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薬院法律事務所

刑事弁護

不同意わいせつ罪と、痴漢(迷惑行為防止条例違反)との分水嶺(痴漢、刑事弁護)


2024年08月07日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は東京都に住む30代の男性です。先日、満員電車で女性の臀部を撫でまわしていたところ、騒がれて捕まりました。以前同様のことをしたときは「迷惑防止条例違反」といわれてすぐに釈放され、後日罰金を払って終わったので、今回もそれで済むかと思ったら、「不同意わいせつ罪」といわれて逮捕されています。このままでは会社も休まざるを得なくなりますし、家族を養えなくなります。なんとかならないでしょうか。

A、近時、性犯罪に対する社会の意識は厳しくなっています。かつて「迷惑防止条例違反」として立件されていた事例も、「不同意わいせつ罪」として立件されることも増えてきているでしょう。ご相談の事例では、身元引受人をつけることや、示談交渉の準備をすることで勾留を避けられる可能性はあります。

 

【解説】

こういった事例で、迷惑行為防止条例違反として立件される場合と、不同意わいせつ罪で立件される場合があります。ただ、この分水嶺がどこにあるのかはあまり知られていないようです。そこで、この記事を書きました。重要なことは、「法改正、社会通念の変化により、不同意わいせつと擬律されることが増加傾向にあると考えられること」です。「たかが痴漢」と軽く見ている人もいますが、その意識は改めるべきだと思います

 

まず、法改正により、第5号(同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと)の類型が追加され、暴行・脅迫の程度が問題視されないことが明示されましたので、これまで暴行・脅迫の程度を理由として強制わいせつではないとされていた痴漢事案については、現在は不同意わいせつ罪とされると考えられます。また、何が不同意わいせつの「わいせつな行為」とされるかは、その時代の「社会通念」で決まりますが、これも最高裁の判例を踏まえて「被害者目線」で判断されるようになっています。例えば、私は、2012年時点における、警視庁の痴漢事犯におけるわいせつ行為の擬律判断の基準(「強制わいせつ罪(当時)」に問擬するか否かの基準)を把握していますが、これが現在でも通用するとは限りません。

 

刑事弁護人の立場でも、犯罪被害者代理人の立場でも十分に実務傾向を把握しておく必要があるでしょう。

 

①令和5年度刑法改正の影響

強制わいせつが不同意わいせつと改正されたことで、第5号(同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと)の類型が追加され、暴行・脅迫の程度が問題視されないことが明示されたことは重要なポイントです。この点は、暴行自体がわいせつな行為である場合は、改正前から暴行・脅迫の程度について問題としない解釈もありましたが、その解釈が採用されたといっていいと思います。すなわち、以前は暴行・脅迫の程度を問題にしていた警察実務においても、単純に「わいせつな行為」に該当するか否かが検討されるようになった、ということです。

浅沼雄介ほか「刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律について」法曹時報76巻1号(2024年1月号)

72頁

【オ第5号(同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと)
「同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと」
は、
〇被害者において、わいせつな行為がなされようとしていることを認識してからわいせつな行為がなされるまでの間に、そのわいせつな行為について自由な意思決定をするための時間のゆとりがないこと
を意味するものであり、例えば、
〇すれ違いざまに、いきなり胸を触られる場合
〇サウナで日を閉じて横になっているときに、いきなりキスをされる場合(注18)
などを想定したものである。】

 

※本記事脱稿後、橋爪隆「性犯罪に対する処罰規定の改正等について(1)」警察学論集77巻8号1頁~に接しました。同記事も同様の理解のようです。

14頁

【なお、電車の社内等における痴漢事案については、接触した身体の部位や行為態様、執拗さなどの具体的事情に基づいて、(改正前の)強制わいせつ罪と迷惑防止条例違反の罪を区別するのが従来の実務的な対応であったと思われる。今回の改正もこのような実務的運用に変更を迫るものではないが、改正法は、改正前の強制わいせつ罪のように暴行・脅迫要件を要求するものではなく、「いとまがない」を要件とするものであるから、改正法においては、不同意わいせつ罪の成立を否定する根拠として、暴行要件の不充足を援用することができない点には注意が必要である(理論的には、「わいせつ行為」の有無以外に問題となる要件は存在しない)。】

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3928

 

