勤務時間中の交通事故で、会社が所有する車の修理費を全額請求されたという相談(労働問題)
2024年09月16日交通事故(刑事)
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は福岡市内に住む50代のトラックドライバーです。先日、配送業務中に追突事故を起こしてしまいました。過失割合は100対0で私が悪いのですが、会社から、相手方の損害の支払については保険を使うが、会社の車の修理費については全額私が負担しろと言われました。従わなければいけないでしょうか。
A、全額の支払い義務はないと思われます。
【解説】
労働者が労働義務または付随的義務に違反して使用者に損害を与えた場合、債務不履行に基づく損害賠償責任を免れません(民法415,416条)。また,使用者責任(民法715条)を前提とする使用者による求償権の行使もあります(民法715条3項)。もっとも,裁判例は労働契約の特質(指揮命令下の労働,報償責任の要請)を考慮して,信義則に基づく責任制限法理を発展させています。
責任制限の基準は、
①労働者の帰責性(故意・過失の有無程度)
②労働者の地位・職務内容・労働条件
③損害発生に対する使用者の寄与度(指示内容の適否、保険加入による事故予防・リスク分散の有無等)に求められます。
具体的には,労働者に業務遂行上の注意義務違反はあるものの重大な過失までは認められないケースでは、その他の事情(使用者によるリスク管理の不十分さ等)を考慮して使用者による賠償請求や求償請求を棄却しています。また、重大な過失が認められるケースでも、宥恕すべき事情や会社側の非を考慮して責任を4分の1や2分の1に軽減しています。本件においては、交通事故が不可避に発生する業務であることから、過失割合としては100対0であっても、会社は全額の請求をすることはできず、保険を利用した上での残額や、軽減した金額しか請求できないものと思われます。
【参考判例】
最判昭和51年7月8日
http://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=54209
【使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。
原審の適法に確定したところによると、(一)上告人は、石炭、石油、プロパンガス等の輸送及び販売を業とする資本金八〇〇万円の株式会社であつて、従業員約五〇名を擁し、タンクローリー、小型貨物自動車等の業務用車両を二〇台近く保有していたが、経費節減のため、右車両につき対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険及び車両保険には加入していなかつた、(二)被上告人Bは、主として小型貨物自動車の運転業務に従事し、タンクローリーには特命により臨時的に乗務するにすぎず、本件事故当時、同被上告人は、重油をほぼ満載したタンクローリーを運転して交通の渋滞しはじめた国道上を進行中、車間距離不保持及び前方注視不十分等の過失により、急停車した先行車に追突したものである、(三)本件事故当時、被上告人Bは月額約四万五〇〇〇円の給与を支給され、その勤務成績は普通以上であつた、というのであり、右事実関係のもとにおいては、上告人がその直接被つた損害及び被害者に対する損害賠償義務の履行により被つた損害のうち被上告人Bに対して賠償及び求償を請求しうる範囲は、信義則上右損害額の四分の一を限度とすべきであり、したがつてその他の被上告人らについてもこれと同額である旨の原審の判断は、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、右と異なる見解を主張して原判決を論難するものにすぎず、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。】