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薬院法律事務所

刑事弁護

依頼者の不合理な主張と、弁護士の対応(越智啓太「取調べにおける心理学(第15回)被疑者調べの心理学(5)被疑者行動の心理分析」捜査研究2021年10月号(852号))


2024年01月30日読書メモ

依頼者の言い分が「不合理」と感じることは弁護士をしていれば時折あることです。刑事事件だけでなく、民事事件でもあります。そういった場合に弁護士がとるべき基本的な態度としては、本人の語る理由を傾聴するということになります。一見不合理に見えることでも、詳しく背景事情を聞いていけば「なるほど」と思うことはあります。そういった場合は、裁判所や捜査機関に対して、依頼者の言い分が信用できることを主張していくことになります。

 

ただ、それでも依頼者が「嘘をついている」と判断せざるを得ないことがあります。そういった場合にどうすべきか。刑事事件の弁護人としては、依頼者の言い分を前提に弁護を続けるべきだ(国選弁護の場合)とか、辞任すべきだ(私選弁護の場合)といったことになります。ただ、ここでひとつ重要なのは、仮に依頼者が「嘘をついている」とすれば、何故「嘘をついている」のかを考えないといけないということです。この視点は見落としがちですが、捜査研究の連載で指摘がありましたので、引用します。

 

越智啓太「取調べにおける心理学(第15回)被疑者調べの心理学(5)被疑者行動の心理分析」捜査研究2021年10月号(852号)

 

116頁

【気をつけなければならないのは「犯人でなくても嘘はつく」ということだね。例えば,実際には犯人でないけれども。自分の行った行動がほかの犯罪になる場合,倫理的に推奨されるようなものでない場合,他の人をかばいたい場合, 自分にとって恥となる場合などは犯人でなくても嘘をつく。例えば,実際はアリバイはあるけど、それが不倫相手との逢い引きだった場合,風俗に行っていた場合,仕事中にパチンコに行っていた場合などは, あまり正直に言わないし, 途中から,供述を変えてきたりすることもあるよね。だけど, これだけから「怪しい」と思うのはちょっと,危険かもしれない。】