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薬院法律事務所

刑事弁護

恩田剛「ある日の令状面接室適正な令状請求を目指して 第17回 捜索・差押の必要性」警察公論2023年2月号76頁


2024年01月29日読書メモ

捜索・差し押さえについては、刑事訴訟法218条1項、刑事訴訟規則155条1項・156条3項にその定めがあります。

※刑事訴訟法
第二百十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=323AC0000000131_20231215_505AC0000000066&keyword

 

※刑事訴訟規則
第百五十五条 差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証のための令状の請求書には、次に掲げる事項を記載しなければならない。
第百五十六条 前条第一項の請求をするには、被疑者又は被告人が罪を犯したと思料されるべき資料を提供しなければならない。
(略)
3 被疑者又は被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所についての捜索のための令状を請求するには、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況があることを認めるべき資料を提供しなければならない。

https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/2023/keijisosyoukisoku.20231115.pdf

 

このとおり、捜索・差押については、犯罪の嫌疑、差し押さえるべき物の存在を認めるに足りる状況、捜索・差押の必要性(最決昭44年3月18日刑集23巻3号153頁) が必要とされています。その必要性とは、「…差押物が証拠物または没収すべき物と思料されるものである…場合であっても、犯罪の態様、軽重、差押物の証拠としての価値、重要性、差押物が隠滅設損されるおそれの有無、差押によって受ける被差押者の不利益の程度その他諸般の事情に照らし明らかに差押の必要がないと認められるときにまで、差押を是認しなければならない理由はない。」
(最決昭44.3.18刑集23.3.153)とされています。

 

ただ、この「必要性」が否定されることは実務上はあまりないと思われます。標記の記事では、少年事件という特殊性も踏まえて、捜索・差押の必要性を否定しています。警察に意見書を提出する際の参考になるでしょう。

 

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50926

最高裁判所判例集
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事件番号
昭和43(し)100

事件名
司法警察職員のした差押処分を取消す裁判に対する特別抗告

裁判年月日
昭和44年3月18日

法廷名
最高裁判所第三小法廷

裁判種別
決定

結果
棄却

判例集等巻・号・頁
刑集 第23巻3号153頁

原審裁判所名
東京地方裁判所

原審事件番号
原審裁判年月日
昭和43年11月22日

判示事項
一 刑訴法四三〇条による不服申立を受けた裁判所と差押の必要性に関する審査権

二 事件送致後の司法警察職員と押収処分に関する裁判に対する特別抗告権

裁判要旨
一 検察官等のした差押に関する処分に対して、刑訴法四三〇条の規定により不服の申立を受けた裁判所は、差押の必要性の有無についても審査することができる。

二 司法警察職員は、事件を検察官に送致した後においては、当該事件につき司法警察職員がした押収に関する処分を取り消しまたは変更する裁判に対して抗告を申し立てることができない。

参照法条
刑訴法99条1項,刑訴法218条1項,刑訴法222条1項,刑訴法430条,刑訴法203条1項,刑訴法352条,刑訴法433条

 

なお、令状の発付自体はできても、その執行方法が被疑者の名誉を著しく害する場合には、違法となることもありえるでしょう。この点については、大阪高判平成9年2月14日判例時報1608号160頁があります(北岡克哉『Q&A実例証拠収集の実際〔第3版〕』(立花書房,2018年8月)70頁に解説あり)。

【所論にかんがみ、以下若干補足して説明する。
関係証拠によれば、捜査当局は、捜査の取材申込みをしたテレビ局関係者に対し、<1>捜査の妨害をしないこと、<2>被疑者の顔部分にモザイクをかけるなど、その人権に配慮すること、<3>捜査官の顔を撮影しないことを確約させた上、右テレビ局カメラマンらの同行を認めたこと、大阪府警察本部及び南警察署の警察官は、大阪市中央区西心斎橋二丁目五番九号前路上において、平成七年三月二三日午前一一時三五分ころから約六分間、被告人の身体に対する捜索差押許可状を執行し、被告人を現行犯逮捕した上、同日午前一一時四一分ころから約九分間、逮捕現場での捜索差押えを実施し、さらに、被告人を同行した上、同区難波一丁目三番一号南OSプラザ地下において、同日午後八時四五分から約九分間、コインロッカー一〇番に対する捜索差押許可状を執行したこと、その間、右テレビ局のカメラマンは、右確約の趣旨に従い、その状況をテレビカメラで撮影し、後にテレビ放映していることが認められる。
そして、捜査当局は、あらかじめ報道機関に右<1>ないし<3>の遵守事項を確約させているが、このことは、捜査妨害の防止及び人権保護に関する報道機関の自覚を促すための当然の措置に過ぎず、報道機関に対し、本件捜索差押え現場への同行を認めるという以上の便宜ないし関与を認めているものではなく、それ自体が令状の執行方法でないことは明らかであること、さらに、令状の執行状況の撮影にしても、捜査官が本件執行現場で報道機関を具体的に指揮監督したということはなく、報道機関が自由な取材活動の一環として独自に実施したものであり、令状の執行とテレビカメラ撮影とは別個独立して併存したに過ぎないから、その撮影及び事後の放映によって、被告人の名誉が仮に害されるようなことがあったとしても、これは、報道機関と被告人との関係での問題であり、令状の執行方法自体の適法性に何ら影響するものではないというべきであること、そして、本件撮影が事前に捜査当局の了解を得たものであっても、その撮影は、一般公道上における報道機関独自の取材活動と外形的には変わりがなく、しかも、被告人は、テレビカメラで撮影されるのを認識しながら、終始これに異議を唱えていないことなどの諸点に照らすと、捜査当局がテレビ局側に対して与えた同行許可の措置が適切妥当なものであったか否かはさておき、本件捜索差押えとしての執行それ自体が、右撮影により違法となるとはいえない。仮に、所論のように、右事前了解の点を含め、その執行方法の相当性に疑問があるとの考えを前提としたとしても、本件捜索差押手続きは、裁判官が適法に発付した捜索差押許可状に基づき行われているのであり、右撮影は、本件押収物の発見とは直接関係のないものである上、捜査官の側にこれを利用して捜索差押えを有利に展開しようとするなどの意図のなかったことが明らかであるから、本件捜索差押手続きにおける瑕疵の程度は、法の所期する令状主義の精神を没却するような重大なものとは認められず、さらに、将来におけるこの種捜査の抑制の見地からしても、本件押収物及びこれに基づく他の押収物等の証拠能力を否定するのが相当であるともいえない。】