同棲相手に、隠しカメラで盗撮されていたという相談(犯罪被害者)
2025年02月02日犯罪被害者
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は20代会社員女性です。同い年の彼氏と3年間同棲しているのですが、先日、部屋を掃除していたら小さなカメラのようなものを見かけました。もしやと思って撮影してインターネットで画像検索をしてみると、盗撮用の隠しカメラでした。私の裸や性行為をしているところを隠し撮りされていたかと思うと気持ち悪くて、一刻も早く同棲は解消したいですし、データも破棄させたいのですが、これからどうすれば良いのかわかりません。
A、早急に、警察に通報してください。警察の立ち合いの下で証拠保全をすべきでしょう。
【解説】
以下の解説は、あくまで架空事例を前提とした一般的な被害者サポートの観点からの情報です。実際に被害に遭った場合には、必ず弁護士や警察・専門窓口へ相談し、個別の事情に応じて適切な対応を取りましょう。
1. 前提となる法的問題・違法性
2023年7月に施行された刑法改正により、「性的姿態等撮影罪」という新しい罪が設けられ、同意なく性的な姿態(下着姿や裸、性行為を含む)を撮影した場合や、それを目的に盗撮機器を設置した場合、処罰対象となります。さらに、都道府県の迷惑行為防止条例でも盗撮行為を広く禁じているところが多いため、同棲相手(彼氏)がカメラを仕掛けていた行為は刑事罰のリスクが高い行為です。
また、プライバシー権侵害・人格権侵害を理由とする民事上の損害賠償請求が認められる可能性もあります。撮影された画像や動画が流出していれば、さらにリベンジポルノ防止法(私事性的画像記録の提供等による被害の防止に関する法律)が問題となる余地も出てきます。
2. 今後とるべき行動の流れ
2-1. 物的証拠の確保・保管
- カメラ本体(または見つけた機器)を処分せず、写真・動画などの記録を残す
- 自分で勝手に壊したり捨てたりすると、後日「その証拠がない」「捏造だ」と言われる可能性があります。
- カメラやSDカード等があれば、パソコンやスマートフォンで中身を確認するのは慎重に。万が一、操作を誤ってデータを消去してしまう恐れがあるので、専門家の立ち会いや弁護士の指示のもとで行うことが望ましいです。
- 撮影した写真や動画が残っているかどうか
- 可能であれば、外付けハードディスクやUSBメモリなどにコピーし、安全な場所に保管してください(ただし、これも弁護士や警察と相談しながらが無難です)。
2-2. 彼氏との同棲解消の段取り
- 早期に退去・同棲解消を検討
- 盗撮被害に加え、被害者の心情として精神的苦痛が大きいのは当然で、現在住居を共有していること自体が危険やストレスにつながる可能性があります。
- 安全に退去するため、親族・友人の協力や、必要に応じて警察・支援団体のサポートを受けることも検討します。
- 引っ越し先が確保できるまでの対策
- 同居相手から暴力や脅迫を受けるリスクがある場合、警察や行政のDV相談窓口・一時保護施設などに相談するとよいでしょう。
- ただし、現時点で身体的DVの証拠がない場合でも、性的盗撮は明確な性暴力の一種であり、支援対象になるケースがあります。
2-3. データの処分要求と示談の可能性
- データのコピーや流出防止が最優先
- 盗撮された映像が、彼氏のスマホやPC、クラウド上にアップロードされている可能性もあります。
- 早急に「データの削除」「拡散しない旨の誓約」を文書で取り交わすよう求めることが重要です。
- 示談交渉・誓約書の作成
- 弁護士を通じて**「二度とこのデータを使用しない・廃棄する」「流布しない」**といった約束を誓約書に明文化し、違反時の違約金や法的措置を盛り込むことが考えられます。
- ただし彼氏が素直に応じない場合は、単独で話し合うのではなく、警察や弁護士への相談を先行させるほうが安全です。
2-4. 警察に相談・被害届の提出
- 刑事告訴・告発を視野に入れる
- 被害者として盗撮の違法性を追及し、処罰を求めたいのであれば、警察へ被害届(または告訴状)を提出することが可能です。
- 盗撮行為が明白であれば、2023年の改正刑法「性的姿態等撮影罪」や迷惑行為防止条例違反による捜査が行われる可能性が高いです。
- メリット・デメリット
- 立件されれば彼氏に対しては刑事処分(逮捕・罰金・懲役等)のおそれがあります。一方、被害者が「大ごとにはしたくない」と考える場合もあるかもしれませんが、被害届の提出によって公的な強制力を伴う捜査・証拠保全が期待できる点は大きいメリットです。
- 「示談を望む」か「厳罰を望む」かで警察・検察との連携も変わってきますが、まずは犯罪行為を明らかにしておくことで、不安や再被害のリスクが減少する場合が多いです。
2-5. 民事での損害賠償請求
- 慰謝料請求が可能
- 盗撮行為によって受けた精神的苦痛に対し、加害者に損害賠償(慰謝料)を請求することができます。
- 特に性的なプライバシー侵害は深刻な被害とみなされるため、数十万円~数百万円単位の慰謝料が認められる事例もあります。
- 具体的請求手続き