「わいせつ行為」に対する解釈の変化

次に「わいせつ行為」の該当性についても判断しないといけません。「わいせつ行為」該当性については、最重要の最高裁判例が存在します。

【元来,性的な被害に係る犯罪規定あるいはその解釈には,社会の受け止め方を踏まえなければ,処罰対象を適切に決することができないという特質があると考えられる。

…イ そして,「刑法等の一部を改正する法律」(平成16年法律第156号)は,性的な被害に係る犯罪に対する国民の規範意識に合致させるため,強制わいせつ罪の法定刑を6月以上7年以下の懲役から6月以上10年以下の懲役に引き上げ,強姦罪の法定刑を2年以上の有期懲役から3年以上の有期懲役に引き上げるなどし,「刑法の一部を改正する法律」(平成29年法律第72号)は,性的な被害に係る犯罪の実情等に鑑み,事案の実態に即した対処を可能とするため,それまで強制わいせつ罪による処罰対象とされてきた行為の一部を強姦罪とされてきた行為と併せ,男女いずれもが,その行為の客体あるいは主体となり得るとされる強制性交等罪を新設するとともに,その法定刑を5年以上の有期懲役に引き上げたほか,監護者わいせつ罪及び監護者性交等罪を新設するなどしている。これらの法改正が,性的な被害に係る犯罪やその被害の実態に対する社会の一般的な受け止め方の変化を反映したものであることは明らかである。
ウ 以上を踏まえると,今日では,強制わいせつ罪の成立要件の解釈をするに当たっては,被害者の受けた性的な被害の有無やその内容,程度にこそ目を向けるべきであって,行為者の性的意図を同罪の成立要件とする昭和45年判例の解釈は,その正当性を支える実質的な根拠を見いだすことが一層難しくなっているといわざるを得ず,もはや維持し難い。
(5) もっとも,刑法176条にいうわいせつな行為と評価されるべき行為の中には,強姦罪に連なる行為のように,行為そのものが持つ性的性質が明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等如何にかかわらず当然に性的な意味があると認められるため,直ちにわいせつな行為と評価できる行為がある一方,行為そのものが持つ性的性質が不明確で,当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為もある。その上,同条の法定刑の重さに照らすと,性的な意味を帯びているとみられる行為の全てが同条にいうわいせつな行為として処罰に値すると評価すべきものではない。そして,いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪に対する社会の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる。
そうすると,刑法176条にいうわいせつな行為に当たるか否かの判断を行うためには,行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断せざるを得ないことになる。したがって,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があり得ることは否定し難い。しかし,そのような場合があるとしても,故意以外の行為者の性的意図を一律に強制わいせつ罪の成立要件とすることは相当でなく,昭和45年判例の解釈は変更されるべきである。

最高裁平成29年11月29日刑集第71巻9号467頁

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=87256

この最高裁判例を担当した最高裁調査官は、次のとおり解説しています。

向井香津子「最高裁判所判例解説刑事編 最判平29・11 ・29刑集71・9・467」」最高裁判所判例解説刑事篇(平成29年度)162頁

202-203頁

【したがって,ある行為が「わいせつな行為」に該当するというためには,
①性的な意味があるか否か
②性的な意味合いの強さが刑法176条等による非難に相応する程度に達し
ているか否か
を判断しなければならないと考えられるが, これらをどのような基準で判断すべきなのかが,更に問題となる。
これらの判断について, 当該被害者が実際に当罰性の高い性的意味を感じたか否かによるべきでないことは当然であり,他方で,昭和45年判例の解釈を採用しない以上,行為渦・自身の性欲等を基準にすべきものでないことも明らかといえる。結局,その判断は,社会通念に照らして客観的に判断される(注13)べきと考えられる。
また,性的な被害に係る犯罪に対する社会の受け止め方は,前述のとおり時代によって変わり得るものであることからすれば,社会通念に照らして判断する際には,その時代の社会の受け止め方をも考慮しておく必要がある。
もっとも,犯罪規定の解釈においては,法的安定性が求められることも当然であるから,社会の受け止め方の変化を考慮する際には,慎重な姿勢も必要(注14)であり,従前の判例・裁判例の積み重ねを十分斟酌する必要があろう。
本判決が, 「いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪の一般的な受け止め方を考慮しつつ客観的に判断されるべき事柄であると考えられる」と判示しているのは, このようなことを明らかにしたものと思われる。

(注13) 樋口亮介「性犯罪の主要事実確定基準としての刑法解釈」法律時報88巻11号89頁[2016年〕は,性的という評価は社会の価値観に依存する以上,量刑の数値化同様事例判断を積み重ねて平均的判断を形成していく他ない問題である,と指摘する。】

 

弁護士としては、この最高裁判例を十分に意識して、「行為そのものが持つ性的性質の有無及び程度を十分に踏まえた上で,事案によっては,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,社会通念に照らし,その行為に性的な意味があるといえるか否かや,その性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて」判断していく必要があるでしょう。その際には、社会通念を表すものとして文献の調査をすることはもちろん、従前の判例・裁判例を十分に調査する必要があると思います。

 

③「痴漢」と不同意わいせつについての実務上の取扱

改正前の文献を含め、いくつか文献を紹介します。弁護人、犯罪被害者代理人としては、依頼者から聴取した内容を基に、その時点の社会通念に照らして「不同意わいせつ罪」にあたるか否かを論じていくことになるでしょう。これらの文献を見ると、「下着の上から」の接触については、従来は迷惑行為防止条例違反とされていたものが、不同意わいせつ罪とされる傾向に変わりつつあるといえると思います。

