トラブルを起こすバイトをクビにしたら、慰謝料を請求されたという相談(企業法務)
2025年02月02日労働事件(企業法務)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市で居酒屋を経営するものです。人手不足だったので時給1100円で新しいバイトを雇ったのですが、連絡もなく当日にすっぽかす、配膳を間違える、ということが2回あり、注意をしても「すみません。」というだけで、反省したそぶりがないことから、2週間でもう辞めて欲しいといい解雇しました。契約書や就業規則はありません。すると「わかりました。」といって帰ったのですが、3日後に「弁護士さんに相談しましたが、これは不当解雇だと思います。未払い給料を支払って、慰謝料として30万円を払ってください。」といって口座が記載されたメールがきました。未払い給料といっても実質働いたのは5日間20時間だけです。一応給料の振込はするつもりだったのですが、このような連絡がきてどうすれば良いのか困っています。
A、解雇予告手当の支払い義務が生じる可能性はありますが、慰謝料については支払いを拒絶して良い事案だと思います。いずれにしても弁護士の面談相談を受けるべきでしょう。
【解説】
以下の解説は、あくまで一般的な法的観点からの情報提供です。実際には雇用期間や雇用形態、事業規模・当事者の事情などによって状況は異なり、最終的な判断には弁護士等の専門家に直接ご相談されることをおすすめします。
1. 問題点の整理
- 雇用契約の有無
- 契約書や就業規則がないとのことですが、日本の法律では口頭でも雇用契約は成立し得ます。賃金・労働時間・業務内容等を合意した時点で「雇用契約が存在する」とみなされます。
- 解雇の有効性
- 使用者(経営者)が労働者を一方的に辞めさせる行為は「解雇」にあたります。日本の労働法制では「解雇権濫用法理」(労働契約法16条)があり、正当な理由なく解雇することは制限されています。
- 解雇予告手続きの問題
- 労働基準法では、労働者を解雇する場合、30日前の解雇予告もしくは30日分以上の解雇予告手当の支払いが必要と定められています(労基法20条)。
- 例外として、2週間以内の試用期間中であれば解雇予告がいらないケースもありますが、要件が細かいため要注意です(試用期間の明確化・労基署の認定などが必要)。
- 未払い賃金・慰謝料請求
- 実際働いた賃金は労働の対価として当然支払う義務があります(労基法24条で毎月1回以上の定期払いが原則)。
- 一方、「慰謝料30万円」については、不当解雇や精神的苦痛などを理由に相手方が主張していると考えられます。法的に認められるかは「解雇が違法と評価される度合い」「どの程度の不利益や損害が生じたか」などに左右されます。
2. 解雇が有効かどうか
2-1. 解雇権濫用の判断基準
日本の労働契約法では、以下のような場合に解雇が無効(違法)と判断される可能性が高いです。
- 解雇に値する相応の理由がない場合
例: 単に業務能力が足りない、ミスがあった、遅刻などの軽微な過失だけで即時解雇するのは正当な解雇理由として認められにくい。 - 手続きの問題
- 30日前の解雇予告、または予告手当の支払いがされていない。
- 労働者に弁解の機会や改善のための指導・注意を十分に与えていない。
相談事例では、
- バイトさんに度重なるトラブル(連絡なしの欠勤や配膳ミス)があったとはいえ、1~2回の指摘で「辞めてほしい」と伝えただけのように見受けられます。
- 解雇手当(解雇予告手当)も支払っていない。
したがって、**「解雇に正当性を欠く可能性が高い」**と相手方弁護士が主張する余地はあります。特に小さな飲食店だから許されるわけではなく、原則どの規模の事業所でも労働基準法・労働契約法は適用されます。
2-2. 解雇予告手当の支払義務
- 労基法20条は、労働者を解雇する場合「30日前に予告しないときは30日分以上の平均賃金を支払わなければならない」と定めています。
- 日給・時給の場合でも、「平均賃金」を計算し、その30日分を支払わない限り即時解雇はできません(ただし一定の特例を除く)。
