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薬院法律事務所

窃盗(万引き)

店内のトイレに未精算の商品を持ち込んだことは万引きになるかという相談(万引き、刑事弁護)


2024年09月26日窃盗(万引き)

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、福岡市内に住む40代の主婦です。結婚して子どもができた後くらいから時々万引きをするようになり、現在は、執行猶予中の万引き前科があります。先日、ショッピングセンターで化粧品を購入しようとしたのですが、手に取った時に衝動的に盗みたい気持ちになり、手の中に隠したままトイレに入って個室内でハンドバッグに入れました。そのうち気持ちが落ち着いたのでトイレの外に出たのですが、店員が見張っていたようで、「化粧品をどうしましたか。」と訊かれて正直に応えました。私は万引きをしたということになるのでしょうか。

A、理論的には窃盗既遂罪になります。もっとも、状況からすれば不起訴処分も狙える内容だと思います。

 

【解説】

 

窃盗罪は、他人の財物を「窃取」することによって成立します。この「窃取」については、他人の支配下から、犯人の支配下に財物の占有が移転したか、換言すれば支配下に移動したかによって判断されます。そのため、万引き事件については、買い物かごに入れている間は、将来盗もうと思っていても占有が移転していませんので窃盗罪にあたらず(理論上は窃盗未遂罪が成立し得る場合もありますが、外観からは正常な買い物客と区別できませんので事件になりません)、持参のエコバッグなどに入れた場合には窃盗罪が成立し得ます。ここで「し得る」と書いているのは、窃盗罪の成立には「不法領得の意思」が必要ですので、そのまま精算するつもりであれば窃盗罪が成立しないからです。そのため、通常の場合は、店舗スタッフはこのような行為が発生してもあえて声をかけず、万引き犯がレジで精算せずに通過し、店を出た時点で声をかけるという対応をします。

では、未精算の商品をトイレに持ち込んだ場合はどうでしょうか。最近は店舗において未精算の商品をトイレに持ち込まないように明示していますので、トイレに持ち込んだ時点で窃盗の「故意」は推認されます。とはいえ、これでは不十分で、さらに本件のように「ハンドバッグの中にいれる」ということがないと万引き事件としての立件は困難ということが多いでしょう。とはいえ、それでも本人が否認している場合は起訴できないということも考えられます(後掲参考文献)。

そのこととのバランスを考えると、本件のような事例では、検察官の判断によりますが…起訴猶予処分もあり得ると考えます。

 

刑法

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

(未遂減免)
第四十三条 犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった者は、その刑を減軽することができる。ただし、自己の意思により犯罪を中止したときは、その刑を減軽し、又は免除する。

(窃盗)
第二百三十五条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

 

【参考文献】

 

丸山 嘉代『悩める現場の誌上事件相談室 検事! この事件,どうすればいいですか?(第20回)窃盗既遂? それとも窃盗未遂?』警察公論2018年5月号58-65頁

65頁

【例えば,スーパーマーケットのレジの内側でガムなどの小さな商品を自分のポケットに入れたような場合には, 自分の支配内にガムを移した,すなわち既遂に達したといえそうですが,仮にスーパーマーケットの警備員がその時点で声を掛けた際相手から「うっかりポケットに入れましたが, レジで代金は払うつもりでした」と言われたら,窃盗の故意を立証するためには, もう一押し証拠が必要になりそうです。例えば,他の商品はスーパーマーケット備付けの買物かごに入れていたのに,ガムだけをポケットに入れていたとか,ガムの値札をはがしていたなどの行為があれば,窃盗の故意を推認させる「一押し」になりそうです。
いずれにしても,窃盗が既遂に達するためには, 「窃盗の故意で商品を自己の支配内に移した」ことが必要ですから,①窃盗の故意と②商品を自己の支配内に移したという2つの要件を立証するための証拠があるかどうかという観点で捜査を進めていってください。】

 

 

【解決事例】服役前科ありの窃盗癖(クレプトマニア)の再犯で、不起訴にできないかという相談