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薬院法律事務所

一般民事

沈黙による詐欺について


2021年10月20日読書メモ

詐欺は、通常積極的にだますことによって成立しますが、沈黙による詐欺が認められることがあります。刑事では結構実例があるようです。

 

 

佐久間毅『民法の基礎1 総則(第3版)』(有斐閣,2008年3月)173頁

【沈黙による詐欺の場合,欺岡行為に違法性が認められるかどうかが, とくに問題になる。というのは,私人は互いに対等な立場にあるから自己の利益は自ら守るべきだという考えに基づいて,契約締結に際して必要な情報は自分で集めるのが原則とされているからである。そうすると,沈黙による詐欺を認めるということは, この自己責任の原則を排して,相手方から積極的に情報を提供するべきであったと認めることを意味する。したがって,相手方に情報提供義務が認められる場合でなければ,沈黙は違法性を帯びないことになる。
そうすると,問題になるのは,相手方がこの義務を負うのはどのような場合か,である。これについては,法令および信義則(1条2項)に照らして判断する, という下級審判決が多くみられる。要するに,相手方が本来要求されるべき誠実さを著しく欠いていたかどうかで判断する, というわけである。
判決例では,次の四つの判断要素から,情報提供義務の存否が判断されることが多い。すなわち,①告げられなかった情報が,表意者が意思表示をしようと決心するについて重要な事項に関するものであったこと,②そのような重要性を相手方も知っていたこと,③相手方が,その情報を現に有していたか,ごく容易に入手しえたこと,④相手方が,その情報を表意者に伝える必要があると認識していたこと,である。】

 

 

★浅田和茂・井田良編『新基本法コンメンタール刑法【第2版】』(日本評論社,2017年9月)542頁

【欺岡行為は通常作為によってなされるが、不作為によってもまた可能であるとされ、この不作為による欺岡とは「すでに相手方が錯誤に陥っていることを知りながら真実を告知しないこと」と定義される(西田・各論194頁)。これは不真正不作為犯であり、保障人的地位または法律上の告知義務が必要とされる(大判大6.11.29刑録23輯1449頁)。判例は法令上の告知義務違反(大判昭7.2.19刑集ll巻85頁〔保険法上の告知義務違反〕)以外にも、信義誠実の原則などからかなり広い範囲で告知義務を認めている(大判大7・7・17刑録24輯939頁〔準禁治産者であることの不告知〕、大判昭4.3.7刑集8巻107頁〔抵当権設定登記済であることの不告知〕、最決平15・3・12刑集57巻3号322頁〔誤振込であることの不告知〕等)。学説には「個別的な取引の内容に関する重要な事実か否か、相手方の知識、経験、調査能力等の諸事情を考慮して告知義務の存否を判断すべき」(西田・各論194頁)とするものがある(東京高判平l・3.14判タ700号
266頁参照。そこから「個別的な契約の履行意思や履行能力と異なり、一般的な営業状態、信用状態については告知義務が認められないと解すべきである」とする〔大判大13.11・28新聞2382号16頁、福岡高判昭27.3・20判特19号72頁、前掲東京高判平1・3・14))。】

 

 

遠藤浩ほか『民法(1)総則〔第4版増補補訂3版〕』(有斐閣,2004年9月)185頁

【沈黙も詐欺になるか。当該の事情により、沈黙が違法性を帯びたときには、詐欺となると解すべきである(大阪控判大七・一○・一四新聞一四六七号二一頁参照)。】

 

 

山田卓生ほか『民法Ⅰ-総則〔第4版〕』(有斐閣,2018年1月)173頁

【沈黙も場合によっては詐欺になる。情報提供義務があるにもかかわらず,提供すべき事実について故意に沈黙してその事実を隠す場合であり,たとえば,元本割れの危険がある商品について法律上その点の説明が義務づけられているにもかかわらず故意に儲かる話ばかりして,元本割れの危険については告げずに表意者を元本を割ることはないとの錯誤に陥れる場合などである。】