 

a)渡辺咲子『現代型犯罪と擬律判断(補訂版)』(立花書房,2009年11月)3-4頁

【現場の実務としては,ちかん行為に及んだ者が,相手女性の下着の中に手指を差し入れるに至ったときは,「強制わいせつ」,着衣あるいは,スカートの中に手を差し入れても下着の上から身体に触ったに止まる場合は「ちかん」として処理する傾向にあるようである。一般に,女性の意思に反してその着用している下着の中に手を差し入れる行為は,身体に対する不法な有形力の行使であるといえるであろう。暴行・脅迫が「抵抗を著しく困難にする程度」のものであったかどうかは,暴行に用いられた有形力の大きさや脅迫の際に告知された害悪の大きさのみによるものではない。周囲の状況や,被害者の性別・年齢等を総合して判断されるべきものである。混雑して身動きもできない電車内で,若い女性を相手に下着の中にまで手を入れる行為は,「抵抗が著しく困難である」暴行,あるいは,行動による脅迫と評価できる場合が多いであろう。】

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000002-I000010630737

 

b)田中嘉寿子『性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック』(立花書房,2014年1月)114-115頁

【(1) 迷惑防止条例違反(痴漢)
一般的に,着衣の上から触っただけなら条例違反,下着の中に手を人れれば本罪と認定されることが多い。
ただし,陰部・臀部を覆う着衣に触れるという程度に留まらず,着衣の上から陰部・臀部を弄んだといえる程度の行為であれば,本罪に当たる(大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法[第2版]第9巻』〔青林書院,平成12 年〕62 頁〔亀山継夫〕)。着衣の上から臀部を手の平でなで回した行為を本罪とした事例もある(名古屋高判平15 • 6 • 2判時1834 号161 頁東京高判平13 • 9 • 18 東時52 巻1= 12 号54 頁)。】

https://ndlsearch.ndl.go.jp/books/R100000038-I3028821

 

c)田川靖紘「49 兵庫県迷惑防止条例にいう「卑わいな言動」該当性 大阪高判平成30年1月31 日LEX/DB 25549755」

松原芳博・杉本一敏編『判例特別刑法[第4集]』(日本評論社,2022年7月)498-506頁

505-506頁

【もっとも、卑わい行為の中には、わいせつ行為も含まれるため(21) 、強制わいせつ罪と迷惑防止条例における卑わい行為との区別が問題となる。一般的に被害者の性的部位を「着衣の上から」触る行為は迷惑防止条例における卑わい行為と分類される(22)。ただし、撫で回すなど態様が「執よう」な場合には強制わいせつ罪に分類される(23)。また、強制わいせつ罪は、暴行・脅迫要件が条文上規定されており、これが「被害者の抗拒を著しく困難ならしめる程度」にまで達していたような場合は強制わいせつ罪に分類される(24)。そうすると、本件行為者はAの胸部をいきなりつかんでいるので、「抗拒は著しく困難」であったともいえるが、「着衣の上から」右手でつかんだのみで、「執よう」な接触とはいえない。

(21) 會田・前掲注( 6)366 頁。

(22) 嘉門・前掲注(14)163頁。
(23) 川端博ほか編「裁判例コンメンタール刑法第2巻』(2006年) 294頁〔池本壽美子〕。
(24) 嘉門優「強制わいせつと痴漢行為との区別について」刑弁93号(2018年) 148頁。】

https://www.nippyo.co.jp/shop/book/8824.html

 

d)嘉門優「強制わいせつと痴漢行為の区別について」季刊刑事弁護93号(2018年春号)147-151頁

148頁

【①犯行場所と周囲の状況について、被害者が多少身動きしたり、場所を移動して犯行を避けえた状況であれば、痴漢行為として処理される傾向にある’5.次に、②態様が執ようなものではない場合にも、痴漢とされる傾向にある。たとえば、片手のみを用いた痴漢行為や’6、痴漢行為が一時的に中止されたが、その後も断続的に続けられた事案では’7,被害者が抵抗する可能性があったと考えられ、痴漢行為として処理されている。また、被害者が「やめて」などと実際に行為者に抗議した場合’8、被害者が被告人を睨みつけて、陰部に手指を挿入されないよう脚を固く閉じ合わせるなどして防衛行為をとっていた場合も’9、痴漢行為として処理される傾向にある。さらに、痴漢が肯定されている、ほぼすべての事案が、③行為者と被害者が初対面、ないしは面識がない場合である。これは、強制わいせつ事案に見られるような、行為者の地位利用による、被害者の心理的な抵抗困難状況がないことを示すものだといえる。

5東京地判平19.5.28LEX/DB28145205.
6最大判平29・11 ・29裁判所ウェブサイト。
7佐藤陽子「強制わいせつにおけるわいせつ概念について」法時88巻ll号63頁以下参照。
8和田俊憲「鉄道における強姦罪と公然性」慶應法学31号(2015年)272頁、佐伯仁志「刑法における自由の保護」曹時67巻9号(2015年)23頁以下、亀山=河村・前掲注2論文66頁。なお、大審院判例に、他人の住居に侵入し、寝ている女性の肩を抱き、左手をその陰部に触れた行為の判断に際して、本罪の暴行とは、「正当の理由なく他人の意思に反してその身体髪膚に力を加えること」だと、その力の大小強弱を問うべきではないとした判断がある(大判大13. lO.22刑集3巻749頁)。しかし、この判例は、迷惑防止条例制定以前のものであり、両罪の適用範囲の区別を意識したものではないため、この基準をそのまま採用すべきではない。
9佐伯・前掲注8論文29頁。】

