未成年者との性行為はなぜ処罰されるのか(青少年健全育成条例・淫行)
2024年02月12日刑事弁護
以前、17歳の高校生と性行為をした青少年健全育成条例違反の依頼者と話をしていて、「なんで、相手も喜んでいたのに処罰されるのか。18歳と17歳のどこが違うのか。」といったことを言われまして「確かにそうだよね…」ということであれこれ考えたことがあります。
そもそも、未成年者、成人問わず「相手の人格と人生に対する配慮(思いやり)を欠いた性行為」は相手を傷つける可能性が高いのです。そのような行為のうち、類型的に「相手の人格と人生に対する思いやりを欠いた性行為」といえるものを取り出して処罰しているのが青少年健全育成条例だと考えています。18歳となればそうならないわけではなく、条例としての都合上、処罰対象外としているだけです。後記の最高裁判例の判示を、わかりやすくいうとそういうことだと思います。
だからいわゆる「婚約中その他の真摯な交際」が処罰対象外になり、実務上、「淫行」にあたるかは、両者の年齢差(年齢差が大きいほど「淫行」にあたるとされやすくなる)、性交に至る経緯(当事者の出会いから初めて性交渉をもつまでの期間、その間の交際状況)、両者間の交際の態様(保護者が両者の交際を承認していたか、性関係後も交際していたか等)が考慮されています。
私は、その本質が忘れられて「相手が未成年者か否か」に注目していると、「相手の人格と人生に対する配慮を欠いた性行為」か否かが、加害行為になるか否かの分水嶺であることが忘れられていくのではないかと危惧しています。ホストクラブ問題で女性を「自己責任」と切り捨てるような議論は、こういう「年齢」で線引きする発想の弊害でしょう。18歳になったからといって「自己責任」と割り切れるものばかりではないです。
そういったことを考えていくと、単純に「未成年者と性行為をしてはいけない」というよりも、「相手の人格と人生に対して配慮しなければいけない(思いやりを持たないといけない)」ということを言っていくべきではないかと考えています。これは、未成年者同士での加害と被害を抑制するという観点からも重要なことです。この点、「そもそも未成年者に欲情するのが異常者なんだ」という意見もあるでしょうが、人間の体は未成年者か否かという法律の都合に合わせて作られていませんので、無理があります。人間の体は、17歳と18歳とを区別できるようにはできていません。むしろ、「相手の人格と人生に対する思いやりがある成人は、未成年者と性行為をすることはない」と言っていくべきだろうと、私は考えています。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=50269
- 事件番号
- 昭和57(あ)621
- 事件名
- 福岡県青少年保護育成条例違反
- 裁判年月日
- 昭和60年10月23日
- 法廷名
- 最高裁判所大法廷
- 裁判種別
- 判決
- 結果
- 棄却
- 判例集等巻・号・頁
- 刑集 第39巻6号413頁
- 原審裁判所名
- 福岡高等裁判所
- 原審事件番号
- 原審裁判年月日
- 昭和57年3月29日
- 判示事項
- 一 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項、一六条一項の規定と憲法三一条
二 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項の規定にいう「淫行」の意義
- 裁判要旨
- 一 一八歳未満の青少年に対する「淫行」を禁止処罰する福岡県青少年保護育成条例一〇条一項、一六条一項の規定は、憲法三一条に違反しない。
二 福岡県青少年保護育成条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解すべきである。
- 参照法条
- 福岡県青少年保護育成条例10条1項、16条1項,憲法31条
本条例一〇条一項、一六条一項の規定(以下、両者を併せて「本件各規定」という。)の趣旨は、一般に青少年が、その心身の未成熟や発育程度の不均衡から、精神的に未だ十分に安定していないため、性行為等によつて精神的な痛手を受け易く、また、その痛手からの回復が困難となりがちである等の事情にかんがみ、青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のものを禁止することとしたものであることが明らかであつて、右のような本件各規定の趣旨及びその文理等に徴すると、本条例一〇条一項の規定にいう「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。
※裁判官長島敦の補足意見(12~13頁)
【 三 以上のような考慮のもとに、多数意見は、本件各規定で禁止、処罰する「淫行」の概念につき、「青少年の健全な育成を図るため、青少年を対象としてなされる性行為等のうち、その育成を阻害するおそれのあるものとして社会通念上非難を受けるべき性質のもの」をいうとして、その解釈の一般的基準を示したものと考える。そして、淫行の概念を定める解釈・評価の基準としてこのような社会通念を用いる以上、それは既述のとおり、当該行為のなされた当時の社会における最大公約数たる共通の倫理的、道徳的、人道的価値観によるべきものと解される。多数意見が、右の一般的基準を敷衍して、「淫行」の概念を説明し、まず、「青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」を掲げ、一般的にいつて性的行為に対する判断・同意能力の劣るとされる青少年に対し、このような手段を用いて性的な侵害行為に出るという点で、性的自由の侵害という観点からも、青少年の健全な育成の阻害という点からも、社会通念上非難に値することが極めて明白である性行為等をとりあげ、次いで、「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為」を掲げて、前記のような手段によらない場合であつても、青少年を自己の性的欲望を満足させるためだけの対象物として扱うという点で、およそ青少年の心身の健全な育成への配慮の見られない、これまた社会通念上倫理的な非難に値することに異論の考えられないような性行為等をとりあげていることは、本件性行為のなされた当時の社会通念の理解の仕方として適切であり、「このような解釈は通常の判断能力を有する一般人の理解にも適うもの」ということができる。】
