独身詐欺の被害者は、不貞行為の賠償責任を負うのかという相談(犯罪被害者)
2024年09月09日犯罪被害者
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、マッチングアプリで出会った人が既婚者だということが分かりました。すぐ関係を解消し、今後貞操権侵害での慰謝料請求を考えているのですが、相手方の配偶者に不貞行為だとして訴えられないか心配です。
A、「訴えられること」については事実上のリスクはありますが、不法行為の要件である「故意または過失」が欠けるため、損害賠償請求は認められません。
【解説】
近時、マッチングアプリなどで知り合った男性が、実は既婚者だと発覚したという相談が見られます。こういった場合、既婚者側が貞操権侵害として独身者側に慰謝料支払義務を負うことは当然ですが、独身者側が「不貞行為の相手方」として慰謝料請求をされないかと心配されることがあります。しかし、一般論として、裁判例は交際相手が独身か否かを調査する義務を課していませんので、請求をされたとしても支払義務はありません。貞操権侵害の慰謝料額は、交際のきっかけ、交際期間、結婚を前提とした付き合いだったのか、年齢、独身と発覚した後の態度等の総合判断となりますので、弁護士の面談相談が必須でしょう。
【参考文献】
大塚正之「研究 不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(3)」家庭の法と裁判12号(2018年1月号)39-57頁
51頁
【婚姻関係の存在について故意過失が争われた事例15件中,婚姻関係の存在を知らなかったが,過失があるとした事例が2件(事例58, 80)であり,そのほかはすべて婚姻関係の存在を知らなかったとして,既婚者であると知らされる以前の行為については不法行為の成立を認めなかった事例である。一般に,誰かと交際する場合において,その相手方が独身であると述べているとき,どこまで疑って独身か否かを調査する義務があるのかという問題であり,この点に関して,多くの裁判例は,基本的に調査義務はないとして過失を認めていない。事例112のように独身を前提とする合コンで知り合い,本人も独身だと言い,周囲の知人たちからも彼は独身だと聞いているような場合においては,更に独身かどうか調査しないで性交渉を持っても過失があるとは言えないというのは当然であろう。
それでは,どのような場合に過失が認定されているのか。事例58は,平成20年頃から同25年10月まで被告は原告の夫と交際していたが,平成21年9月から同22年7月までの電子メールにより配偶者があることを容易に認識し得たとする。例えば,平成21年9月の原告の夫から被告へのメールには,前の彼女のことを妻に知られたという記載があり,それを閲読すれば通常妻がいると分かるもので,過失を認定したのは当然であり,むしろ,その時点で妻の存在を知らされたと言ってよいものである。】
https://www.kajo.co.jp/c/magazine/006/31009000012
林田敏幸「不貞慰謝料請求事件における過失の認定について」判例タイムズ1452号(2018年11月号)5-25頁
10頁
【裁判例【l】も指摘するように,異性間の交際は, 「相手方に対する愛情と信頼の上に成り立つものであ」ること,異性間で交際を開始する場合に,常に相手方の配偶者の有無を調査すべき義務を負わせることは,相手方の行動の自由を過度に制約することにつながりかねないことからすると, このような一般的な調査義務は否定すべきである。
したがって,相手方に配偶者がいることを疑わせるような具体的事情が存在する場合に予見可能性を肯定することになる。
今回検討の対象とした裁判例も,配偶者の存否について一般的な調査義務を肯定したと解されるものはなく,過失を肯定した裁判例は, いずれも,相手方に配偶者がいることを疑わせるような何らかの事情がある場合であった。】
https://www.hanta.co.jp/books/6947/
※2025/1/21 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では、**記事の内容(独身詐欺に遭った被害者が不貞行為で賠償責任を負うのか、という問題)について、主に弁護士実務(法律実務)**の観点からその真偽・正確性を検証します。あわせて、記事本文が取り上げている文献や裁判例が示している法的帰結を踏まえ、どの点が妥当か・疑問はないか等を詳細に考察します。