- 仮にこの規定を守っていない場合、事後的に請求されると**「解雇予告手当として30日分の賃金」を支払う義務**が生じるリスクが高いです。
3. 未払い賃金と「慰謝料30万円」への対応
3-1. 未払い賃金の支払い
- 働いた分の賃金(5日間・計20時間): 1,100円×20時間 = 22,000円を支払う義務があります。
- 未払い分はできるだけ早く確実に支払うべきです。支払わないまま放置すると、相手の主張を強める材料になります。
3-2. 解雇予告手当の可能性
- 解雇が有効かどうかはともかく、法律上は「30日前予告をしないなら予告手当を払う」という義務が発生している可能性が高いです。
- 時給労働者でも、平均賃金ベースで30日分となると「1日当たり8時間労働で計算するのか?」「週に何日働く予定だったか」など具体的に算定方法が問題になりますが、ざっくり数万円~数十万円になることがあります。
3-3. 慰謝料30万円の妥当性
- 「不当解雇で精神的苦痛を受けた」という主張で慰謝料を請求されるケースはありますが、30万円という金額が必ずしも法的に認められるとは限りません。
- 裁判所が認めるかどうかは、解雇の違法性の程度や当該労働者が被った不利益・損害の具体的内容などによります。
- とはいえ、飲食店側が法律を誤解して正当な解雇手続きを踏まなかった場合、トラブル解決のために**解雇予告手当+アルファの「示談金」**として数万円~十数万円程度支払って和解するケースが多いです。
4. 具体的な対処方法
- まずは賃金(5日分×時給1,100円)を支払う準備
- 未払い賃金は速やかに支払い、支払明細・振込記録など確実な証拠を残す。
- 解雇予告手当の検討
- 即時解雇を行ったのであれば、30日分の平均賃金相当額を支払わなければならない可能性が高い。
- 詳細金額は実働予定日数や1日あたりの平均労働時間などを踏まえて計算します。
- 「慰謝料30万円」の請求について
- 法的に30万円という金額を全額認めるかどうかはケースバイケースです。
- ただし、トラブル拡大を避けるなら、「解雇予告手当」とあわせてある程度の金額を示談金としてまとめて支払い、和解するという方法が現実的には多い。
- 逆に「納得できないので、相手が裁判を起こすなら対応する」という方針も取り得ますが、小規模な事案でも労働審判や民事裁判で争われ、結果的に企業側に不利な判断が出るリスクは否定できません(労働者保護が厚いため)。
- 示談書・合意書の作成
- もし話し合いで解決(お金を支払う代わりに相手は一切追加請求しない 等)するならば、示談書や和解契約書を作成し、「本件解雇に関する一切の請求をしない」旨を明記しておくことが望ましい。
- 口約束だと後でトラブルになる可能性があります。
5. まとめ・アドバイス
- 解雇は慎重に
- 就業規則がない、契約書がないからといって自由に解雇してよいわけではありません。正当な理由や手順を踏まずに解雇した場合、**法律上「不当解雇」「解雇予告手当の不払い」**という問題が発生します。
- 相手の要求に全て応じる必要があるとは限らないが、交渉が必要
- 未払い賃金・解雇予告手当については法的に支払いを要する場合が多い。一方、慰謝料30万円が妥当かどうかは相手の言い分に過ぎず、話し合いの余地があります。
- 少額でもトラブルになれば労働審判や裁判に発展するリスク
- 労働者を解雇したいときは、事前に口頭注意や段階的警告を与え、改善の見込みがない場合に適切な手順で解雇予告や手当支払いを行うべきでした。
- 専門家への相談を
- 個人経営であっても、労働法は適用されます。安易に解雇するとトラブルになりがちです。一度、社労士や弁護士等に相談し、支払うべきものや交渉の進め方についてアドバイスを受けることを強くおすすめします。
- 仮に相手が本当に弁護士を依頼しているなら、こちらも弁護士を代理人につけ、示談交渉や解雇予告手当の金額・慰謝料の妥当性などを協議する方が、早期かつ安全な解決につながることが多いです。
