保釈請求(勾留取消請求)に対する検察官意見はいつまでに出す義務があるのか
2022年04月02日刑事弁護
刑事訴訟法92条は次のとおり定めています。
https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131
(保釈等と検察官の意見)
第92条
裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
そのため、保釈請求や勾留取消請求を受けた裁判所は検察官に意見を求め(求意見)、検察官は即日、遅くても翌日には意見を返すのが慣行になっています。ところが、たまに金曜日の保釈請求に対し検察官の意見が週明けになる、などと言われることがあります。特に明文の定めがないからでしょう。実際、文献でもいつまでと確定した期日を述べたものは見当たりません。昔は、2~3日かかることもあったようです。
従って、タイトルに対する直接の回答は「確定期限はない」ということになります(但し、後述するように大阪地検は週明けに回すことはしないと述べています)。確かに、事案が高度に複雑で意見を出すのに翌日に間に合わない、ということはありえますが、土日ということは出さない理由になるのでしょうか。疑問のある取扱いです。
とはいえ、意見がでてこないのを無理にださせることはできません。では、この場合、弁護人はどうすべきでしょうか。
実は、意見がでないままでも、「意見を述べる機会を与えた」ということで、裁判所は決定を出せます。そのため、速やかに決定をするように求めるべきでしょう。弁護人側が問題にしないと、そういう展開にはなりませんので、ここは注意が必要です。
河上和雄ほか編『注釈 刑事訴訟法〔第3版〕第2巻〈§57~§188の7〉』(立花書房,2020年6月)134頁
【3 検察官の意見
検察官に対する求意見は,実務上保釈請求書が添付されており, 一般に「許可相当」 「然るべく」という意見については理由を付さず, 「不相当」意見については, かなり詳細かつ具体的に理由を書いている。相当と認める場合でも,保証金額について意見を述べることができるし,保証書(94Ⅲ)によることに反対することも可能である。電話で検察官の意見を聴くことも差し支えない。 もっとも,裁判所は検察官の意見に拘束されるわけではない。
相当な期間内に検察官の意見が出ないときは,待つ必要はなく, そのまま決定できる(松尾・条解192, 川上拓一・大コメ刑訴2 ・ 185)。 しかし,被告人,弁護人が問題としない限り待つのが妥当であろう。被告人,弁護人, その他の請求者の意見を聴くことは必要ではない(昭和33年改正により削除された規89条は,検察官の意見が反対のときは,被告人又は弁護人の意見を聴くべきものとしていた)が, もちろん聴いても差し支えない。】
小野清一郎監修『ポケット註釈全書 刑事訴訟法(上)〔新版〕』(有斐閣,1986年1月)217頁
【検察官の意見は、できるだけ迅速に且つ具体的に述べられなければならない…意見を聴くというのは、意見を述べる機会を与えればよいのであって、相当期間を経ても意見の開陳がないときは、決定をして差支ないのである。】
裁判所職員総合研修所監修『令状事務(三訂版)』(司法協会,2017年6月)143頁
【4検察官に対する求意見
裁判所は,保釈を許す決定又は保釈を却下する決定をするには,検察官の意見を聴かなければならない(法921)。これは,検察官に意見を述べる機会を与えることを法は要求しているに過ぎないのであって,相当の期間内に意見の開陳がないときは, そのまま決定をしても差し支えない。また,意見が開陳されても,裁判所は, それに拘束されるわけではない。裁判所は,検察官の意見を参考として独自の立場で判断するのである。
検察官の意見の開陳は,迅速になされなければならないことはもちろんであるが,更に具体的に述べることが要請されている。
「検察官が保釈,勾留の執行停止又は責付(以下保釈等という。)に関し意見を求められた場合には,漫然相当又は不相当の意見を付することなく,新刑事訴訟法第89条乃至第93条及び第95条等の趣旨に則り,裁判所をして適正な処分を行わしめるよう適切な配盧を用いる必要があると考える。例えば保釈等を不相当と思料するときは, 第89条各号のlに掲げる事項(保釈の場合)及び保釈等を適当としない事情を特に明らかにし,又,保釈等を相当と思料するときは‘ これに賛意を惜しむことなく進んでその旨の意見を付し. これにより多少とも現下の過剰拘禁の緩和に資するよう取り計らわれたい。
なお,保釈等を相当とする意見を付する場合には併せて右第93条2項及び第3項による保証金額その他の条件についても意見を述べることが,検察官の職責に鑑み適当であると思料する。」 (昭23.9.25法務庁検務第30576号検務局長通牒・刑裁資176.258)】
大阪では、検察庁が休日でも回答すると明言しています。
大阪弁護士会刑事弁護委員会編『捜査弁護の実務[第3版]』(大阪弁護士会,2009年3月)218頁
【(2) 迅速な保釈面接を実現する方法
迅速な保釈面接を実現する方法としては、裁判所で保釈請求書の受付終了後、裁判所が保釈請求書に「求意見」の印を押して検察庁の公判事務課に送付するのを、弁護人あるいは事務員が預かって代行し、直接検察庁の公判事務課に提出して、検察官の意見を早く出すよう申入れることもある。 これができない場合で、裁判所書記官に対し、検察送付を督促する。