1 記事全体の主張と結論
記事は、マッチングアプリ等で「相手が独身と偽った既婚者」であるとわかった場合に、
- 独身者側は貞操権侵害での慰謝料(損害賠償)を請求できる(相手が既婚者であることを秘していた点に対し)
- 逆に、独身者側が不貞行為(いわゆる「不倫の相手方」)として既婚者の配偶者から慰謝料を請求されるかどうか
- 結論として、「既婚者であると知らなかった場合には賠償責任を負わない」
- 判例上、配偶者ありだと知らない限り故意・過失が認められず、不法行為は成立しない。したがって請求されても支払義務がない
- ただし事実上、配偶者から訴訟を起こされるリスクをゼロにできるわけではない
- しかし、法的には負ける見込みが高い
以上が記事の骨子です。記事ではさらに「実際の裁判例や学説でも、相手が既婚者だと知らない限り不法行為成立は認められない」とし、相手方(既婚者)の配偶者による慰謝料請求は失当という立場が示されています。結論としては
「独身詐欺で被害を受けた側は、不貞行為の賠償責任を問われるおそれは原則ない」
「むしろ、被害者として貞操権侵害の慰謝料を請求できる」
となります。
2 弁護士実務(法律実務)の観点からの検証
2-1. 不貞行為責任の成立要件:故意・過失
不貞行為(民法上の不法行為)による慰謝料請求が認められるには、
- (1) 婚姻関係の存続
- (2) 性的関係(いわゆる肉体関係)
- (3) 行為者に故意または過失がある(相手に配偶者がいると知っていた、または通常知り得た)
等が必要とされます。最高裁判例・下級審判例の多数も、「配偶者あり」と知っているか、知り得たかどうかを重要視します。これを**「不貞行為責任の過失要件」**と呼びます。
a) 知らなかった場合、一般的には責任否定
記事が挙げるとおり、学説・判例では、「交際相手が独身だと信じるにつき合理的理由があった」場合には、不貞行為の相手方に不法行為は成立しないのが確立されています。
- 林田敏幸「不貞慰謝料請求事件における過失の認定について」
- 大塚正之「不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析」
など、多数の裁判例調査でも「一般的に、相手が『独身』と述べ、疑う材料がなければ、さらに調査義務を負うわけではない」という結論が大勢です。
b) 過失ありとされる場合の典型
一方で、次のような事情があれば、**「既婚者だと疑いを抱くべきだった」**として過失が認められる場合があります。
- 相手のメールやSNS等に、妻や夫の存在を匂わせる文言・写真があった
- 周囲が「○○さんは奥さんいるよ」と言っていたのに、軽視して確認しなかった
- デートや宿泊の仕方、生活状況がどう考えても既婚としか思えない不自然さがあった(家に呼べない、夜間は連絡が急に途絶える 等)
上記のように、相手が既婚者と疑うに足りる事情があるにもかかわらず、「事前に確認せず性交渉に至った」場合は、過失ありとして不法行為責任が認められることがあります。
2-2.「独身詐欺」に遭った側の貞操侵害慰謝料
記事では、「独身と偽られて性交渉したら、貞操権侵害で慰謝料請求が可能」としており、この点は判例・実務とも整合しています。
a) 法的根拠:貞操権侵害
- 貞操権とは、自己の性的関係を結ぶか否か自由に決定する人格的利益であり、これを欺罔・脅迫によって侵害された場合、不法行為が成立しうると多くの判例が認めています(いわゆる「準強姦的」な要素や、騙して性交に応じさせる場合など)。
- 「独身詐欺」は、その典型として、婚姻関係の不存在を偽って被害者の自由な意思決定を歪める行為に当たり得ます。
b) 慰謝料額や立証
一般に、詐術の悪質性(どれほど積極的に虚偽説明をしたか)・被害者の傷つき具合・交際期間・妊娠や中絶の有無 などが考慮されます。また、独身詐欺の場合は、被害者が既婚を知った後すぐ関係を解消したかどうかも判断要素となるでしょう。
- 裁判例上は個々の事案ごとに賠償額に幅がありますが、50万円~300万円程度の例が多いとされます(加害者の資力や被害者の生活状況などで異なる)。
2-3. 結論として不貞責任を問われるか?