149頁

【強制わいせつ罪のわいせつ行為は、接触部位、接触行為の性的意味合い、態様の執よう性といった観点から、「性欲を刺激、興奮又は満足させる行為」と評価しうるかどうかが判断されてい
る。したがって、そのような行為ではないと認められ、かつ、公然性が肯定されれば、原則的には、痴漢行為処罰規定の適用対象となる。その典型例は、被害者の身体を「着衣の上から」触る類型である。前述の強制わいせつ罪の実務から、①性的部位を着衣の上から触ったが、態様が執ようでない場合は、強制わいせつ罪ではなく、条例上の痴漢行為として処罰されることになる31.また、②着衣の上から執ように撫で回したとしても、触ったのが「非性的部位」である場合は、基本的には条例上の痴漢行為とされてきた(ただし、前述の唇への接吻行為を無理やり強要
した場合は強制わいせつ罪となりうる)32。なお、③非性的部位を着衣の上から触ったが、態様が執ようではなかった場合には、痴漢行為ともならず、無罪とされた事例がある33.本事案では、着衣の上から数秒間、腰部を触ったという事案であり、この場合、「卑わいな言動」にすら当たらないとされた。】

http://www.genjin.jp/book/b345733.html

 

e)粟田知穂『事案処理に向けた実体法の解釈 条文あてはめ刑法』(立花書房,2019年8月)

142頁

【具体的に問題となるのは,着衣の上から身体に触れる態様ですが,陰部や乳房を下着の上から撫でるような態様についてはわいせつな行為と言い得る7)一方,それに至らない態様のものについては,痴漢行為として条例違反により処理されることが多いようです

7) 東京高判平成13 • 9 • 18 東時52 • I =12 • 54等】

https://tachibanashobo.co.jp/html/upload/save_image/product_leaflet/0920093853650a3f1dcee55_%E6%9D%A1%E6%96%87%E3%81%82%E3%81%A6%E3%81%AF%E3%82%81%E5%88%91%E6%B3%95_%E3%83%81%E3%83%A9%E3%82%B7.pdf

f)金澤真理「強制わいせつ罪における行為の性的な意味について_ 平成29年11月29日最高裁大法廷判決を手がかりに一」

山口厚ほか編『高橋則夫先生古稀祝賀論文集[下巻]』(成文堂,2022年3月)267-281頁

272頁

【13 衣服の上からの接触についても、性に関する特定の部位に触れる場合には、わいせつ行為を肯定する例が散見されるが(東京高判平成13• 9 • 18東高刑時報52巻l~12号54頁、名古屋高判平成15• 6 • 2判時1834号161頁、仙台高判平成25• 9 • 19高刑速(平25) 号250頁、函館地判平成27 • 5 • 18LEX/DB25447301、高松地判平成26• 3 • 17LEX/DB25503841)、その際、特定部位に狙いを定め執拗に攻める態様が痴漢行為との境界となると解される。他方、幼女の臀部から背面にかけてを撫で回す場合には、わいせつ性が否定された例がある(名古屋地判昭和48・9・28判時736号110頁)。双方の性的部位がいずれも衣服等に覆われている場合もわいせつな行為となりうる。日常生活における自然な姿勢と距離を保ったまま、手指を用いることなく相互に陰部同士を接近させることは人体の構造上難しく、そのためには相手に不自然で不快な体位をとらせざるを得ないことを考え合わせると、かかる行為には迷惑防止条例違反にとどまらず、性的自由の侵害を認めることに理由があろう。被害者を開脚させた上で覆い被さり着衣の上から性行為を模した行為を行い、相手の陰部付近に性器を押しつける行為をした場合にわいせつな行為と認めた例がある(最決令和元・7• 18LEX/DB25564059)。
必ずしも衣服に覆われている部位ではないが、接吻につきわいせつ性を肯定した事例がある(最決昭和50• 6 • 19集刑196号653頁、東京地判昭和56・4・30判時1028号145頁、高松高判令和3 • 2 • 18LEX/DB25569324)。これらの事例では、通常のコミュニケーションの域を超え、性的欲望の発露であることが明らかである点に加え、相手方の意思に反している点が重視されている。】

https://www.seibundoh.co.jp/pub/products/view/13315

 

g)前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版補訂版〕』(弘文堂,2023年3月)524頁
【これに対し,単なる抱擁は, わいせつ行為とはいえない。女性の臂部を撫でる行為については,厚手の着衣の上から撫でてもわいせつといえないが(痴漢行為として条例違反となり得ることにつき。本条注8(キ)参照) , 下着の上から撫でたような場合にはわいせつ性を肯定し得るであろう(東京高判平13・9・18束時52-1=1254, 名古屋高判平15.6.2判時1834161)。】

https://www.koubundou.co.jp/book/b618733.html

 

h)岡本貴幸『図表で明快!擬律判断 ここが境界-実務刑法・特別刑法-【第2版】』(東京法令出版,2024年4月)

