捜査段階における「積極否認」のメリット(痴漢、刑事弁護)
2023年08月11日刑事弁護
最近は、捜査弁護は「黙秘」だ、という考え方が広まっています。それ自体は、意義のあることです。特に、国選弁護のように被疑者が逮捕されている段階から始まる場合は、「黙秘」の助言が弁護人の立場で最適ということはしばしばあるでしょう。ただ、私は常に黙秘が最適解とは考えていません。
特に、在宅事件では積極否認をすることが多いです。
その理由は3つあります。
第一の理由は、弁護人から「否認の裏付けを確認するためにこういう捜査をすべきだろう」と警察や検察にいえることです。そういう申し入れがあれば、起訴前であれば動く可能性が高いですし、捜査機関は弁護人よりはるかに容易に証拠を集められます。防犯カメラひとつ弁護人の立場ではなかなか入手できないわけで。このあたりは、20年前くらいの、自白や関係者供述に頼らないと犯罪を立証できなかった時代に比べて、黙秘が最善といえなくなってきている事情だと考えています。
第二の理由は、身体拘束の回避(&実名報道の回避)につなげやすいことです。
供述内容がしっかりしているほど、証拠隠滅や逃亡のおそれがないことを積極的に示せます。
第三の理由は、捜査段階であれば、依頼者の濡れ衣を晴らしやすいからです。
これはさらに分けると2つの理由があります。
一つの理由は「シロ」の証拠(典型は防犯カメラ)も時間とともに散逸するからです。また、警察・検察は起訴した後は積極的に「シロ」の捜査をすることを回避しがちなので、捜査段階で動いてもらう必要が高いです。
もう一つの理由は、捜査機関の心理です。自分や、自分の仲間のやってきたことを否定されるのは、誰にとっても嫌なことです。警察官、検察官にとっても、捜査が進んでしまってから、特に起訴されてからそれが否定されるのは非常な苦痛です。早期段階であれば、まだ捜査は流動的で変わります。
いろいろと批判はありますが、ほとんどの警察官・検察官は「正しいことをしたい」「苦しんでいる人を助けたい」と思っていますし(たまに、悪人を苦しめたいという動機が強い人もいますが、冤罪を生みやすいので、現在はかなりはじかれているはずです)、そういう気持ちに寄り添ったコミュニケーションは、捜査に従事する方の心を動かします。
上記逮捕回避の記事で、意見書のサンプルを載せましたが、私はですます調で意見書を書きますし、警察官に礼を尽くしています。意見書に引用する文献も、捜査実務で使われているものを中心にしています。立花書房や東京法令出版が多いのはこのためです。警察官にとって信頼性が高いというのもありますし、「あなたの仲間もこういってるんですよ」、という意味もあります。意見書の末尾は「ご検討ください。」といった形で〆て、警察の判断次第なんですよ、としています。一方で、なるべく捜査に対する解像度をあげて、弁護人が軽視できない存在ということを示します。私が警察官向けの文献を積極的に収集している理由も、ここにあります。