捜査協力費を交付して得た証拠の証拠能力
2021年09月09日読書メモ
捜査協力費の支出は今も普通に行われており、警察官の昇任試験問題集にも頻出です。ただ、あまりこの点が争点になった事例はないので紹介します。
長沼範良ほか編著『別冊判例タイムズ26号 警察基本判例・実務200』(判例タイムズ社,2010年2月)137事件
松江地裁昭和57年2月2日判決
昭和56年(わ)第5号, 昭和56年(わ)第24号
殺人未遂教唆有印私文書偽造・同行使被告事件
有罪(控訴後取下・確定)
判タ466号189頁, 判時1051号162頁
憲法31条, 刑事訴訴法1条・317条・328条
園原敏彦 東京地方裁判所判事
【裁判所は,要旨以下のように判示した。本件テープは, A証言の弾劾のため,証拠として提出されたものであって‘犯罪事実認定の証拠とはなり得ないから, その意味での証拠能力は問題とならないけれども‘本件テープの収集手続に重大な違法があれば‘弾劾証拠としても許容されないと考えられるので, その証拠能力について判断する, と前置きした上で,捜査機関がAに対して5万円を交付した点については, 「一般的に, 捜査機関が捜査協力費の提供を条件に犯罪に関する情報や証拠を入手することは好ましいことではないが, すべての人が捜査に協力的であるともいえないことは事実であるから,捜査機関が証拠の提供を受けた後‘ その提供者に捜査協力費を交付した場合,それによって得られた証拠の証拠能力については,捜査の段階進展状況,捜査協力費の額金員授受の状況及び経緯,証拠の種類等の諸事情を総合し,金員授受に捜査の公正を疑わせるに足るほどの重大な違法があったかどうかによって決するのが相当と考える。」 という判断基準を示した。そして, これを本件に当てはめ‘ 本件テープはAから任意提出され, その後5万円が本件テープ提供に対する協力費として交付されたものであり, 5万円という金額自体は捜査協力費として社会通念上やや高額と思われるものの, Aが執勧に高額の金員を要求したため,捜査機関においてやむなくこれに応じたもので, 当時の被告人に対する捜査状況,本件事案の特異性及び重大性,本件テープの証拠としての重要性並びにAの売り込みという特殊事情を考盧すれば, 5万円の交付は捜査遂行上やむを得ない措置として是認され,従って本件テープの入手過程に違法の点はなく,その証拠能力に欠ける点はない, とした。】