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薬院法律事務所

刑事弁護

執行猶予付き判決を求めるための情状弁護について


2024年01月15日読書メモ

刑事弁護をしていると、実刑と執行猶予のボーダーラインという事例は良く見かけます。こういった事案の場合には、弁護人の情状弁護活動の内容次第で、執行猶予が付くか、付かないかが分かれるということもあります。

私が情状弁護をする場合は、まず、証拠を吟味して、間違ったものはないか、公訴事実の存在を裏付ける証拠は十分に存在するかという、否認事件の場合と同じ作業をします。これは抜けがちなことなのですが、証拠を依頼者と突き詰めて見ていくと、実際の事実よりも悪質な話とされていることはしばしばあります。特に「事実が欠落している」パターンは、弁護人が単純に依頼者に証拠を見せて「間違っている部分はないですか」と聞くだけだと見落としがちです。例えば、傷害事件では被害者の挑発行為があったことが犯情を軽くする重要な要素になりますが、被害者がその点は供述していない、といったことがあります。検察官に対する証拠開示請求も積極的に行います。

この作業を終えると、弁論に向けての情状事実の吟味をします。

弁論では、犯情(犯罪そのものの情状)について、その類型が公訴事実の犯罪類型のなかでは軽微な部類にあたること(少なくとも悪質な部類ではないこと)を述べるとともに、一般情状についても可能な限り有利な事情を指摘いたします。一般情状については弁護活動を通して作ることができるので、ここは弁護人の創意工夫が問われるところです。この時は、菅原直美・山田恵太ほか編『情状弁護Advance』(現代人文社,2019年10月)が参考になります。

執行猶予に関する代表的論文は、植野聡「刑種の選択と執行猶予に関する諸問題」大阪刑事実務研究会編著『量刑実務大系第4巻 刑の選択・量刑手続』になります。その他にも、田村政喜「33 執行猶予の判断基準」池田修・杉田宗久編『新実例刑法[総論]』(青林書院,2014年12月)も参考になります。この2つの文献は、必ず参照します。性犯罪については、樋口亮介「裁判実務と対話する刑法理論【第5回】性犯罪の量刑(その1)」法学セミナー2021年8月号(799号)、樋口亮介「裁判実務と対話する刑法理論【第6回】性犯罪の量刑(その2)」法学セミナー2021年9月号(800号)、樋口亮介「裁判実務と対話する刑法理論【第7回】性犯罪の量刑(その3)」法学セミナー2021年10月号(801号)、樋口亮介「裁判実務と対話する刑法理論【第8回】性犯罪の量刑(その4・完)」法学セミナー2021年11月号(802号)も必読です。

そして、量刑相場については、判例データベースなどで可能な範囲の裁判例を調査し、不公平な判断がなされないようにするとともに、同種事案で執行猶予が付されたものがあれば引用します。

さらに、令和4年6月13日、通常国会において「刑法等の一部を改正する法律」が成立したことも重要です。同改正では、再度の執行猶予の範囲が拡大されています。これは、改善更生・再犯防止を図る観点からは、必ず実刑とするのではなく、社会内処遇を続けさせる方が適当な場合もあるとの観点からなされたものです。この点は必要に応じて指摘します。

※橋爪隆「自由刑に関する法改正」法学教室2022年12月号(507号)44頁~
「刑の執行猶予制度には, 自由刑の弊害を回避しつつ,執行猶予取消しによる施設収容の可能性に基づく威嚇効果によって,社会内で犯罪者の自発的な改善更生・再犯防止を図る点において重要な刑事政策的意義が認められる)。改善更生のために適切な指導監督・補導援護を要する者については,保護観察を付することもできる(保護観察付執行猶予)。
今回の改正は,執行猶予の要件を緩和することによって,社会内処遇に相応しい事例について執行猶予が活用できる範囲を拡張するとともに,執行猶予による再犯防止効果をさらに実効化するために,執行猶予の取消しが可能な範囲を拡充するものといえる。」(47頁)

 

これらの作業については、依頼者や依頼者家族と協議しながら進めていきます。私は、協同しながら作業することによって、依頼者や依頼者家族の理解も深まり、再犯防止にもつながると考えています。