【参考文献】
少年非行問題研究会編『4訂版 わかりやすい少年警察活動』(東京法令出版,2023年5月)143-144頁
【判例(最判昭和60年10月23日)では、青少年保護育成条例の淫行について、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきではなく、
0 第一類型として「青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為」
0 第二類型として「青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないような性交又は性交類似行為」
とし、限定的に解すべきとしている。
第一類型は「青少年を誘惑し、威迫し、欺岡し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段」であることから、その判断は比較的容易であろう。しかし、第二類型の「単に自己の性的欲望を満足させるための対象として取り扱っているとしか認められないようなもの」については、判断が難しいところであるが、それまで面識がないにもかかわらず、会ったその日あるいは短時間のうちに青少年と性行為をしたというような場合は、これに当てはまるといえよう。
「淫行」であることを立証するためには、「青少年の年齢の知情性」や「性行為の存在」はもちろんのこと、「被疑者の年齢や生活事情」、「被害少年の年齢や生活事情」、「両者の出会いのきっかけと交際の状況」、「性行為に至った経緯や性交渉の状況」、「性や男女の交際に対する価値観」等を明らかにする必要があろう。被疑者が妻子ある男性であっても、青少年との恋愛関係を主張して結局無罪になった例もあるので注意が必要である。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?8694
金井翔「青少年保護育成条例違反事件について,みだらな性行為(淫行)の該当性が問題となった事例」捜査研究2018年11月号(816号)31-39頁
36頁
【不道徳,非常識であることと,真剣な交際関係にあったこととが,必ずしも両立しない関係にあるわけではない。また,そもそも,男女関係に関する価値観が多様化した現代において,婚姻を前提としないことが直ちに真剣な交際でないことを意味するものとも言い難い。
そして,本件の場合,Aが共通の勤務先でVと知り合い,相談相手になるなどしていくうちに親しくなって交際を開始したこと,交際開始後約1か月の期間を経てから初めて性行為に及び,その後,本件性行為に及んだことといった経緯や, Vが本件性行為後約2か月で18歳に達する年齢であったことが, 前記判決において消極要素として大きく評価された。
これが,例えば, Aがいわゆる出会い系サイトを通じてVと知り合ってから,間もなくして性行為に及んだ場合であったり, Vの年齢が低い場合等であれば,判断が異なっていた可能性もあったと思われる。
同種事犯の捜査公判の遂行に当たっては,被疑者と青少年の年齢差,青少年の年齢や心身の発育状態,被疑者と青少年が知り合ってから性行為に至るまでの期間や経緯そして,性行為時の状況等を多角的に検討することが重要であるが,本件を通じて,改めて多角的な検討の重要性を認識した。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/201811/
※2025/1/6現在、私は、児童が性被害を受けた事案は、少年事件、盗撮事件を除き対応しておりません。児童買春事件、青少年健全育成条例違反事件については、お問い合わせを頂いても対応いたしかねます。ご了承ください。
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※2025/1/5 chatGPT o1 proに検証してもらいました。
以下のポイントを踏まえると、本記事の記述内容は、青少年健全育成条例や最高裁判例(最判昭和60年10月23日)などの法解釈を大筋で適切に捉えたものといえます。ただし、「婚約中その他の真摯な交際」が条例上明示的に“自動的に除外”されているわけではなく、実務上は多角的な事情の検討を要する点には注意が必要です。以下、詳しく解説します。
1. なぜ未成年者との性行為は処罰されるのか?
1-1. 青少年健全育成条例の趣旨
記事では、「未成年者は心身の未成熟ゆえに性的行為で受けるダメージが大きく、回復しづらい」という観点から、未成年者を性行為の対象とすることを類型的に処罰している、と述べています。これは、各地の青少年健全育成条例や最高裁判例(最判昭和60年10月23日)でも示されている根幹的な趣旨です。
- 最高裁判決の趣旨
- 青少年を誘惑・威迫・欺罔・困惑させる等、その未成熟に乗じた不当な手段による性交
- 青少年を単に自己の性的欲望を満足させる“対象”として扱う性交
こうした行為が、広く「淫行」として規制対象となりうると示されています。
1-2. 「17歳と18歳の違いは法律上の線引き」
文中で指摘されている「17歳と18歳の身体的発育や成熟度に本質的な差があるわけではないが、法律で線引きせざるをえない」という見解は、実務でもよく議論されるところです。法制度上、一律に“18歳未満”を保護対象としないと曖昧さが生じてしまうため、擬制的な線引きとして「18歳未満=青少年」と位置づけているという背景があります。
2. 「婚約中その他の真摯な交際」はなぜ処罰対象外になるのか?