184-185頁

【不同意わいせつ罪と条例違反の法定刑の違いや、条例違反が不同意わいせつに至らない程度の迷惑行為を処罰対象にしていることからすれば、その区別は、相手方の性的自由を侵害する程度に至っているか否か、つまり、その対象となる部位や態様の執勘さや程度によって判断することとなる。
したがって、相手方の陰部に触れる行為は、一般的に、不同意わいせつに該当することとなるが(ただし、厚手の着衣の上から触るにとどまる場合は、条例違反を適用する場合が多い)、相手方の臂部に触れる行為は、その態様の執勘さや程度によることとなる。
そして、①厚手の着衣の上から臂部をなでる行為は、一般的に、その接触の程度などからわいせつ行為には至っておらず、条例違反となる傾向があるが、②下着の上から、又は、直接、臂部をなでる行為は、一般的に、その接触の程度などからわいせつ行為となる傾向がある。
エモデルケースの理由・解答
本件において、①については、Aは、そのスカートの上から、その臂部をなでており、わいせつの程度には至っておらず、Aは、条例違反の罪責を負う。
他方、②については、Aは、そのスカートの上から、その臂部をなでたところ、乙が抵抗しなかったことから、さらに、そのスカートの中に手を差し入れ、下着越しにその臂部全体をなで回しており、Aは、不同意わいせつ罪の罪責を負う。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/shop/goods/index.php?13341

i)志賀文子「不同意わいせつ事件において、わいせつな行為該当性が問題となった事例」捜査研究2024年5月号(884号)9-19頁

16-18頁

【抱きつく行為と同様に、実務上頻繁にわいせつ行為性が問題となる事案として、着衣の上から臀部を触る行為があるため、関連する問題として検討することとしたい。
本職が新法施行前に取り扱った事案について簡単に紹介する。
事案は、被疑者が、春頃の日中の時間帯、街中で、B子(女性、高校生)を発見し、B子を、電車を乗り継ぐなどして追従し、B方玄関前まで来たときに、いきなり背後から、スカートの上から臀部を手でつかんでもんだ事案である。
被害者は、犯行後その場から逃走したが、B子は、被害直後110 番通報した。
警察官が、犯行現場周辺やB子の最寄り駅からの帰宅経路上等の防犯カメラの捜査等を行ったことにより、被疑者がB子をB子方まで追従している状況等が明らかとなり、犯行から約1か月後通常逮捕され、検察庁に送致された。
問題の所在は、被疑者のB子に対する接触行為は、B子方前における、スカートの上から臀部を1回手でつかんでもんだ行為のみであるため、わいせつ行為といえるかである。

2 裁判例
着衣の上から臀部を触る行為については判断が分かれているが、近時の裁判例は積極に判断されていると思料される。

(略)

いずれの裁判例も、その部位や態様からわいせつ性の有無を判断していると思料され、十分にわいせつ性を其備していた事案であると思料され、否定例の裁判例の判断には疑問がある。現在と社会通念が異なることも原因と考えられる。

もっとも、肯定例の裁判例でも、ある程度の時間、臀部をなで回すといった執拗な態様がわいせつ性を肯定するために必要であるようにも思われ、接触時間が僅かな時間で、態様が「わしづかむ」などの強度の態様だった場合にわいせつ性が肯定されるのか否かについては明らかではない。
3 実務上の処理状況及び本件の処分
もっとも、実務上、性的部位を「もてあそんだ」「わしづかみにした」「押しなでた」といえる程度の比較的強度の強い態様である場合には、その部位が臀部であっても、強制・不同意わいせつ罪に問擬する扱いとなっていると理解している。

本職が取り扱った前記事案では、所要の捜査を行い、東京地方裁判所に公判請求をした。】

https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202405/

※福岡県迷惑行為防止条例

(卑わいな行為等の禁止)
第六条 何人も、公共の場所又は公共の乗物において、正当な理由がないのに、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で次に掲げる行為をしてはならない。
一 他人の身体に直接触れ、又は衣服その他の身に着ける物(以下この条において「衣服等」という。)の上から触れること。

(罰則)
第十一条 第六条又は第八条の規定に違反した者は、一年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。

第十二条 常習として前条第一項の違反行為をした者は、二年以下の懲役又は百万円以下の罰金
に処する。

https://www.police.pref.fukuoka.jp/data/open/cnt/3/4139/1/meibo.pdf?20190620183453

※刑法

(不同意わいせつ)
第百七十六条次に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした者は、婚姻関係の有無にかかわらず、六月以上十年以下の拘禁刑に処する。
一暴行若しくは脅迫を用いること又はそれらを受けたこと。
二心身の障害を生じさせること又はそれがあること。
三アルコール若しくは薬物を摂取させること又はそれらの影響があること。
四睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること。
五同意しない意思を形成し、表明し又は全うするいとまがないこと。
六予想と異なる事態に直面させて恐怖させ、若しくは驚愕がくさせること又はその事態に直面して恐怖し、若しくは驚愕していること。
七虐待に起因する心理的反応を生じさせること又はそれがあること。
八経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益を憂慮させること又はそれを憂慮していること。
2行為がわいせつなものではないとの誤信をさせ、若しくは行為をする者について人違いをさせ、又はそれらの誤信若しくは人違いをしていることに乗じて、わいせつな行為をした者も、前項と同様とする。
3十六歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者(当該十六歳未満の者が十三歳以上である場合については、その者が生まれた日より五年以上前の日に生まれた者に限る。)も、第一項と同様とする。

https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045

 

