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薬院法律事務所

大阪刑事実務研究会「強盗致傷罪における暴行・脅迫の程度、強盗の機会の認定」ほか 判例タイムズ2018年5月号

2018年07月20日読書メモ

判例タイムズ2018年5月号。
大阪刑事実務研究会「強盗致傷罪における暴行・脅迫の程度、強盗の機会の認定」

深夜に通行中の女性に対してカッターナイフを示しながら脅迫して、強盗致傷罪で起訴された事件を素材に議論がされています。この事件では、手提げバッグの奪い合いとなり、女性が手提げバッグを離して逃げ出した後、被告人が追跡して馬乗りになり暴行を加えて怪我をさせています。地裁では、恐喝罪(暴行・脅迫の程度が低い)と傷害罪(既にバッグを確保しており強盗目的ではない)とされましたが、高裁で強盗致傷罪とされています。

問題となったのは、Ⅰ手提げバッグを奪う際の暴行・脅迫は反抗を抑圧するに足りる程度か、Ⅱ被害者が逃げ出した後の暴行が「強盗の機会」になされた暴行か、の2点です。

Ⅰについては、地裁は、①凶器の性状と被害者の認識、②周囲の状況(犯行時刻・場所)、③被害者の性別、④被害者の抵抗等を考慮要素として、①につき刃が出ていないことや④の抵抗を重視して、反抗を抑圧するに足りる暴行でないとしました。一方、控訴審は、地裁は最も重要な①を軽視し、④を重視しているとしています。論考では、「予想される加害の重さや加害意思の強さを示す事情(暴行脅迫の態様・程度等)」、「その加害の実現可能性を示す事情(犯行の時間・場所・周囲の状況等)」、「その加害行為からの回避可能性を示す事情(犯行の時間・場所・周囲の状況等)」に従って当事者に主張・立証を促すことが有効ではとされています。いずれにしても、もっとも重要なのは暴行・脅迫の態様ということです。

Ⅱについては、判例は強盗との関連性に照準を合わせて強盗の機会を判断しているといわれており、強盗との関連性がなく、新たな決意に基づいての暴行であれば強盗の機会を否定する立場に立っているそうです。

ちなみに、この事件は被害女性の証人尋問が行われていないので、強盗致傷罪の成立に争いがなかった事例ではないかというコメントがされています。弁護人も控訴審と同様に強盗致傷は争えないと考えていたのかもしれませんが、注意しないといけませんね(^_^;

なお、この論点については、判例タイムズ1351号,1352号,1354号の「強盗罪」が最重要文献のようです。

Facebookに名誉毀損投稿がされた事例で、ログイン時のIPアドレスについて発信者情報の開示を求めたけど認められなかった東京高裁平成29年2月8日判決は厳しいですね。たまたま投稿の13日前に他のIPアドレスでのログイン履歴があるから、発信者情報開示が認められないというもの。
「法は、2ちゃんねるのように、ウェブサイトの管理者が、個別の投稿ごとに当該投稿の発信者に係る情報を記録している場合には、有効に機能する。しかし、投稿ごとの発信者に係る情報の記録がウェブサイトの管理者に義務づけられていない現行法制度の下においては、投稿ごとの記録をしていないウェブサイト上の権利侵害について、発信者についての情報開示を認めないことがあることも、やむを得ないことである」

CG児童ポルノの東京高裁平成29年1月24日判決の解説も出ています。警察学論集の解説では言及がなかったように記憶しているのですが、この判決って児童ポルノ等処罰法の立法趣旨を実在の児童保護だけでなく社会的法益の保護も含まれるとしているのですね。
「児童の権利侵害を防ぐという同法の目的を達成するためには、現に児童の権利を侵害する行為のみならず、児童を性欲の対象としてとらえる社会的風潮が広がることを防ぐことにより、将来にわたって児童に対する性的搾取ないし性的虐待を防ぐことが要請されるというべきである。この意味において、同法の規制の趣旨及び目的には、社会的法益の保護も含まれるといえる」
うーん、なんだか釈然としない。結論には余り影響しないところかもしれませんが。

今月号は、その他にも取調時の警察官の言動で慰謝料請求が認められた事例や、民間企業において外国人からの無料資料送付請求を断ったことが違法とされた事例など興味深いものが多かったです(公衆浴場や飲食店などの社会通念上誰でも利用出来ることが原則となっている施設ではない)。解説で、大村敦志先生の、「公衆」に向けて「公開」の形で契約の相手方を求める場合は、恣意的な排除・選別が許されず、不合理な理由による差別的取り扱いは相手方の人格権を傷つける行為と評価される旨の文献(『不法行為判例に学ぶ社会と法の接点』)が紹介されています。

http://www.hanta.co.jp/books/6920/