刑事事件の示談の際は「第三者行為の届出」の有無に要注意です(傷害事件、刑事弁護)
2019年09月26日刑事弁護
加害者側で示談をするときは、被害者が第三者行為の届出をしているかどうかを気をつけないといけません。
若手弁護士向けの本に、被害者側の立場で、和解が困難にならないように特に説明しないで和解するという手法が選択肢に挙げられています。後で思いがけない請求が来て困る可能性があります。私は説明するようにしています。
京野哲也・林信行編『Q&A若手弁護士からの相談374問』(日本加除出版,2019年4月)354~355頁
【喧嘩で相手に殴られ怪我をしました。相手方に150万円を請求しましたが,相手方代理人との交渉の結果80万円での和解をする方向でまとまりそうです。治療については健康保険を適用し,第三者行為による傷病届を行っています。治療費が10万円ほどでした。追って,相手方に7割負担分が健康保険組合等から請求が行くのではないかと思いますが,これを相手方に説明する必要があるでしょうか。】
【本設問においても, 第三者行為の届出を行っていますので,健康保険組合等が後日,加害者である相手方に対して7割の負担分の費用を請求してくることと思われます。
被害者側の立場からすれば, 治療費の明細等を出していれば,健康保険を適用していることは把握できますし,本来第三者行為の届出を行うべきものですから,提出していることを当然の前提として,特に説明をしないで和解をすることも考えられます。ただし,後日相手方に求償請求がなされた際に,相手方から清算条項違反等を指摘される可能性があります。
他方, 第三者行為の届出を行ったことを相手方に和解前に説明した方が安全ではありますが, その場合, 80万円での和解が困難になる可能性も否定できません。
したがって,悩ましいところではありますが,依頼者に双方のメリット・デメリットを説明し,選択してもらうことがよいと思われます。】
https://www.kajo.co.jp/c/book/06/0605/40760000001
※2025/1/24 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では、「刑事事件の示談の際には、被害者が健康保険を用いて受診している(第三者行為による傷病届を出している)場合、加害者側として注意が必要だ」という趣旨の文章について、(1)その内容の真偽、および**(2)刑事弁護人・被害者代理人がそれぞれ注意すべき点**を、後日の紛争予防と弁護士倫理の観点から整理します。
1. 文章の内容の真偽
1-1. 第三者行為の届出(健康保険組合の求償)の基本制度
- 日本の公的医療保険制度では、交通事故や傷害事件など“第三者による不法行為”が原因の治療費に健康保険を使った場合、**健康保険組合(協会けんぽなど)が、本来の加害者に対して治療費の立替分を請求できる権利(求償権)**を持ちます。
- そのため、被害者は「第三者行為の届出」を提出し、保険者が支払った治療費のうち“加害者負担分”を保険者が後日加害者に請求する可能性があります。
1-2. 示談との関係
- 示談時に当事者間だけで「治療費はこれで精算した」と合意しても、健康保険組合が第三者として加害者に求償してくる可能性が残る場合があります。
- 文章にあるように、被害者が第三者行為の届出をしていることを加害者側に明示しないまま示談すると、後日「健康保険組合から思わぬ追加請求が来た」というトラブルが起こり得るのは事実です。
1-3. 文書の結論は「注意が必要」は真実
- したがって、「刑事事件の示談において、被害者の第三者行為の届出の有無を確認せずに示談すると、後に加害者側が健康保険組合から求償を受ける可能性がある」という指摘は正しいです。
- 被害者側が意図的に伝えない(説明を省略する)ケースもあり得るため、加害者側・被害者側双方にとって紛争要素になることは十分に起こりうると言えます。
2. 刑事弁護人・犯罪被害者代理人が気をつけるべき点
以下では、(A)刑事弁護人(加害者側代理)と(B)被害者代理人の立場に分けて、それぞれ後日の紛争予防・弁護士倫理の観点から注意すべき事項を整理します。
(A) 刑事弁護人(加害者側代理)の注意点
- 示談書の清算条項を明確にする
- 治療費の範囲をどのように定めるか、**「健康保険組合その他第三者からの求償も含めて最終的に清算する」**のか、それとも「当事者間の治療費精算」にとどめるのか、条項を明示しておく。
- 「将来、健康保険組合等からの請求があった場合はどうするのか」について示談書で取り決めておくと、後日の紛争リスクが減る。
