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薬院法律事務所

刑事弁護

気づかないうちにぶつけていたが当て逃げになるかという相談


2021年07月28日読書メモ

「車を運転して家に帰ると、どこかにぶつけていたらしく車に傷がついていた、当て逃げになるか?」こういった相談は良くあります。

まず、車両にぶつけた自覚があるような場合は、故意がないとするのはなかなか難しいです。また、傷の程度が大きければ、衝撃があるはずですので、気がつかなかったということは難しいでしょう。

交通事故・事件捜査実務研究会編『交通事故・事件捜査実務必携~過失認定と実況見分,交通捜査の王道~』(立花書房,2017年7月)620頁 【車両と車両の衝突の場合には,被疑者において被害者の受傷につき認識が希薄であり,救護義務違反を立件することは無理だとしても,車両の損傷がないことを確認したような場合は別として,程度の大小はともかく,車両が損壊していることの認識はあると思われるので,人身事故の不申告ではなく,物損事故の不申告として送致すべきである。】

ただ、傷も小さく、実際に気がつかなかった場合はどうでしょう。私は報告義務違反にあたらないのではないかと思います。

まず、そもそも車に傷があるからといって、物を損壊したのかどうかわかりません。

また、報告義務違反は故意犯なので、車両等の運転者に「車両等の交通による物の損壊」(道路交通法72条1項、同67条2項)についての認識が必要です。その認識は、確定的認識ではなく、未必的な認識(かもしれないという認識)で足りるとされています(最三小判昭和45年7月28日刑集24巻7号569頁、最三小決昭和47年3月28日刑集26巻2号218頁)。しかし、道路交通法72条1項は、報告義務の前提として「直ちに車両等の運転を停止」すべき停止義務を規定しており、「直ちに」とは「すぐに」という意味で「遅滞なく」と「速やか」より急迫の程度が高い場合であると解されます。そのため、同義務を履行する前提としての、事故により物を損壊させたことの認識も、事故発生から極めて近接した時期に有していなければならないと考えられます(人身事故の場合につき、横澤伸彦「実例捜査セミナー 死亡ひき逃げ事故事案において、争点を見据えた捜査が功を奏した事例」捜査研究2020年1月号48頁)。

そう考えると、家に帰ってから気がついた場合には適用されないと思われます。