【関連裁判例】

警察公論2004年8月号付録『警察実務重要裁判例平成16年版』

着衣の上から女性の臂部を手のひらでなで回す行為は,強制わいせつ罪の「わいせつ行為」に当たるとした事例
名古屋高判平15.6.2(上告取下確定) 判例時報1834号161頁

【なお,被告人の犯行態様は,
①女性に水洗タンクの蓋を持ち上げさせた後, その背後から体を密着させたり,その右肩に右手を添えて逃げられないようにした上で,同女の左脇から左手を差し入れて左胸を着衣の上から掌で2, 3回上下になで,更に, 同女の腰から臂部に左手を這わせた後,臂部を2, 3回なで回したが, 同女の胸部や臂部をなでていた時間は約20秒であった。
②女性をトイレ内に誘い入れて水洗タンクの蓋を持ち上げさせた後,同女の臂部を触り易くするため便器を跨ぐ、ように立たせ,更に,同女の横から体を密着させた上で,左手で同女の臂部を20秒から30秒間なで回した。
というものであった。】

不同意性交等罪、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが【困難な状態】とは何か

東京都迷惑防止条例第5条第1項(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)の解説・第2回痴漢行為

性加害者の心理についての考察(不同意性交・不同意わいせつ・独身偽装)

※2025/1/19 chatGPT o1 proで検証してもらいました。

以下、捜査実務の観点・**法律学(特に刑法および特別刑法)**の観点から、本記事に記載されている内容の真偽を詳細に検討します。記事は、痴漢行為が「迷惑行為防止条例違反」となるのか「不同意わいせつ罪」となるのか、その分水嶺に関する解説をしています。令和5年度の刑法改正(強制わいせつ罪→不同意わいせつ罪)を踏まえた上で、どのようなケースが条例違反(いわゆる「軽い痴漢」)で済まされるのではなく、不同意わいせつ罪として立件される可能性があるか、という点を扱っています。結論としては、記事全体の趣旨自体は「一昔前であれば条例違反で済んだかもしれない事例でも、近時は法改正や社会通念の変化により、不同意わいせつ罪として厳しく処罰される場合が増加傾向にある」というものであり、おおむね真実に即した内容と評価できます。ただし、細部については留意すべきポイントや、捜査側・裁判所側の運用上まだ定着しているとは限らない部分もあるため、以下で詳述します。


1 本記事の要旨

  • 相談事例
    • 以前、電車内で臀部を触っていた行為で「迷惑防止条例違反」として罰金で済んだことがある30代男性が、今回また同様の行為(女性の臀部を撫でまわした)をしたところ、「不同意わいせつ罪」として逮捕されてしまった。
    • 「なぜ前回は罰金程度だったのに、今回は逮捕までされるのか」という疑問。
  • 記事の解説
    1. 令和5年度刑法改正で「強制わいせつ罪」が「不同意わいせつ罪」に改められた影響:暴行・脅迫の程度が争点とされにくくなり、第5号の「同意しない意思を形成し、表明し、全うするいとまがないこと」が明示された以上、満員電車での突然の痴漢も「同意しない意思を表明する暇を与えない」という形で不同意わいせつ罪に該当する可能性が高まった。
    2. わいせつ行為の該当性も、社会通念の変化や最高裁の新しい判例により、「被害者の性的自由をどれほど侵害したか」という客観評価が重視される。着衣の上からの一瞬の接触が条例違反にとどまる一方で、着衣を介していても強度の高い接触(撫で回す・手を差し込むなど)は不同意わいせつ罪になりうる。
  • 記事の結論
    • 「たかが痴漢」とみなして条例違反程度で済むと思っていると、今後は不同意わいせつ罪での立件リスクが高まっている。
    • 特に改正後は“暴行・脅迫”の程度が問題視されないため、「抵抗しづらい環境(満員電車など)」「わいせつ行為としての性的自由の侵害が比較的強度」と判断されれば、条例違反ではなく違法性の高い不同意わいせつ罪となる可能性がある。

2 本記事の前提としている主要論点の真偽

(1) 「痴漢行為」の処罰法規は迷惑行為防止条例違反 vs. 刑法(不同意わいせつ罪)

(a) 条例違反としての処罰

多くの都道府県迷惑行為防止条例では、公共の場所または公共の乗物において「他人の身体に触れる」性的迷惑行為を処罰する規定があり、着衣の上から軽度に身体を触れた行為を中心として「痴漢行為」を取り締まっている(典型例:福岡県迷惑行為防止条例6条1項1号)。

  • 法定刑:迷惑行為防止条例違反の基本法定刑は「1年以下の懲役又は百万円以下の罰金」とされることが多い(福岡県はじめ多くの条例が類似)。
  • 違法性:行為態様が比較的軽微な場合に用いられる規定という運用が多い。

