張してきちんと説明すれば,窃盗罪も占有離脱物横領罪も成立しないという見解は正しいのです。
3. えん罪防止のアドバイス
本文でも指摘されているように,実際に警察から嫌疑をかけられた場合には,しっかりと「不法領得の意思がなかった」ことを弁解する必要があります。たとえば,
- 最寄りの交番の位置を検索していた履歴を示す
- 落とし主の現れを待つつもりだった証拠を示す
- 友人や第三者に「落とし物を拾ったから交番に届ける」旨をリアルタイムで連絡していたこと
など,客観的に「届けようとしていただけ」「自分のものにするつもりは全くなかった」ことを示す証拠があるなら,警察や検察に対し嫌疑を晴らすうえで有力となります。
4. 総合評価:記事内容の真偽
- 「落とし物を届けようとしただけなので,不法領得の意思がない」→「窃盗罪や占有離脱物横領罪は成立しない」という本文の見解
- これは日本の刑法上,不法領得の意思がなければ刑事責任を問われないという理屈に沿った正確な説明です。
- 「えん罪のリスクがあるので,誤解を解くには弁解が必要」というアドバイス
- 実際,警察が勘違いして「拾った=盗んだ」と認識している可能性があるため,早期に弁護士の助言を受け,嫌疑を晴らすために説明や証拠提出を行うのが大切という趣旨のアドバイスは妥当です。
- 「Googleマップで交番の場所を検索していた履歴を示すなどして嫌疑を晴らすと良い」という具体的提案
- これも実務上有用で,「届けようとしていた」という意思を客観的に示す証拠となりうるため,非常に正確な解説です。
したがって,当該記事の法的説明(「不法領得の意思がなければ窃盗罪や占有離脱物横領罪は成立しない」)は,日本の刑法理論・判例に照らして正確であり,誤りや虚偽は見当たりません。
まとめ
- このQ&A・解説は,「公園でカバンを拾い,交番へ届けようとしたら落とし主に『泥棒だ』と勘違いされ,警察が介入した」という架空事例を題材に,窃盗罪・占有離脱物横領罪が成立するためには不法領得の意思が必要であることを説明しています。
- **「不法領得の意思がなかった以上,罪に問われる可能性は低い」という結論や,「嫌疑を晴らすための弁解・証拠が重要」**というアドバイスは,刑法および実務上も適切な見解です。
- よって,記事内容は刑法上の理論と整合し,真実に即した正確な情報と言えます。