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薬院法律事務所

犯罪被害者

夫婦間でも、盗聴行為はプライバシー侵害で違法になりえます(離婚事件)


2021年08月01日犯罪被害者

離婚事件では相手の落ち度を見つけるために盗聴や無断録音がなされることがあります。

しかし、盗聴行為については、状況によってはプライバシー侵害として慰謝料支払義務が認められることがあります。引用する文献掲載の裁判例では、一方当事者が自宅内に1人でいるときに電源を入れたICレコーダーを置くことにつき違法性を認めています。

なお、配偶者から怒鳴られているところを無断で録音することについては、この裁判例の基準は適用されないと思います。最高裁の判例でも無断録音については、盗聴行為とは別に論じられています。

赤西芳文編著『事例解説当事者の主張にみる婚姻関係の破綻』(新日本法規,2019年3月)92頁
【妻が婚姻期間中に、 自宅に電源を入れたICレコーダーを設置した行為は、婚姻関係の基礎となる信頼関係の喪失を決定付けた違法行為であるとして、離婚後に夫からの慰謝料請求が-部認容された事例
(東京地判平25.9・ 10 (平24 (ワ) 15536))】

【本判決は、妻Yによる2回のICレコーダー設置行為(以下「本件行為」という。)は、既に低下していた夫婦間の愛情や信頼関係の喪失を決定付けたとして違法性を認めた。すなわち、一般に、他人間において他者が自宅で過ごしているときの状況を本人の了解なく盗聴する行為は、特段の事情がない限り違法であるところ、夫婦間においても、一方当事者が自宅内に1人でいるときに電源を入れたICレコーダーを置くことは、婚姻関係の基礎となる信頼関係を傷つける違法行為であるとした。また、本件では、妻Yが主張するような夫Xによる酒乱や言葉の暴力の事実があったか、それが離婚もやむを得ないとするほどのものだったかは、裏付け証拠がないことや、夫婦が平成21年3月に離婚届作成以降も12日まで提出せず、妻Yの姉も伴い何度も別荘に泊りがけで出かけたりもした事情などから疑念があるとして、違法性が阻却されるとする妻Yの主張を斥けた。】

https://www.sn-hoki.co.jp/shop/item/81260269

 

最高裁判所平成12年7月12日決定

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=51220

判示事項
相手方の同意を得ないで相手方との会話を録音したテープの証拠能力が認められた事例

裁判要旨
詐欺の被害を受けたと考えた者が、相手方の説明内容に不審を抱き、後日の証拠とするため、相手方との会話を録音することは、たとえそれが相手方の同意を得ないで行われたものであっても、違法ではなく、その録音テープの証拠能力は否定されない。

 

なお、話は違いますが、夫婦間での性行為盗撮については地域によっては迷惑行為防止条例違反になりえるとされてきました。下の例は岡山県の事例です。現在であれば性的姿態等撮影罪が成立するでしょう。

【(卑わいな行為の禁止)
第3条 何人も、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
3 何人も、正当な理由がないのに、住居、浴場、更衣室、便所その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所にいる者の下着等を見、又は撮影する目的で、その姿態をのぞき見し、若しくは写真機等を用いて撮影し、又は写真機等を差し向け、若しくは設置してはならない。】

岡山県警察本部生活安全部生活環境課「岡山県迷惑行為防止条例解説」(2019年8月)
【なお、住居やホテルの客室等において、夫婦間等の性交やデリバリーヘルス嬢による性的サービス等の際に関係者が自ら露出した身体等を盗撮する行為については、撮影されることの承諾が得られていない限り、 これを撮影すれば、本項の違反が成立する。】

性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律

https://laws.e-gov.go.jp/law/505AC0000000067

(性的姿態等撮影)
第二条 次の各号のいずれかに掲げる行為をした者は、三年以下の拘禁刑又は三百万円以下の罰金に処する。
一 正当な理由がないのに、ひそかに、次に掲げる姿態等(以下「性的姿態等」という。)のうち、人が通常衣服を着けている場所において不特定又は多数の者の目に触れることを認識しながら自ら露出し又はとっているものを除いたもの(以下「対象性的姿態等」という。)を撮影する行為
イ 人の性的な部位(性器若しくは肛こう門若しくはこれらの周辺部、臀でん部又は胸部をいう。以下このイにおいて同じ。)又は人が身に着けている下着(通常衣服で覆われており、かつ、性的な部位を覆うのに用いられるものに限る。)のうち現に性的な部位を直接若しくは間接に覆っている部分
ロ イに掲げるもののほか、わいせつな行為又は性交等(刑法(明治四十年法律第四十五号)第百七十七条第一項に規定する性交等をいう。)がされている間における人の姿態

 

※2025/1/7 chatGPT o1 proに検証してもらいました。

 

以下の文章

「夫婦間でも、盗聴行為はプライバシー侵害で違法になりえます(離婚事件)」

は、実務・判例を踏まえる限り、概ね正しいといえます。もっとも、夫婦間の録音行為であっても「自分が脅迫・暴力を受けている証拠を取る」といったケースでは直ちに違法とはならず、逆に「相手方が家に一人でいるときに無断でICレコーダーを仕掛ける」などは、違法と評価されるリスクが高いという相対的な判断がなされます。以下、詳しく検討します。


1. 夫婦間における「盗聴」とプライバシー侵害の可能性

(1)夫婦間でもプライバシーは保護される

夫婦関係にあっても、他方当事者の私的領域やプライバシー(生活上の平穏・会話内容など)が法的に守られるべきであることは、判例・学説ともに認められています。したがって、