(b) 刑法(不同意わいせつ罪)としての処罰

旧法の強制わいせつ罪(現・不同意わいせつ罪)は、より重大な性的自由の侵害を対象にしており、法定刑は「6月以上10年以下の拘禁刑」と極めて重い。改正前は「暴行・脅迫」要件が鍵だったが、改正法では暴行・脅迫に限定されず、「同意しない意思を形成、表明、全うできない状態」に乗じれば成立する。

  • 法定刑:最低6か月の拘禁刑。刑の上限も10年と重く、執行猶予が得られるかも未定なケースが出る。
  • 違法性:条例違反の痴漢行為より大幅に高い法定刑が想定されているため、以前から「下着の中に手を入れる」「数十秒にわたって執拗になで回す」など性的侵害度合いが大きい場合に適用されるとの運用がされてきた。

(2) 改正法による差異:暴行・脅迫の程度を問題としない「同意しない意思を形成表明するいとまがない状態」が要件に

記事が強調している「令和5年度刑法改正」ポイントとしては、

  1. 従来は暴行・脅迫が「抗拒を著しく困難にする程度」であるか否かが強制わいせつ罪成立のメルクマールだった。痴漢行為は満員電車などの“軽度の身体接触”の場合、「抗拒を著しく困難にする」程度とはいえないとして条例違反にとどめる運用が多かった。
  2. 今回の改正で「同意しない意思を形成、表明、全うするいとまがないこと」(刑法176条1項5号)が要件に加わり、被害者が行為を拒む猶予をまったく与えないような行為の場合、暴行・脅迫の程度を問わず成立し得るという解釈が大きく広まる。
  3. したがって、電車での突然の臀部撫で回しなど、被害者が身体を動かせない混雑状況なら、“抵抗を著しく困難にする程度の暴行を使った”とは評価されなくても、少なくとも「いとまがない」状態を利用した行為として不同意わいせつ罪を問擬しやすくなる、という話である。

→この記事の趣旨
今後、痴漢として処理されてきた行為の一部(着衣上からの接触でも執拗に撫で回すなど侵害程度が高い)は、「違法性が高い」として不同意わいせつ罪で立件される可能性が相対的に高まる。これは、令和5年度刑法改正の立法趣旨(性被害の本質が「同意を欠く性行為」である以上、暴行・脅迫の大小に限定されるわけではない)にも合致している、と記事で説かれている。

この点は真実性が高い。
実務でも、改正前から“着衣の上からでも数秒以上陰部をもみ続けた”という類型が強制わいせつ罪として起訴・有罪認定されている裁判例が散見される。改正後はさらに立件・起訴が増える(特に「撫で回す」「わしづかむ」「執拗」など、強度や時間、具体的態様が深刻な事案)。記事の指摘はおおむね正確といえる。


(3) わいせつ行為該当性を「被害者目線」でみるか?

記事では、わいせつ行為該当性の判断にあたり、近年の最高裁判例(最決平成29年11月29日)を挙げ、「行為そのものが持つ性的性質」と「具体的状況」を総合考慮し、社会通念に照らして判断する方向を示す。そして「被害者目線(被害者の感じ方を重視する傾向)」が強くなっていると述べている。

  • 最高裁判例自体は、「行為そのものの性的性質だけでなく、その具体的状況も併せて評価して社会通念に照らして」決めると明示している。
  • ただし、**「被害者がこう感じたから絶対にわいせつ行為になる」**というわけではなく、あくまで客観評価である。しかし、実務では被害者の供述・認識も事実認定に影響するのは事実であり、「被害者目線を重視する傾向」が近年強くなっていることは真実といえる。

したがってこの記事の「最高裁の解釈を踏まえて被害者目線が重視されている」という点は、厳密には「社会通念に照らして判断」という条解がベースだが、捜査・裁判の現場では“被害者の感じ方”を大いに考慮しているのは確かであり、この記載も概ね正確といえる。


(4) 着衣の上からの接触でも「迷惑防止条例違反」ではなく「不同意わいせつ罪」となる可能性があるか?

記事の具体的論旨は、**「着衣の上から臀部を撫で回した」**という痴漢事案において、かつてなら迷惑防止条例違反で罰金程度で済んでいたが、現在では不同意わいせつ罪として扱われる可能性がある、という主張である。

(a) 従来の運用

  • 先に引用される文献でも、衣服の上からの軽微な接触については「条例違反」扱いされる例が多かった。
  • 他方、衣服の上からでも女性の陰部・臀部などを執拗に撫で回す行為や、「数十秒以上もむ」ような行為は、すでに旧・強制わいせつ罪と判断された事例がある。

→ したがって、「単なるスカートの上から一瞬タッチ」では条例違反にとどめ、陰部や臀部を“わしづかむ” “撫で回す”など態様がより深刻なものは旧・強制わいせつ罪に問擬という線引きが従来から存在した。

