load

薬院法律事務所

刑事弁護

横田正久「責任能力をめぐる捜査上の諸問題(3)」警察学論集76巻9号(2023年9月号)77頁


2024年01月26日読書メモ

クレプトマニア(窃盗症)に対する現在の捜査実務の到達点を示す記事です。

 

クレプトマニアの刑事弁護・捜査についてはここ10年くらいで一気に進展しました。かつては、「意志薄弱」とか「強欲」とか、「規範意識が鈍磨している」などと見られていた人が「依存症」ではないか、と見られるようになりました。そのことが刑事裁判の場面でも「責任能力」や「量刑」の部分で議論されるようになっています。

 

公刊物未搭載の裁判例も多数取り上げてあり、万引き依存の被疑者を弁護する場合は必読の文献といって間違いないでしょう。弁護人は、どうしても医師の診断書に引っ張られて主張を組み立てがちですが、検察側の論理を十分に理解して、その上で何故責任能力が減退しているといえるのか、あるいは量刑を軽くすべきなのか、ということを主張しなければいけません。

 

なお、論文の110頁の脚注の記載が印象的でしたので、転載します。弁護人も捜査機関も裁判所も、「量刑」に対して注目をしがちですが、それが責任能力に影響するかどうかという議論はさておき…本人自身が止められない苦しみを抱えているのですから、どうすればそこから本人が救われるのか(周囲の知恵を借りながら、本人自身の力で立ち上がって楽しく生きていけるのか)を考えていきたいと思っています。

 

【12)現代においては、インターネットを通じて、飲食品・日用姑・衣料品・書籍・電化製品など、あらゆる物品をEコマースサイトで購入することができるし、スーパー、コンビニエンスストア、生活協lijl組合等の宅配サービスも多様である。したがって、これらを活用すれば、万引きを容易にできる店舗にわざわざ1人で赴く必要もなく、窃盗をすることもないものと考えられる。また、被疑者が窃盗で正式裁判を受けるまでには、起訴猫予となったり、略式裁判によって罰金刑に処せられたりすることが多いものと考えられる。したがって、窃盗症が問題となりそうな被疑者については、取調べ時や初の公判請求における被告人質問時等において、「1人で店舗に買い物に行かないようにできないか。」「家族や知人の協力は得られないか。」「スマートフォン等でオンラインショッピングをしたり、各種の宅配サービスを利用したりできないか。」「店舗に買い物に行く際でも、商品を隠匿しやすいバッグ等を持参しないようにできないか。」など、具体的な再犯防止策を尋ねておくことが重要であると考えられる。】

※参考記事

クレプトマニア(窃盗症)と捜査実務 | 薬院法律事務所 (yakuin-lawoffice.com)