記事の回答どおり、**「知らないうちに既婚者と性交してしまった」**という場合、通常は故意・過失が否定されるため、不貞行為責任を問われない可能性が高い。
- ただし、配偶者から裁判を起こされてしまうリスクをゼロにはできないが、提起されたとしても、きちんと事実を主張立証すれば賠償責任は負わない。
- 実際、相手方配偶者が感情的になり、「騙されていたというのは口実で、本当は知っていたはずだ」と主張してくる恐れはあるが、裁判官としては客観的証拠・やり取りなどから「被告(独身者)に配偶者の存在を疑う事情はなかった」と判断すれば、請求棄却となる。
3 記事の真偽・正確性の評価
総合すると、記事の記述は以下の点で法律実務上も正確かつ妥当といえます。
- 「独身詐欺」の被害者が不貞行為で訴えられるか
- 法的には「既婚と知りながら関係を結んだ」場合のみ責任が発生し、知らなかった場合に賠償責任が認められることはほぼない。
- 訴訟リスクは事実上あるが、最終的には責任否定される可能性が高い。
- この結論は記事が示すとおり、裁判例・実務の大勢に符合する。
- 独身と信じることについての調査義務
- 「一般的には、相手が『独身』と述べた以上、それ以上の調査義務は通常課されない」という裁判例の傾向も記事のとおり。
- ただし、いわゆる「疑うべき事情」があった場合は過失が認められる可能性もあり、記事中も「過失なしが原則だが事実上リスクはある」と述べている点は妥当。
- 「独身者が貞操権侵害として慰謝料請求できる」
- 独身詐欺の典型例として、相手方が既婚であることを秘したまま深い関係を結び、後に被害者が知って大きな精神的打撃を受ける事案は、判例上もしばしば不法行為が認められています。
- 本件も、該当し得る可能性が高く、記事の結論に大きな誤りはない。
- 参考文献や裁判例の紹介
- 記事で引用される大塚正之「不貞行為慰謝料に関する裁判例の分析(3)」、林田敏幸「不貞慰謝料請求事件における過失の認定について」等はいずれも学術的・実務的に信用性が高い文献。
- これらが示す「過失なしとされた裁判例が多数」「過失ありとされたのは少数例」という点を記事が正しく紹介しており、文献の引用も整合的。
結論として、「独身詐欺の被害者が“不貞行為”として賠償責任を負わないか」という記事の回答は、現行法と裁判例の流れに照らしておおむね正しく、法律実務の見解ともほぼ一致します。記事全体の真偽・正確性は高いと評価できます。
4 補足的留意点
ただし、実際の事案で独身詐欺の被害者が完全に責任を問われないためには、「誠実に知らなかったし、疑うべき事情もなかった」という事実を立証することが必要です。
- 被害者側が「まさか既婚とは思わなかった」という状況説明、やり取りのLINE・メールなどが重要証拠となる場合があります。
- また、**「独身発覚後、即座に関係を解消したか」**も大きな判断材料。発覚後も継続していれば「本当は気づいていたのでは?」と配偶者側に追及され得ます。
5 総合結論
- 記事の真偽
- 記事の主張は、「独身詐欺をした既婚者こそ不法行為責任を負い得る。一方、騙された独身者は、既婚を知らない以上、不貞責任は原則負わない」という結論。
- この点は、既存の判例・学説とも整合し、法律実務上もほぼ正しい。
- “知らずに不貞行為となった場合に、相手方配偶者から慰謝料を請求されても原則として認められない”という結論も裁判例を踏襲しており、真偽として真である。
- 実務的な結論
- 「配偶者のある相手と知らずに関係を持ってしまい、後に発覚して不貞行為として慰謝料を請求されることがあるかもしれないが、故意・過失がないなら損害賠償責任は負わない」という記事の結論は法律的に妥当。
- ただし、実際に訴えられるリスクがゼロでない以上、弁護士相談のもと事実を整理し、万が一の請求に備えるのが望ましいという記事のアドバイスも合理的。
最終的には、記事の内容および結論は、学説・裁判例・実務運用に十分適合しており、正確性・妥当性の高いものといえると評価できます。