- 被害者が“第三者行為の届出”をしたかの確認
- 示談交渉の早い段階で「健康保険を使用しましたか」「第三者行為の届出をしていますか」と明確に問い、事実確認を行う。
- 被害者が曖昧な回答をした場合でも、カルテや領収書、明細書のコピーなどを提示してもらうように努めるとよい。
- 依頼者へのリスク説明
- 「示談成立後に健康保険組合からさらに請求を受ける可能性がある」ことを依頼者(被疑者・被告人)に十分に説明する。
- 後々に追加請求を受けた場合の対応方法や費用負担をどうするかも協議し、依頼者の納得を得る必要がある。
- 弁護士倫理との関係
- 被害者が第三者行為の届出を隠そうとしている疑いがある場合でも、刑事弁護人としては相手方の状況を誠実に調査しつつ、依頼者に正確に伝える義務がある。
- 相手を威圧したり、事実と異なることを強要するのは弁護士倫理に反する。あくまで合法的かつ公正な手段で情報を確認することが重要。
(B) 犯罪被害者代理人の注意点
- 依頼者(被害者)への十分な情報提供と選択肢の提示
- 「第三者行為の届出を加害者に事前に伝えると、示談がまとまらないかもしれない」という懸念もあるが、後日トラブルになる可能性や、示談書の清算条項違反を主張されるリスクも高い。
- 結果的に示談が白紙に戻る、あるいは追加交渉が発生するなど、被害者自身が不利益を被る恐れがある。
- そのため、届出の事実をどう扱うか、リスクとメリットを依頼者に正しく説明し、最終的な選択は被害者本人が決められるようにすることが望ましい。
- 示談交渉の際の正直・誠実な対応
- 弁護士倫理上、「相手方を積極的に誤解させる意図で重要情報を隠す」行為は問題になる可能性がある。
- 健康保険組合の求償可能性は、示談条件を大きく左右する重要事項と言えるため、意図的に隠して示談することは将来の紛争を招きやすい。
- 被害者代理人が「届出の事実を当然のことと見做し、特に説明しない」という対応を取る場合でも、清算条項の文言や被害者の認識について整理を怠ると、結果的に被害者の不利な状況を生むことがある。
- 後日の請求が発生した場合の説明・対応策
- 「既に示談金を受領したのに、さらに健康保険組合からの請求が加害者に行った」ことで、加害者から「示談の範囲外なのか・重複請求なのか」と問題提起されるリスクを把握しておく。
- 依頼者に対して、「後から追加で問題が起こるかもしれない」点を念頭に置き、示談書の条項や文言、説明の記録をきちんと残しておくようにする。
- 弁護士倫理との関係
- 被害者の代理人はあくまで被害者の利益を優先して行動する必要があるが、故意に事実を隠蔽し、相手方を誤導することは許されない。
- また、後日紛争が再燃した場合に、被害者の精神的負担が大きくなる可能性を考慮する必要がある。誠実・公正な交渉姿勢を維持することが、結果的に依頼者(被害者)のためにもなる。
3. 後日の紛争予防と弁護士倫理の観点からまとめ
- 第三者行為の届出は示談に影響する重要ファクター
- 健康保険組合等の求償権をどう扱うかは、示談の条件・清算条項に関わる重大な論点。
- これを放置して示談を結ぶと、後から「清算条項違反をめぐる紛争」「追加交渉」が生じるリスクが高まる。
- 情報の開示・確認を怠らない
- 被疑者(加害者)側弁護士は「被害者の届出状況」を確認し、明確な清算条項を盛り込む。
- 被害者側弁護士は「加害者が後日請求される可能性」を含め、届出の有無を依頼者と十分協議しておく。
- 弁護士倫理上、重要事項の隠蔽や不誠実な交渉はNG
- 示談交渉は当事者間の合意がベースとなるが、重要な事実を故意に隠す行為は不当。
- 結果的に依頼者の利益を損ねる恐れがあるため、公正・誠実な姿勢を貫く必要がある。
- 示談書の文言と説明記録を丁寧に作成する
- 「本件について当事者間は最終的に解決したが、第三者からの求償などはどうなるのか」など、当事者間で想定されるリスクを明示し、必要なら除外・含む旨を合意しておく。
- 曖昧なまま合意すると、後日のトラブルが再度刑事・民事・弁護士会への苦情等に発展する場合がある。
結論
- 文章の指摘(刑事事件の示談において「第三者行為の届出」の有無は要注意)は正しい。
- 刑事弁護人は、依頼者のためにその点を確認し、示談書で明確に定める努力をすべき。
- 被害者代理人は、依頼者のメリット・デメリットを十分に説明し、後日の紛争を回避できるような契約内容・交渉プロセスを検討すべき。
- 不誠実な隠蔽や曖昧な処理は、最終的に双方の依頼者の利益を損ねることを十分に認識し、弁護士倫理に則った透明性のある交渉を心がける必要があります。