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薬院法律事務所

刑事弁護

不倫の証拠を確保するために自宅に監視カメラを設置したら、犯罪だと脅されているという相談(刑事弁護)


2025年02月02日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は40代の会社員女性です。子どもはいません。最近、夫が私が不在の時に自宅にデリバリーヘルスを呼んでいるのではないかと疑うことがありました(帰ってきたら部屋に脱臭剤の匂いがしたり、妙にベッドが整っていたりしましたし、自宅の共用パソコンで風俗の広告が流れるようになりました)。そこで、隠しカメラを設置して撮影していたところ、予想通りデリバリーヘルスを呼んで自宅で性行為をしている姿が映っていました。私は、夫に対して動画データがあることをつきつけて、どう落とし前をつけるつもりなのか問いただしたところ、夫は逆ギレして「これは盗撮だ。犯罪行為だからお前が警察に捕まるぞ。」と言ってきました。そしてカメラを奪って「これは証拠だから俺が持っておく」といってきました。データ自体はクラウドにも保存しているのですが、犯罪になるといわれて不安になっています。離婚の話もしようと思ったのですが、警察に通報されると思うとできません。どうすれば良いでしょうか。

 

A、難しい問題ですが、あえて警察に相談に行くということも考えられます。おそらくデータは削除するように指導されると思いますが、警察としては「盗撮」事件として立件しないことは十分考えられると思います。離婚も含めて相談すべきですので、弁護士の面談相談は必須でしょう。

 

【解説】

以下の解説は一般的な法的観点からの情報提供であり、最終的な判断にあたっては必ず弁護士などの専門家にご相談ください。また、2023年7月に施行された「性的姿態等撮影罪」を含むいわゆる「リベンジポルノ規制強化」の関連法令や、地域によって異なる迷惑行為防止条例の規定など、近年法改正が頻繁な領域でもあるため、最新の情報を前提とした専門的アドバイスが不可欠です。


1. 相談事例の概要

  • 撮影者: 妻(40代女性)。
  • 撮影の目的: 夫がデリバリーヘルス(風俗)嬢を自宅に呼んで性行為をしている疑いを確かめるため、夫の不在時に自宅に隠しカメラを設置し、撮影。
  • 撮影内容: 夫とデリヘル嬢による性行為(性的行為の様子)。
  • 夫の反応: 「これは盗撮だ、犯罪行為だ。警察に通報する」と逆ギレしてカメラを奪取。
  • 妻の不安: 犯罪になるかもしれないと言われ、警察に通報されるかもしれない。離婚を切り出せない。

2. 該当し得る法的問題

2-1. 「性的姿態等撮影罪」(刑法改正:2023年7月施行)

2023年7月施行の刑法改正により、「性的姿態等撮影罪」が新設されました。これは、性的な部位や姿態を相手の承諾なく撮影(または撮影機器を設置)した行為を処罰するものです。ポイントは以下の通りです。

  1. 対象となる行為
    • 性的姿態(行為)を承諾なく撮影する行為。
    • 撮影目的で盗撮機器を設置する行為。
  2. 処罰要件
    • 「性的な部位・姿態」を撮影対象とし、かつ相手方の承諾がないこと。
    • 被写体(夫やデリヘル嬢)のプライバシー領域に踏み込み、通常許されない態様での撮影。
  3. 処罰の重さ
    • 初犯であっても、法定刑が「3年以下の懲役または300万円以下の罰金」(一部行為にはさらに加重される場合も)となり得ます。

妻の行為は該当する可能性があるか?

  • 撮影内容が性行為の様子という点で、「性的姿態」を明確に捉えていると判断される可能性は高いです。
  • 「夫と風俗嬢の両名が承諾していない・知らない」状態での隠し撮りにあたるので、新設の性的姿態等撮影罪の構成要件を満たすリスクはあります。
  • ただし、捜査機関が実際に立件するかどうかは事案の具体的事情や被害届の有無などに左右されるため、必ず立件されるとは限りません。

2-2. 迷惑行為防止条例(都道府県条例)

多くの都道府県では「迷惑行為防止条例」での盗撮規制が強化され、公共の場所や公衆の目に触れる場所以外でも、**「人が通常衣服で隠している部分」や「性的部位」を撮影」する行為を広く禁止しているところがあります。近年は「住居内での盗撮」**を対象に含む条例も少なくありません。

  • ただし条例の適用範囲は都道府県により異なり、具体的には「住居内・宿泊施設も含むのか」「性行為や裸を対象とするのか」などが地域ごとに違います。
  • すでに2023年7月の刑法改正により、全国一律で「性的姿態等撮影罪」が適用されるケースが増え、条例との重複適用が問題となる可能性があります。

2-3. プライバシー権・肖像権の侵害

刑事責任とは別に、夫やデリヘル嬢から「撮影行為でプライバシーを侵害された」「肖像権を侵害された」という民事上の損害賠償請求がなされるリスクも考えられます。

  • 自宅とはいえ、「夫+第三者(デリヘル嬢)」が承諾なく性行為を撮影された場合、プライバシー侵害が認められる可能性は高いです。
  • 別居中や夫所有の住居でなくても、たとえ撮影場所が“夫婦共有の自宅”であっても、被写体の人格的権利が優先される、という考え方がとられる傾向があります。

3. よくある誤解:自宅なら盗撮ではない?