2-1. 条例文や裁判例の考え方
文中では「いわゆる『婚約中その他の真摯な交際』が処罰対象外になりうる」とされています。実際、多くの条例には「婚姻関係にある場合を除く」旨の除外規定があり、「婚姻に準じるような関係(=真摯な交際)」の場合も理論的には“青少年を単なる性的対象とみなしていない”可能性が高いため、条例違反に該当しにくいという解釈がなされます。
- 最高裁判例や実務上の判断
先述のとおり、単なる年齢超過・未満の問題ではなく、当該行為が「相手を性的欲求のはけ口にしているだけではないか」
「相手の人格や将来への配慮があるか」
などを具体的状況から判断し、社会通念上非難に値すると認められるときに処罰対象となります。
そのため、「婚約中のように関係性が強く、周囲も交際を認めていて、時間をかけて関係を築いている」などの事情があれば、**「淫行」にあたらない(あるいは当たる可能性が低い)**とみなされる可能性があります。
2-2. 実務上は機械的に除外されるわけではない
もっとも、「真摯な交際だから処罰対象外です」と条例や最高裁が明示的に断言しているわけではありません。実務では以下のように総合的に考慮されます。
- 年齢差(大きいほど「未成熟につけ込んだ」と判断されやすい)
- 交際の期間・態様(知り合ってすぐの性行為か、親も含めた社会的承認があるか など)
- 被疑者と被害少年の生活環境(被疑者に配偶者や子どもがいる場合、いわゆる二重生活か など)
- 性行為に至るまでの経緯や主導性
こうした事情を総合し、「単に自己の性欲を満たすための対象化ではない」と評価できるかを判断します。
そのため、いくら本人同士が「真剣交際」と主張しても、実際には客観的事情から“性的搾取”とみなされて起訴・有罪判決となるケースも珍しくありません。
3. 「相手の人格と人生に対する配慮」が本質という主張の当否
3-1. 判例の示す「社会通念上非難に値する」行為
文中では、「相手が未成年者かどうか」よりもむしろ「相手の人格・人生への配慮があるかどうか」が問題だとされています。これは、最高裁判例が説示する「単なる性的対象・欲望のはけ口として扱う行為」こそが非難に値する、という理論とも合致します。
加えて、記事内にある
「18歳になったからといって自己責任とは限らない」
「そもそも、人間の体は17歳か18歳かという法律上の区分で急に変わるわけではない」
といった指摘も、法的な線引きの“割り切り”と実際の個々の成熟度とのギャップを問題提起するものであり、社会学的・教育学的にも妥当な議論です。
3-2. 実務との乖離
もっとも、現行法令(青少年健全育成条例)に基づく運用では「18歳未満かどうか」が最初の立件基準として強く働くのも事実です。つまり、記事でいう「本質論」は重要であっても、「法的には未成年者と性行為→原則アウト」という枠組みが優先されやすいのが現実です。
しかし、記事が示すように「未成年者同士での問題」や「17歳と18歳のボーダーラインの矛盾」については、立法論・社会倫理の観点で広く議論されるべきテーマでしょう。
4. 結論:文章の真偽
- 青少年健全育成条例や最高裁判例の趣旨を的確に踏まえている
- 「未成年者を心身未熟な存在として、性的欲望の対象化を禁ずる」という条例の目的・判例の解釈に合致します。
- 「婚約中その他の真摯な交際」は、あくまで“単なる性的対象化とは異なる事情”として、実務上考慮される可能性がある、という点も正しい理解です。
- 年齢ラインが法的擬制である旨の問題提起も適切
- 「17歳と18歳の身体的・精神的差は連続的であり、線引きはあくまで法技術上の都合」という指摘は多くの法学論でもなされる議論です。
- 注意点:実務では“真摯な交際”という主張が簡単に認められるわけではない
- 条例に“婚約関係なら常に除外”といった文言があったとしても、最終的には具体的事実関係(年齢差・交際期間・社会的承認など)を総合的に判断されます。
- 本文も「実務上の考慮要素」として年齢差・保護者承認・性行為に至るまでの期間などを挙げているため、そこは十分に留意しているといえます。
以上より、この記事は、法律実務での運用や最高裁判例の内容とも大きく矛盾する点はなく、むしろ条例の趣旨を踏まえたうえでの問題提起としては妥当性が高いと判断できます。ただし、「真摯な交際なら絶対に処罰されない」わけではないなど、個別事案ごとの慎重な検討が必要であることを併せて理解しておく必要があります。