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薬院法律事務所

刑事弁護

息子が女性を刃物で脅して、強盗致傷罪で逮捕されたという相談(強盗、刑事弁護)


2018年07月20日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市に住む50代自営業者です。先日、警察から連絡があり、息子が夜中に刃物で女性を脅してハンドバッグを奪ったということで逮捕されたと聞きました。強盗致傷罪といわれていて、国選弁護人の方からは、被害者の処罰感情が強く示談ができない、刑務所に行くかもしれないといわれています。国選弁護人の方は忙しいのか、私から連絡をしても折り返しがないことが多く、やる気が感じられません。私選弁護人に変えた方がいいでしょうか。

A、私選弁護人に変更したからといって、結果が良くなるとは限りません。裁判員裁判となれば、私選弁護人であれば相応の費用がかかります。とはいえ、最善を尽くすということであれば、起訴前から私選弁護人に変更して、検察官と起訴罪名について交渉してもらうことは考えられます。起訴された場合には強盗致傷罪で有罪となる可能性が高いですが、起訴前であれば検察官が慎重に判断して、恐喝と傷害事件に罪名を変更して(軽くして)起訴してくる可能性もあります。

 

【解説】

判例タイムズ2018年5月号の大阪刑事実務研究会「強盗致傷罪における暴行・脅迫の程度、強盗の機会の認定」に着想を得て作成した記事です。強盗罪とされるか、恐喝罪とされるかにより、刑罰は大きくことなります。強盗罪で逮捕・勾留された場合に弁護人が考えるべきことは、「強盗罪」ではないといえるかどうかを検討することです。一般的にはご相談の事例では「強盗罪」が成立すると考えられますが、状況次第では検察が強盗致傷罪での起訴を避ける可能性もなくはないです。難しい事案ですが、私選弁護人への切り替えを検討して良い事案だと思います。

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

(強盗)
第二百三十六条 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

(事後強盗)
第二百三十八条 窃盗が、財物を得てこれを取り返されることを防ぎ、逮捕を免れ、又は罪跡を隠滅するために、暴行又は脅迫をしたときは、強盗として論ずる。
(強盗致死傷)
第二百四十条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

(恐喝)
第二百四十九条 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 

判例タイムズ2018年5月号の大阪刑事実務研究会「強盗致傷罪における暴行・脅迫の程度、強盗の機会の認定」では、深夜に通行中の女性に対してカッターナイフを示しながら脅迫して、強盗致傷罪で起訴された事件を素材に議論がされています。この事件では、手提げバッグの奪い合いとなり、女性が手提げバッグを離して逃げ出した後、被告人が追跡して馬乗りになり暴行を加えて怪我をさせています。地裁では、恐喝罪(暴行・脅迫の程度が低い)と傷害罪(既にバッグを確保しており強盗目的ではない)とされましたが、高裁で強盗致傷罪とされています。

問題となったのは、Ⅰ手提げバッグを奪う際の暴行・脅迫は反抗を抑圧するに足りる程度か、Ⅱ被害者が逃げ出した後の暴行が「強盗の機会」になされた暴行か、の2点です。

Ⅰについては、地裁は、①凶器の性状と被害者の認識、②周囲の状況(犯行時刻・場所)、③被害者の性別、④被害者の抵抗等を考慮要素として、①につき刃が出ていないことや④の抵抗を重視して、反抗を抑圧するに足りる暴行でないとしました。一方、控訴審は、地裁は最も重要な①を軽視し、④を重視しているとしています。論考では、「予想される加害の重さや加害意思の強さを示す事情(暴行脅迫の態様・程度等)」、「その加害の実現可能性を示す事情(犯行の時間・場所・周囲の状況等)」、「その加害行為からの回避可能性を示す事情(犯行の時間・場所・周囲の状況等)」に従って当事者に主張・立証を促すことが有効ではとされています。いずれにしても、もっとも重要なのは暴行・脅迫の態様ということです。

Ⅱについては、判例は強盗との関連性に照準を合わせて強盗の機会を判断しているといわれており、強盗との関連性がなく、新たな決意に基づいての暴行であれば強盗の機会を否定する立場に立っているそうです。

ちなみに、この事件は被害女性の証人尋問が行われていないので、強盗致傷罪の成立に争いがなかった事例ではないかというコメントがされています。

なお、この論点については、判例タイムズ1351号,1352号,1354号の「強盗罪」が最重要文献のようです。

 

【参考文献】

丸山嘉代「悩める現場の誌上事件相談室 検事!この事件、どうすればいいですか?(第13回)強盗?それとも恐喝?」警察公論2017年10月号56-64頁

59頁

【一般的に, 凶器を用いた暴行, 脅迫は被害者の反抗を抑圧するに足りる程度のものとして強盗の成立が認められています。拳銃を使用した場合はもちろん,刃物を突きつけた場合も, ごく稀な例外を除いて強盗の成立が認められています。】