- 警察への被害届提出・刑事事件の結果や、弁護士を通じての交渉・示談によって慰謝料の合意金額を取り決めることが多いです。
- 合意に至らない場合は、民事裁判を起こす選択もあります。
3. 弁護士としての具体的アドバイス
- 早期に弁護士へ相談
- 盗撮行為はれっきとした犯罪であり、加害者への対処や被害証拠の保全、同棲解消の進め方など複雑な要素が絡みます。刑事事件に明るい弁護士あるいは女性の性被害を扱った経験豊富な弁護士に相談し、自分の希望(厳罰を求めたいのか、示談で済ませたいのかなど)を含めてじっくり話し合ってください。
- 証拠の保全と安全確保
- 隠しカメラ本体や録画データは重要な証拠です。下手にいじらず、弁護士や警察に見せられる状態で確保を。
- 同居を続けることに危険がある場合や不安がある場合は、公的機関の女性相談センター、DV相談窓口などにも連絡し、安全に退去・避難する方法を検討します。
- 心理的ケアが必要な場合は、医療機関やカウンセリングを受けることも推奨します。
- 示談か刑事告訴かの方針決定
- 自分が望む結果(「きちんと刑罰を科してほしい」「とにかくデータを全て削除させたい」「慰謝料を含めきちんと制裁を与えたい」など)を弁護士に伝え、その上で警察対応や示談交渉の方針を決めます。
- 示談交渉:加害者側が反省を示し誠意ある対応をするならば、データの完全破棄や慰謝料支払いを条件に合意が成立する場合もあります。合意に至ったとしても、「データを残さない・再利用しない」厳格な誓約条項を定め、違反時のペナルティを設定することが必要です。
- 刑事事件化:警察に届け出ることで加害者は逮捕・書類送検の対象となり、裁判で有罪になれば罰金刑や執行猶予付き懲役などの実刑が科される可能性があります。厳正な処罰を望む場合や、加害者が反省しない・示談に応じない場合は、遠慮なく告訴を検討しましょう。
- 今後の生活の再建
- 同棲解消後の住居の問題や生活費、職場への影響なども考慮に入れる必要があります。心身のケアも含め、弁護士だけでなく**総合的な支援体制(行政の相談窓口、カウンセリング、知人・家族の協力)**が得られるとベストです。
4. 結論
- 盗撮は刑事罰に問われる可能性が高い犯罪行為であり、発見した時点で速やかに証拠を保全し、弁護士や警察に相談することが最善です。
- 同棲相手との関係をどうするか(別れる・示談する・刑事告訴する)については、被害者自身の強い意向と安全確保が最優先。
- 「性的姿態等撮影罪」や迷惑行為防止条例により厳しく処罰されるようになっているため、警察も真剣に動く可能性が高いです。ためらわずにまずは専門家・行政機関のサポートを受けましょう。
- 示談交渉や慰謝料請求を検討する場合も、相手に直接交渉するのではなく、弁護士を立てて法的に確実な形でデータ削除や補償を実現するのが賢明です。
このように、一連のプロセスは複雑かつ精神的負担が大きいものですが、犯罪被害者として正当な権利を行使することで、早期に安全と安心を取り戻すことができる可能性があります。自分一人で抱え込まず、専門家と相談のうえで進めることを強くお勧めいたします。
※性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律
(性的姿態等撮影)
第二条次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロイに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態
二刑法第百七十六条第一項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
三行為の性質が性的なものではないとの誤信をさせ、若しくは特定の者以外の者が閲覧しないとの誤信をさせ、又はそれらの誤信をしていることに乗じて、人の対象性的姿態等を撮影する行為
四正当な理由がないのに、十三歳未満の者を対象として、その性的姿態等を撮影し、又は十三歳以上十六歳未満の者を対象として、当該者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者が、その性的姿態等を撮影する行為
2前項の罪の未遂は、罰する。
3前二項の規定は、刑法第百七十六条及び第百七十九条第一項の規定の適用を妨げない。
https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067#Mp-Ch_2
※福岡県迷惑行為防止条例
(卑わいな行為等の禁止)
第六条
3 何人も、正当な理由がないのに、第一項に規定する方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所で当該状態にある人の姿態をのぞき見し、又は写真機等を用いて撮影すること。
二 前号に掲げる行為をする目的で写真機等を設置し、又は他人の身体に向けること。
(罰則)
第十一条 第六条又は第八条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
第十二条 常習として前条第一項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453