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薬院法律事務所

一般民事

消滅時効の援用は、権利濫用になることもあります


2019年09月18日読書メモ

親族間での時効援用による債務消滅について慎重な立場を示す文献です。

小林康彦「消滅時効の援用と権利濫用」
加藤新太郎・小林康彦編『裁判官が説く民事裁判実務の重要論点 基本原則権利の濫用編』(第一法規,2018年1月)76頁

【ところで、時効とは、前記のとおり、真実の権利状態と異なった事実状態が永続した場合に、社会の一般的な立場から、その事実状態をそのまま権利状態として認めて、 これに適応するように権利の得喪を生じさせる制度であり、事実状態と真実の権利状態とが合致しないことが明らかな場合も排除することはせず、ただ、 時効の効果を受けるか否かがその権利を取得し又は義務を免れる者の意思に委ねられているというのである。消滅時効の援用が権利の濫用に当たるかどうかを検討するに当たっては、 このような時効制度の理解を踏まえ、その援用が時効制度の趣旨を逸脱するものかどうかを検討すべきであり、 これをやや具体的にいえば、債務者において債権者が権利を行使することを妨害するなど、債権者が期間内に権利を行使しなかったことについて債務者に責めるべき事由があり、債椛者に権利行使を保障した趣旨を没却するような特段の事情があるような場合に、その時効の援用は、権利の濫用に当たり許されないものと解するのが相当である。
もっとも、 さらに権利者と義務者の関係に着目すると、例えば、夫婦、親子等の親族間にあってはことさらに法律上の権利を行使しなくても不都合な事態は生じないものと安心している場合も少なくないものと考えられ、権利者において適時に法律上の権利を行使することを要求することが期待しにくいとも思われることから、 前記「特段の事情」の有無をより丁寧に検討することが多くなるものと考えられる。】

 

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