補足
- 試用期間中の即日解雇であっても、法律上は「14日以内なら解雇予告が不要」となる特例が存在します(労基法21条)。しかし、事前に試用期間を明示しているなどの条件を満たさないと認められません。
- 「何も書面を交わしていないが、初日から何となく『試用』と言っていた」という曖昧な状況では特例が適用されるか疑問が残ります。
- 実際に適用が認められなければ、30日分の解雇予告手当が必要になります。
したがって、すぐに専門家へ相談し、最低限支払うべき項目(未払い賃金・解雇予告手当)を確定させ、相手方と示談交渉するのが現実的な道だと考えられます。
追加プロンプト
【この事案で解雇予告手当が必要になるのか、必要になるとしていくらになるのかを計算してください。前日に人手が足りないときに、「今日これますか」と使用者が尋ねて、それにバイトがOKを出したら来てもらうという流れでした。日々雇い入れられるものにあたらないかも含めて検討してください。】
以下はあくまで一般的・典型的な考え方による解説です。実際の労働条件や労使間の合意内容・シフト実態等によって変わる場合があるため、最終的には労働基準監督署や弁護士等の専門家へ詳細を確認のうえご判断ください。
1. 「日々雇い入れ」の例外に該当するか
労基法第21条1号は、**「日々雇い入れられる者」**については解雇予告(または予告手当)を要しないと定めています。ただし、
1号に該当する者が1か月を超えて引き続き使用された場合には、通常の解雇予告義務が生じる
となっています。
「日々雇い入れられる者」とは
- 毎日ごとに雇用契約が完結し、翌日の就労については雇用されるかどうか未定、といった労働形態。
- 労働者側も「今日は仕事があるから来てほしい」「明日は仕事がない」といった日々の契約であり、会社側・労働者側ともに翌日の就労継続を前提としていないことが典型です。
今回のケース
「前日に人手が足りないときに『今日これますか』と尋ねて、OKなら来てもらう」
一見すると「日々ごとに働くかどうかを決めている」ようにも思えますが、実際に雇用契約が「その日限り」で終了していたかどうかが重要です。もし「今回のアルバイトは当面継続的に働くことを想定していたが、シフトはその都度確認する」という実態であれば、一般的には「日々雇用」ではなく、**単にシフト制のパートタイマー(あるいはアルバイト)**とみなされる可能性が高いです。
- 日々雇用かどうかの判断は、労働実態や当事者の合意内容を総合して決まります。形式上「明日も来られますか」と連絡していても、雇用継続が前提となっていれば「日々雇用」ではないと判断されやすいです。
結論:日々雇用に当たらない可能性が高い
相談内容を見る限り、
- 特定の期間のうち、「シフトが必要な日に声をかける」という運用にすぎない
- 2週間程度同じアルバイトと継続的に関わっている
- 明確に「本日は1日限り」「翌日は一度白紙に戻る」という日々雇用の説明があったわけでもなさそう
と推測されます。したがって、労基法21条1号の例外(日々雇い入れ)には当たらないと見るのが一般的です。
2. 解雇予告手当が必要かどうか
2-1. 解雇予告制度の原則
労働基準法第20条では、使用者が労働者を解雇する場合には30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない(解雇予告手当)と定めています。
- これは全ての労働者に原則適用され、規模の大小や雇用形態(正社員・パート・アルバイト)を問いません。
- 試用期間中や短期雇用など一定の例外はありますが、先述の日々雇い入れでない限り、本件は典型的に解雇予告義務が生じるケースといえます。
2-2. 「2週間で辞めさせた」→即時解雇の扱い
相談事例では、当初から「2週間だけの契約」と合意したわけではなく、経営者が「もう辞めてほしい」と伝えた結果、アルバイトを切った形です。30日前の予告が行われていないので、法律上は「解雇予告手当」を支払う必要がある可能性が高いです。
3. 解雇予告手当の計算方法