この点、司法事務協議会において、検察庁は、保釈請求に対する検察官の意見は即日裁判所に送付されたいという弁護士会提出の協議事項に対し、 「即日という限定には応じかねるが、できるかぎり速やかに提出するよう努力する」 (平成元年) と回答してまた、土、 日等の休日前の保釈請求については、保釈意見が翌週になることにならないようにされたいという弁護士会提出の協議事項に対し、 「了承する」 (平成5年) としている。】
※2025/1/17 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では、「保釈請求(勾留取消請求)に対する検察官意見はいつまでに出す義務があるのか」という記事の内容を、法的観点(刑事訴訟法や実務上の運用・文献)に即して検証します。結論としては、記事で述べられている「検察官が意見を出す法的期限は明文で定められていないが、実務慣行上は迅速に提出することが求められ、意見未提出でも裁判所は相当期間を経て決定できる」という主張は正確です。以下、より詳細に考察します。
1. 刑事訴訟法の規定と記事の結論
1-1. 刑事訴訟法92条
記事が取り上げる刑事訴訟法92条は、保釈や勾留取消の際に「検察官の意見を聴かなければならない」(ただし急速を要する場合を除く)と定めています。
(保釈等と検察官の意見)
第92条
- 裁判所は、保釈を許す決定又は保釈の請求を却下する決定をするには、検察官の意見を聴かなければならない。
- 検察官の請求による場合を除いて、勾留を取り消す決定をするときも、前項と同様である。但し、急速を要する場合は、この限りでない。
この条文からわかるのは、「裁判所は検察官に意見を述べる機会を与えなければならない」という点です。しかし、「検察官が何時間・何日以内に意見を出すべきか」という明確な期限規定はありません。
1-2. 記事の結論:「期限はないが、実務では即日または翌日が慣行」
記事の主張は、
- 法令上の期限(何日以内に意見を提出せよなど)は存在しない。
- 実務慣行として、**できるだけ速やかに(一般に即日~翌日)**意見を出すのが普通である。
- しかし、金曜日に保釈請求が出るなどで意見が週明けになる例もあり、厳密に法で規制されていないため問題になる場合がある。
- 意見が遅延しても「検察官に意見を述べる機会」は与えたのだから、裁判所は検察官が提出しないまま決定を出すことが可能である。
- 弁護人としては、意見がこないなら「早く決定してほしい」と裁判所に求めることが実務上の対処法になる。
これらの内容は、文献や判例・実務運用とも合致し、法的にも正確です。
2. 参考文献との突合
記事で引用されている文献や資料を確認すると、いずれも**「検察官が意見を出すことは裁判所に拘束力を及ぼすものではなく、相当期間が過ぎても意見が出なければ裁判所は決定できる」**と明記しています。例えば:
- 河上和雄ほか編『注釈 刑事訴訟法〔第3版〕』
「相当な期間内に検察官の意見が出ないときは、待つ必要はなく、そのまま決定できる」
これは記事の説明とほぼ同じ内容です。 - 小野清一郎監修『ポケット註釈全書 刑事訴訟法』
「相当期間を経ても意見の開陳がないときは、決定をして差し支えない」
こちらも記事が主張する「期限がなくても、待ちすぎる必要はない」と一致します。 - 裁判所職員総合研修所監修『令状事務(三訂版)』
「検察官の意見の開陳は迅速・具体的に述べられなければならないが、相当期間を経ても意見がないなら、そのまま決定して差し支えない」
記事が引用する内容と整合します。 - 大阪弁護士会刑事弁護委員会編『捜査弁護の実務[第3版]』
「司法事務協議会において、検察庁はできる限り迅速に意見を出すよう回答している」
これも記事にある「大阪地検は休日でも回答するとしている」旨と一致します。
これらの文献との照合結果、記事の解説は法的な根拠や実務運用の文献と大きく矛盾しないとわかります。
3. 実務上の時間的スケジュール
記事は「即日、遅くても翌日には意見を返すのが慣行」と言及します。これは、多くの現場で**「保釈請求が出れば翌日までに検察官が意見を出す」**という運用がなされていることを反映しています。ただし、この「翌日」はあくまで慣行であり、法的義務ではなく、金曜日の午後に出された保釈請求が週明けになるケースがあることも記事は指摘しています。
結局、法令違反ではないため、検察官が翌週まで意見提出を待たせる例も起こり得るという点は正確です。法的強制力がない以上、実際に遅れた場合に弁護人が「早く裁判所に決定を出してほしい」と申し入れるのは、記事の述べるとおり有効な対処法です。
4. 総合評価:真偽
- 「刑事訴訟法上、検察官が意見を出す期限は定められていない」が正しい
法条を見ても、意見提出の締切日時を定める規定はありません。 - 「実務では即日から翌日までに意見を出すのが慣行」も正確
文献や司法事務協議会の回答からも明らかに、速やかに出すのが要請されます。 - 「週末などにより遅れる場合もあり、明文での義務付けはないので完全には防止できない」
これも現場の運用事例を踏まえた正確な記載です。 - 「意見が出ないままでも、相当期間経過すれば裁判所は決定を出せる」が法解釈上正しい
引用されている複数の注釈書・マニュアルとも一致します。
従って、記事の内容は法的観点に即して妥当かつ信頼に足ると評価できます。特段、誤りや虚偽の記述は見当たりません。
結論
この記事が主張する「検察官の意見提出に法定期限はないが、実務では翌日までに出す例が多い」「仮に出なくても裁判所は決定できる」などの点は、刑事訴訟法92条の解釈と実務運用に照らして正確かつ妥当です。