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薬院法律事務所

企業法務

三六協定の有効期間を、無制限にすることができるかという相談(企業法務、労働事件)


2024年09月08日労働事件

【相談】

 

Q、私は事業者です。従業員を雇うようになったので三六協定を定めようと思うのですが、有効期間についてインターネットを見ると1年間という記事もありますし、3年間という記事もあります。何年間を上限にできるのでしょうか。また、就業規則は作成しなくて良いのでしょうか。

A、有効期間の上限はありません。但し、実務上1年間が望ましいとされています。また、雇用契約に残業命令の記載がない場合は、就業規則の作成も必要です。

 

【解説】

 

労使協定の有効期限については特に定められていません。そのため,無制限とすることも可能です(昭和27年までは3ヶ月といった規制がありましたが、撤廃されました。)。もっとも,労基署などでは三六協定については有効期間を1年間にするのが望ましいという指導をしているようです(平成11年基発169号)。三六協定の締結の効果は、後に入社した社員にも効力が及びます。もともと三六協定はそれ自体で社員に対して残業させられるという効力を持つものではなく、あくまで使用者が労働者を一日8時間週40時間以上働かせてはいけないなどの労働時間の規制を解除するものです。従って、新たな社員が増えたとしても労働時間の規制解除の効力が覆されたりはしません。但し、三六協定があるからといって、ただちに使用者が労働者に残業を命じられる権利が発生するわけではありません。契約上の根拠が必要です。比喩的にいえば、三六協定は労働者を縛るものではなく、あくまで使用者を縛っていた縄をとくものといって良いでしょう。通常は就業規則上で残業を命じることがあるなどの規定があることにより、使用者が労働者に対して残業を命令する権利が発生するという事になりますが、就業規則などの根拠がなければ三六協定があっても残業を命じることは出来ません。

 

※労働基準法

(時間外及び休日の労働)
第三十六条使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
②前項の協定においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができることとされる労働者の範囲
二対象期間(この条の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる期間をいい、一年間に限るものとする。第四号及び第六項第三号において同じ。)
三労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる場合
四対象期間における一日、一箇月及び一年のそれぞれの期間について労働時間を延長して労働させることができる時間又は労働させることができる休日の日数
五労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするために必要な事項として厚生労働省令で定める事項
③前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
④前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。
⑤第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。
⑥使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
一坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務について、一日について労働時間を延長して労働させた時間二時間を超えないこと。
二一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間百時間未満であること。
三対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間八十時間を超えないこと。
⑦厚生労働大臣は、労働時間の延長及び休日の労働を適正なものとするため、第一項の協定で定める労働時間の延長及び休日の労働について留意すべき事項、当該労働時間の延長に係る割増賃金の率その他の必要な事項について、労働者の健康、福祉、時間外労働の動向その他の事情を考慮して指針を定めることができる。
⑧第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、当該協定で労働時間の延長及び休日の労働を定めるに当たり、当該協定の内容が前項の指針に適合したものとなるようにしなければならない。
⑨行政官庁は、第七項の指針に関し、第一項の協定をする使用者及び労働組合又は労働者の過半数を代表する者に対し、必要な助言及び指導を行うことができる。
⑩前項の助言及び指導を行うに当たつては、労働者の健康が確保されるよう特に配慮しなければならない。
⑪第三項から第五項まで及び第六項(第二号及び第三号に係る部分に限る。)の規定は、新たな技術、商品又は役務の研究開発に係る業務については適用しない。

https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049#Mp-Ch_4

 

【参考裁判例】

 

最高裁平成3年11月28日判決

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=52731

【2 思うに、労働基準法(昭和六二年法律第九九号による改正前のもの)三二条の労働時間を延長して労働させることにつき、使用者が、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等と書面による協定(いわゆる三六協定)を締結し、これを所轄労働基準監督署長に届け出た場合において、使用者が当該事業場に適用される就業規則に当該三六協定の範囲内で一定の業務上の事由があれば労働契約に定める労働時間を延長して労働者を労働させることができる旨定めているときは、当該就業規則の規定の内容が合理的なものである限り、それが具体的労働契約の内容を
なすから、右就業規則の規定の適用を受ける労働者は、その定めるところに従い、労働契約に定める労働時間を超えて労働をする義務を負うものと解するを相当とする(最高裁昭和四〇年(オ)第一四五号同四三年一二月二五日大法廷判決・民集二二巻一三号三四五九頁、最高裁昭和五八年(オ)第一四〇八号同六一年三月一三日第一小法廷判決・裁判集民事一四七号二三七頁参照)。】

 

【参考文献】

 

矢野昌浩「労働基準法36条」西谷敏ほか編『新基本法コンメンタール労働基準法・労働契約法』(日本評論社,2012年10月)138頁

【有効期間の定めのある三六協定は、その期間の満了により失効する。有効期間の途中における解約は両当事者の合意による場合には可能であるが、一方的に破棄することはできない。一方的破棄を許容する条項が三六協定に規定されている場合には(( 4)(ウ)の解説参照)、当該条項により破棄可能となる。学説では、不当に長い期間を定めた場合、あるいは正当な理由がある場合などに、労働者側からの解約を認める見解が多い(基本法コンメ労基193頁〔金子=藤本〕参照)。期間の定めのない労働協約として締結された三六協定は、行政解釈によれば、労組法15条3項・4項に基づき、署名または記名押印した文書での90日前の予告により解約できる(労基局(上) 480頁)。
学説ではこれを支持する見解が存在する一方で(東大・時間440頁)、90日の予告期間は長すぎる、労働協約としての形式を整えたとしても、三六協定としての性格・効力に違いが生じるとは解されないといった理由から、解約は相当の予告期間により可能であるとする見解などが唱えられている(蓼沼謙ー・労働時間・残業・交替制(1971、総合労働研究所) 147頁)。
以上の議論の背景には、三六協定の有効期間の上限規制がされていない、労働協約の場合に有効期間の定めが不要とされているという問題が存在し、この点での立法的対処が望まれる(東大・労基(下) 615頁〔中窪〕参照)。】

 

荒木尚志ほか編『注釈労働基準法・労働契約法 第1巻-総論・労働基準法(1)』(有斐閣,2023年5月)497頁

【ちなみに,労基法の制定当初, 36 協定の有効期間は3か月以内とされていた(当時の労基則16 条2項。立法資料(53)443 頁を参照)。その後,労基則の改正により. 1952 年に,労働協約による場合は1年以内に延長され. 1954 年に現在のように,期間の上限はなし,労働協約による場合は期間の定めのないものも可能とされた。】