load

薬院法律事務所

企業法務

クリニックの受付女性にセクハラをする、中年男性の診療を拒否したいという相談(企業法務、犯罪被害者)


2024年12月01日労働事件(企業法務)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市で個人医院を経営する50代の医師です。皮膚科医として20年間経営しているのですが、ある時、40代の男性が水虫を治療したいということで来院されました。だいぶん病状が進行していたので、内服薬と外用薬を併用することにして、帰宅して頂きました。ところが、その方が医院で医療事務と受付業務をしてもらっている20代女性に好意を持たれたようで、特段の用事がないのに予約確認の電話をかけてきたり、手土産といってケーキなどを渡そうとしてきます。先日は、その女性に連絡先を教えて欲しいと言い出したので、女性から報告を受けた私が、診察後に「こういった行為は止めて欲しい」とやわらかく伝えました。すると、男性が激高して「なんで医者が個人の恋愛に介入するんだ」と怒鳴ってきました。びっくりしましたが、冷静に「院長として申し上げています」となだめて、その日はどうにか帰りました。ところが、また予約を入れたいという電話をかけてきました。女性も怖がっているので、今後の診療は拒絶しなければいけないと思っています。法的に問題はないでしょうか。

 

A、医師は、原則として診療拒否はできないとされていますが、「正当な事由」があれば拒絶することができます。最近、ペイシェント・ハラスメントといわれる患者からのハラスメント行為が多発しており、これらが「正当な理由」にあたるかどうかが問題となっています。本件については、男性の行為がストーカー規制法違反になる可能性もあり、厳正な対処が必要でしょう。もっとも診療拒否に対して厳しい態度を示す裁判例も存在することから、医療問題に詳しい弁護士に面談相談すべきです。

 

【解説】

「拒絶できない立場」の相手に対して、「恋愛」と称してつきまとう人は男女問わずに存在いたします。最近は、カスタマーハラスメントに対する社会の意識が向上し、安全配慮義務の一環として迷惑客を拒絶することが使用者の「義務」として認識されてきましたが、病院・診療所の場合、医師法19条1項の関係で迷惑患者を拒絶できない場合があります。しかし、医師法19条1項違反をおそれて、その結果として従業員や他の患者を苦しめることになっては本末転倒です。

そういった相手は「ガード」の緩い相手を捜し求めて狙ってきますので、毅然とした対応を示すことが大事です。「正当な事由」は価値判断ですので、社会の変化により動いていきます。これまでは、経営者が、従業員に「我慢」を強いることで「解決」してしまうことも多かったと思いますが、そういった対応がこれからも「適切」とされるかは疑問を持っています。いずれにしても、十分な検討が必要な問題ですので、弁護士と面談相談をして方針を決定されることが大事です。

 

医師法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000201

第十九条 診療に従事する医師は、診察治療の求があつた場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない。

 

応招義務をはじめとした診察治療の求めに対する適切な対応の在り方等について

https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000581246.pdf

① 患者の迷惑行為
診療・療養等において生じた又は生じている迷惑行為の態様に照らし、診療の基礎となる信頼関係が喪失している場合(※)には、新たな診療を行わないことが正当化される。
※ 診療内容そのものと関係ないクレーム等を繰り返し続ける等。

 

【参考文献】

三谷和歌子「Q63 迷惑患者対応」田辺総合法律事務所・弁護士法人色川法律事務所編『最新青林法律相談53 病院・診療所経営の法律相談』(青林書院,2024年10月)395-397頁

395頁

【診療に対するクレームをつけ、院内で大声で騒ぐ迷惑患者に対し、どう対応すればよいでしょうか。】

https://www.seirin.co.jp/book/01882.html