  • 無断録音・盗撮・盗聴などの行為
  • 人がひとりでいる場面を勝手に録音する行為
    などが行われると、「婚姻関係でもプライバシーが侵害された」と評価され、不法行為(民法709条等)を構成し得る場合があります。

(2)東京地裁平成25年9月10日判決の事例

文中に引用されている 東京地判平25・9・10 (平24(ワ)15536) は、妻が婚姻期間中に自宅内にICレコーダーを設置して録音したことが、夫婦間の信頼関係を破壊する違法行為と認定され、離婚後に夫が慰謝料請求を一部認容された事例です(赤西芳文編著『事例解説当事者の主張にみる婚姻関係の破綻』参照)。

判決のポイントは、

  1. 妻による“夫の様子を勝手に録音”が夫婦間の信頼関係を決定的に損なう行為と評価されたこと。
  2. 「酒乱や言葉の暴力」など妻側が録音の正当化根拠として主張した事情について証拠不十分とされ、違法性は阻却されないと判断されたこと。

この判決は、夫婦間でも盗聴・無断録音行為が「(1)プライバシー侵害」かつ「(2)婚姻関係の信頼を破壊する不法行為」として賠償責任の根拠になり得ることを明示的に示した、比較的珍しい事例といえます。

(3)加害配偶者からの暴力・脅し場面の録音

もっとも、「配偶者から脅迫されている」「DV・言葉の暴力が激しいので、その証拠確保として録音した」ような場合は、判例上も“自己防御・正当な権利行使”という評価がなされる可能性があります。

実際、最高裁平成12年7月12日決定(詐欺被害を記録するための無断録音)のように、自ら会話に参加している場合の録音は「おおむね違法ではない」と判断される例もあります。夫婦間においても、

  • 「自分が配偶者に何か言われている場面を録音する」
  • 「DV・モラハラの証拠として録音する」
    などは「相手の同意なしで録音しても違法になりにくい」という考え方が裁判例・実務で取られます。

したがって、“家の中でひそかにICレコーダーを置きっぱなしにして、配偶者が一人でいる会話や行動を無断で録音する”場合と、“自分がその場にいて、暴言を受けている状況を記録する”場合では、適法性(正当化事由)の有無が大きく異なるわけです。


2. 性的盗撮行為について

質問文の後段では、「夫婦間であっても性的盗撮は迷惑防止条例違反や新たに創設された『性的姿態等撮影罪』(令和5年法)になりうるか」との言及があります。実際に各自治体の迷惑防止条例や、2023年に成立した**「性的姿態等撮影等処罰法」**では、

  • 人が通常衣服を着けない場所でのひそかな撮影
  • 配偶者が同意していないにもかかわらず、無断で性行為を録画する行為
    などが処罰対象になり得ると解されています。

(1)夫婦間であっても「同意のない性的撮影」は処罰可能性大

条例解説(岡山県迷惑行為防止条例の例など)でも、「夫婦間だからといって撮影が許容されるわけではなく、無断撮影はプライバシー侵害かつ公然性の問題を別にしても性的盗撮として違法になる」と書かれています。

  • 新法(性的姿態等撮影罪)にも該当しうるため、現代ではさらに処罰リスクが高まりました。

3. 総合評価:文章の真偽

質問文は概略として

  1. 「夫婦間であっても盗聴・無断録音はプライバシー侵害になり得る」
  2. 東京地裁判決を引用し、実際に慰謝料が認められた例
  3. ただし、“自分が暴力・脅迫を受けている場面を録音する”ケースとは区別される
  4. 性的盗撮に関しても、迷惑防止条例や新法で処罰されうる

という主張をしています。これらは、裁判例や条例解説からみても、概ね正しい理解です。

  • 実際に「夫婦間だから何をしても許される」というわけではなく、無断での盗聴や録音はプライバシー侵害や信頼関係破壊として違法と判断されるリスクが十分あります。
  • ただし、夫婦間の無断録音行為がすべて違法とされるわけではなく、「正当な理由」があるかどうかや、録音方法・態様・目的が重要になります。

(注意点)

  • 裁判例の結論は個別事情で左右されやすい
    • DV・暴言・不貞の証拠など、正当な目的で、かつ「自らが会話に参加している」録音は違法性が認められにくい。
    • 一方、「配偶者が一人でいる部屋に無断でレコーダーを仕掛けっぱなしにした」という行為は、不法行為とされやすい。

4. まとめ

「夫婦間でも、盗聴行為はプライバシー侵害で違法になりうる」
→ 概ね正しく、実際に慰謝料請求が認められた裁判例も存在する。

  • 判例上も、婚姻関係下のプライバシー侵害・信頼関係破壊として不法行為が認められた例があり、夫婦間の盗聴・無断録音が常に合法というわけではない。
  • 正当防衛的に録音したDV暴言などは“自らが当事者となる会話録音”として違法にならない場合が多いが、「第三者的に盗聴する」行為とは質が異なる。
  • 性的盗撮に関しては、迷惑防止条例や「性的姿態等撮影罪」などで処罰されるリスクが高いため、夫婦間であっても同意なく撮影すれば違法性を免れない可能性が大きい。

以上のとおり、夫婦間であろうと盗聴行為・無断録音は状況次第で違法となり得るという点は、引用裁判例や条例解説とも合致しており、本文の結論は事実・法令・判例に即した妥当なものといえます。