労基法20条・12条などに基づき、**「平均賃金の30日分」**を支払わなければなりません。ここでいう「平均賃金」とは、原則として「直近3か月に支払われた賃金総額を、その期間の暦日数で割った額」をいいます(ただし算定期間中に労働者の責めに帰すべき理由で欠勤して賃金が減額された場合などは、一定の除外が認められることもあります)。
3-1. 今回の事例での具体例
- アルバイトは2週間(14日間)の在籍
- 働いたのは5日間、合計20時間で賃金総額が22,000円(時給1100円×20時間)
仮に「直近3か月」が存在せず、実質的に在籍していた14日間だけを対象に計算すると、
- 総賃金 = 22,000円
- 総暦日数 = 14日(入社日から解雇日まで)
- 平均賃金(日額) = 22,000円 ÷ 14日 ≒ 1,571円(小数点以下切上・切捨などは細かい計算規定に準じます)
30日分の予告手当
- 1,571円 × 30日 ≒ 47,130円
この金額が、**解雇予告手当(30日分)**の目安となります。
計算上の注意
- 「平均賃金」を算定する際に「実労働日数」「暦日数」など、労基法の定める計算方法に従います。
- 場合によっては、欠勤・休業などを除外したり、「3か月に満たない在籍であれば実在籍期間で計算する」など細かいルールがあるため、最終的には所轄の労働基準監督署や専門家に確認してください。
4. まとめ
- 日々雇用の例外は認められにくい
- 形式上「今日来られますか」とシフトを都度決めていただけでは、日々雇い入れ扱いにはならないのが一般的です。
- 解雇予告手当が必要となる可能性大
- 「2週間で突然辞めさせた」場合でも、労基法20条に基づき30日前の解雇予告または30日分の予告手当が必要です。
- 解雇予告手当の計算
- 本件では14日間の在籍中に総賃金が22,000円(5日・計20時間勤務)のため、
- 平均賃金 ≒ 1,571円/日
- 解雇予告手当(30日分)≒ 47,130円
- 実際の計算は労基法の詳細規定に従い、切上・切捨等を行います。
- 本件では14日間の在籍中に総賃金が22,000円(5日・計20時間勤務)のため、
最終的な留意点
- 実際にどこまで支払う義務があるかは、当事者の合意や在籍期間の取り扱いなどを踏まえ、最終的には個別具体的に判断されます。
- 解雇予告手当を支払わずにアルバイトを辞めさせた場合、労働基準監督署や裁判で「違法解雇」とみなされるリスクがあるほか、追って請求される可能性が高いです。
- 安易な「即時解雇」は労務トラブルを引き起こしやすいため、短期雇用のバイトであっても解雇手続きや労務管理には十分な注意が必要です。
労働基準法
https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049/
(解雇の予告)
第二十条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少くとも三十日前にその予告をしなければならない。三十日前に予告をしない使用者は、三十日分以上の平均賃金を支払わなければならない。但し、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合又は労働者の責に帰すべき事由に基いて解雇する場合においては、この限りでない。
② 前項の予告の日数は、一日について平均賃金を支払つた場合においては、その日数を短縮することができる。
③ 前条第二項の規定は、第一項但書の場合にこれを準用する。
第二十一条 前条の規定は、左の各号の一に該当する労働者については適用しない。但し、第一号に該当する者が一箇月を超えて引き続き使用されるに至つた場合、第二号若しくは第三号に該当する者が所定の期間を超えて引き続き使用されるに至つた場合又は第四号に該当する者が十四日を超えて引き続き使用されるに至つた場合においては、この限りでない。
一 日日雇い入れられる者
二 二箇月以内の期間を定めて使用される者
三 季節的業務に四箇月以内の期間を定めて使用される者
四 試の使用期間中の者