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薬院法律事務所

刑事弁護

執行猶予期間経過後の再犯について


2021年07月27日読書メモ

執行猶予期間が経過しているので初犯同様に処分してくれないかと期待される方がいるのですが、現実的には以下のとおりです。

執行猶予期間中と違い、執行猶予をつけることが法律上困難なわけではないですが、厳しいです。特に同種犯行の場合は実刑を覚悟することが必要だと思います。

★大阪刑事実務研究会編著『量刑実務大系第4巻 刑の選択・量刑手続』(判例タイムズ社,2011年12月)62頁

【(イ)執行猶予満了後の再犯
後記7のとおり,執行猶予期間は,その一つの側面として,被告人が執行猶予の取消しという心理的強制を加えなくても更生の道を歩むことができるようになるまでの,一応の見込みの期間という意味合いを持つ。しかし,これはあくまで前刑判決時の一応の見込みにすぎず,肝心なのは,単にその期間が経過したかどうかではなく,その被告人が真実更生の道を歩んでいるかどうかである。執行猶予期間が経過したことは,前刑の執行猶予を取り消される可能性がなくなったことを意味するにすぎず,被告人が更生したことを意味するわけでもなければ, ましてや,法律上,被告人を初犯の場合と対等に取り扱うべきことを意味するものでもない。前刑の際の手続を通じて,自分の規範意識の不足や行動性向上の問題点等を認識し,社会内で更生を果たす機会を与えられたのに,再び罪を犯した以上,それは,少なくとも,その時期が執行猶予期間満了後短期間である場合は,更生を果たす機会を自ら放棄したことにおいて,執行猶予期間中の再犯の場合とさほど本質的な開きはない113)。
実刑と執行猶予との選択を,初犯の場合に準じた基準で行うことが許されるか否かは,結局,被告人がいったんはほぼ完全に更生していたと評価すべきか,犯罪性向が解消されず,更生を果たさないまま再犯に至ったと評価できるかに係っているであろうが,執行猶予期間満了後(あるいは執行猶予に係る判決の宣告後)特定の年数をもって, この両者を分ける目安とするのは難しい。ただ, ごく抽象的にいえば,執行猶予期間満了から1, 2年程度では,仮に,その間に犯罪が発覚しなかったのみならず,実際に犯罪に関与した事実が全くなかったとしても,それだけで更生を遂げていたといえるかどうか疑問であるし,将来の予測の問題としても,その程度の期間で再犯に陥ったという負の実績がある以上,再犯可能性が低いと予測することはなかなか困難である。したがって,その程度の場合に執行猶予を付する方向で考えることは難しい。ただ,再犯までの期間が同じであっても,前の犯罪と同種事犯であるかどうかのほか,その間,それなりに安定して健全な社会生活を送っていたか,職業が安定せず,前件の一因となった不良な人的交友関係も解消されていないなど,更生意欲に疑問が残るような生活態度であったか,再犯までの間犯罪と完全に絶縁していたか否かなどにより,最終的な評価は当然異なり得る”4)。そして,一応更生して生活していたといえるかどうかの限界線上にあるような場合には,保護観察付きの執行猶予とする選択肢も考慮に値するであろう。
具体的にどの程度の期間を経過すれば執行猶予を付する方向で考えられるかについては,本研究会での意見にも,ある程度の幅が見られた。例えば,覚せい剤の自己使用あるいは単純所持で,特に常習性その他の悪質性のない場合を念頭に置くと,執行猶予期間経過後1年程度で執行猶予を付するのは難しいが, 2年程度が経過していれば,執行猶予の方向で考えてよいのではないかとする見解(この見解は.前の判決宣告の時期ではなく,執行猶予期間経過時を基準とするため,猶予期間が3年なら,前判決から5年程度であれば,執行猶予の方向で考える余地が高まることになる。)もあった反面感銘を与えられる最後の機会が前の執行猶予判決であったことに着目し,基準時は当該判決の宣告時として,それから10年程度の経過は要求すべきではないかとする見解,更には,前の執行猶予判決宣告から5年を超えれば,被告人に非常に有利な事情が認められることを条件に執行猶予の選択もあり得る状況に至り,そこから更に10年以内であれば状況次第で両様の選択が考えられ,それを超えれば執行猶予を原則としてよいのではないかとする見解など,相当多様な見方が紹介され,有用な指標になる具体的な年数や起算の基準時(判決宣告時か,執行猶予経過時か)について,一応の共通認識が形成されるには至らなかった。】

 

【虎井寧夫『令状審査・事実認定・量刑』(2013年)308頁

第9問 執行猶予期間経過直後に犯した事件の量刑はどう考えたらよいでしょうか。

まず、執行猶予になった事件と同種の場合と異種の場合では少し異なるでしょう。執行猶予期間が経過したといっても、同種事件の再犯の場合は犯情がよくないので、執行猶予期間が経過しているというだけで軽々に再び執行猶予にはしがたく、執行猶予期間の末期に行った場合とさほど異ならず、実刑判決は十分あると思われます。特に、執行猶予期間中から、同種犯行が始まっていたことが窺われると、実刑の可能性が強いといえるでしょう。
これに対して、新事件が前の事件と全く性質の違う事件であれば、新事件についてさらに執行猶予もあると思います。
もとより、執行猶予期間が経過して問もない場合は、無条件に執行猶予にすることも可能なのですから、猶予期間中であっても再度の執行猶予を検討するようなよい情状があるケースでは執行猶予にすることも少なくないでしょう。
前の執行猶予期間が、例えば5年間で長すぎると評価される場合などは、その点が執行猶予にするための一要素となることもあるかもしれません。】