  • 「自宅」という場所であっても、そこにいる人が何ら撮影を許諾していない場合は**“盗撮”**に当たる余地があります。
  • 特に、本件のように「明らかに性行為」を隠し撮りしている場合は、性行為を対象とする盗撮の悪質性が指摘される可能性があります。

4. 妻が「不貞の証拠」を取得するために撮影した場合

4-1. 離婚調停・訴訟での証拠として

妻が夫の不貞(有責行為)の証拠を得るために撮影した動画を、仮に離婚調停・離婚訴訟で提出したいと考えた場合、**「違法収集証拠」**として証拠能力が問題になります。

  • ただし、民事事件では「証拠が違法に得られた場合でも、直ちに証拠能力を否定するのは慎重に考えるべき」との判例・学説も存在します。
  • しかし、刑事的に問題がある手段で取得された証拠については、裁判所が**「プライバシー侵害の度合いが大きい」「方法が著しく相当性を欠く」**などと判断し、証拠採用を制限する可能性があります。
  • しかも、本事例のように「性的姿態等そのものを隠し撮り」している場合は、裁判所が人格権侵害と見なし、証拠能力を否定・制限する判断が下るリスクが高いです。

4-2. 「正当行為の主張」は通るか?

「夫の不倫を立証したかった」こと自体は妻の正当な目的かもしれませんが、現在の裁判例・実務上は**「証拠収集の手段として違法性が認められる撮影行為が当然に正当化されるわけではない」**という傾向が強いです。

  • 特に第三者(デリヘル嬢)の性的姿態が記録されてしまっている点は、より慎重に扱われます。
  • 犯罪の嫌疑を立証する“緊急性”や“適法手段のなさ”などの要件が満たされないかぎり、「違法な盗撮」に該当するリスクはぬぐえません。

5. 夫が「警察に通報する」と脅している現状

5-1. 犯罪成立の可能性

前述のとおり、性的姿態等撮影罪や各種盗撮規制(条例)に抵触する可能性は否定できません。実際、夫あるいはデリヘル嬢から警察に被害届が出された場合、捜査が進むリスクはあります。

5-2. 実際の立件・捜査のハードル

他方で、夫が「わざわざ自分がデリヘルを呼んだことを警察に説明しなければならない」というデメリットもあり、警察がどこまで積極的に動くかは事案次第です。

  • ただし近年は盗撮被害に対して厳格な捜査方針がとられる傾向にあり、「夫婦間の問題だから不問」というわけではありません。
  • 夫から見ると自分の不貞行為が表面化してしまうため、実際には通報しない可能性もありますが、脅しの材料に使われている点は事実として注意が必要です。

6. 具体的な対処とアドバイス

  1. 弁護士に早期相談する
    • 刑事上のリスク(盗撮・性的姿態等撮影罪にあたるおそれ)および離婚手続での証拠活用の可否を総合的に検討するため、離婚問題に強い弁護士に相談することが最優先です。
    • 「この動画をどう扱うか」「夫が脅してくる場合の対応」「万が一警察が動いた時の対処」など、専門的助言が欠かせません。
  2. 軽率に動画を第三者に開示しない・拡散しない
    • 仮に刑事処罰を回避しても、拡散や公開があれば名誉毀損・プライバシー侵害・リベンジポルノ防止法違反など、追加的な法的リスクを負うおそれがあります。
    • 弁護士に見せる場合など最小限の利用に留めましょう。
  3. 夫の「脅し」に冷静に対処する
    • 夫が「警察に通報する」と脅す行為自体が、場合によっては妻への威迫や強要、あるいはモラハラ的行為に該当する可能性があります。
    • 夫婦間トラブルであっても、脅迫や暴力があれば警察・支援機関への相談を検討してよいでしょう。
  4. 離婚手続について
    • 動画が必ずしも証拠として使えない場合であっても、夫の不貞(風俗利用)を補強できる他の手段があるか、探る必要があります。
    • たとえば「デリヘルの利用履歴(クレジットカード明細、予約履歴)」「部屋に残された領収書」など、違法な手段によらない証拠の入手は可能かを弁護士と検討します。

7. まとめ

  • 刑事リスクは存在
    • 自宅内であっても、夫と第三者(デリヘル嬢)の性行為を「無断で、かつ隠しカメラ」で撮影した行為は、2023年施行の「性的姿態等撮影罪」に該当する可能性が高く、迷惑行為防止条例やプライバシー権侵害も含めて刑事・民事両面の問題を引き起こすリスクがあります。
  • 夫の脅しが現実化するかはケースバイケース
    • 夫が自らの不貞行為を警察や第三者に明かすリスクをとってまで通報するかどうかは不透明ですが、脅しに利用される可能性がある点は要注意です。
  • 離婚・慰謝料請求において動画が使えるかは不明瞭
    • 違法性の強い手段で入手した証拠は、家事事件であっても裁判所が証拠能力を制限する場合があるうえ、そもそも盗撮という別の違法行為が表面化するおそれがあります。
  • 早期に弁護士等へ相談し、法的手続きを慎重に
    • 刑事リスクの軽減と離婚手続(慰謝料・財産分与)での有利な進め方を両立させるには、専門家のサポートが不可欠です。

したがって、「警察に通報されるかもしれない」といった不安で身動きが取れないのであれば、まずは法律事務所などで状況を正直に話して、具体的な方策(交渉・調停・立件リスクの見立てなど)を検討することが最善策です。慰謝料や財産分与も含め、離婚交渉や裁判に進むかどうかの方針決定を含め、**“違法な手段で取得した証拠を安易に使わない”**という点を念頭に、一度法律の専門家へ相談することを強くお勧めします。

 

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