(b) 改正に伴う判断枠組みの微妙な変化

  • 改正後は暴行・脅迫の程度の議論を経ずとも「わいせつ行為」該当→「同意しない意思を全うできない」状態、と捉えれば成立が容易になる可能性がある。
  • 満員電車の場合、被害者が簡単に逃げられない。→ 「同意しない意思を表明全うできない状態」を捜査・起訴側が構成しやすい。
  • 「身体を動かせずに逆らえない状況で臀部を撫で回された」となれば、条例違反ではなく不同意わいせつ罪の方向に傾く。

記事の記述「以前は条例違反扱いで済んだ同類型の痴漢が、今後は不同意わいせつ罪として処理される可能性が高くなっている」は、法改正の趣旨や実務の厳格化を踏まえると、相当に真実に近い見解といえる。ただし、現場すべてが一挙に「着衣上からでも必ず不同意わいせつ罪」となるわけではなく、やはり行為態様の執拗性や、被害者の身体部位、犯行時間などが考慮される点は変わらない。


3 捜査実務の観点:迷惑防止条例 vs. 不同意わいせつ罪の判断基準

記事で引用されている実務上の文献・裁判例集によれば、以下のポイントが捜査上・裁判上の“痴漢 vs. 不同意わいせつ”の区別基準とされていることはおおむね正しい。

  1. 行為態様の強度・執拗性
    • 一瞬タッチ → 条例違反処理される傾向が強い(ただし悪質であれば当然起訴の可能性はある)。
    • 陰部・乳房・臀部をしつこく撫で回す、もみ続ける → 従来から強制わいせつ罪が適用されてきた。改正後はより広く“不同意わいせつ罪”適用に踏み切られる可能性がある。
  2. 身体のどの部位を狙ったか
    • 着衣の上からでも、陰部・臀部・女性の胸部など性感帯を集中的に弄ぶ類型は、強制わいせつ罪(改正後の不同意わいせつ罪)とされる例が多い。
    • 一方、背中や二の腕など比較的非性的とされる部位に一瞬触れた程度なら条例違反ですら難しい場合もある。
  3. 被害者の抵抗可能性・状況
    • 人通りが多く逃げられる状況なら「条例違反」として扱われる場合が多かったが、満員電車のように身動きが取れない(拒絶を示すいとまがない)場合には強制わいせつ罪として厳しく扱われる例が増えている。
    • 改正後はこの点が一層強調され、満員電車のような“いとまがない”環境で、性的自由を侵害する行為があった場合、捜査機関は不同意わいせつ罪の適用を躊躇しないとみられる。

記事の描写はこれら実務上の判断材料を根拠としていると思われ、総合的にみて真実性が高い。特に「撫でまわした」ほど悪質であれば、(たとえ着衣越しでも)不同意わいせつ罪が成立する方向に傾くとの言及は正確な指摘といえる。


4 「たかが痴漢」と思うのは危険:立件・逮捕されるとどうなるか

記事の末尾では、「逮捕・勾留されると会社にも居られなくなり家族に負担をかける」といった話を具体例で示している。実際に、痴漢行為は常習性が疑われる・被害者が強い処罰感情を表明する・他の要件が認められるなどの場合、逮捕・勾留がなされる可能性が高い。さらに、平成29年判例以来、性犯罪に対する捜査・検察実務が厳しくなっているうえ、令和5年度改正により「立件強化」が進むことが想定される。

  • より厳格に取り締まりがなされ、記事がいう通り「家族を養えなくなる」「会社に居られなくなる」といった重大な不利益が現実的に起こり得る。
  • この点も真実に即した内容であり、法令・判例・実務通達と齟齬はない。

5 総合評価

(1) 本記事の真偽総評

  1. 記事の主張
    • 令和5年度刑法改正後は、痴漢(従来条例違反で処理されがち)であっても、着衣の上からでも強度・執拗性があれば「不同意わいせつ罪」で立件されるリスクが高い。
    • 特に満員電車での臀部等への継続的触摸は、“同意しない意思を表明するいとまがない”状況を利用する悪質な行為として扱われやすい。
    • 刑法の厳罰化、社会の性犯罪に対する通念の変化もあり、過去に罰金で済んだ事例でも再犯時に今回のように逮捕・勾留→起訴→実刑リスクがある。
  2. 検証結果
    • 既に旧・強制わいせつ罪と条例違反の区別は実務でも多くの文献・裁判例が存在し、「陰部や胸部を着衣の上からしつこく触る行為」は従来から強制わいせつ罪に問擬されてきたケースが多い。
    • 改正法下では、「被害者の同意しない意思を形成表明できない状態」を利用した痴漢は、暴行・脅迫の大小を問題にせずとも「不同意わいせつ罪」と評価されやすい。
    • 最高裁判例(最決平成29・11・29)も、「わいせつな行為」該当性は社会通念の変化を考慮し、被害者の受ける性的自由侵害の深刻さで判断されるとしている。満員電車内の臀部撫で回しは“深刻な性的侵害”と評価されやすくなり、起訴されやすい。

以上より、本記事に書かれた「たかが痴漢」と甘く見ていると、改正後は更加重処罰されるという記述は、実務傾向や法的根拠に照らして真実性が高いと言ってよい


(2) 今後の留意点

  1. 改正法施行後、実際の立件がどこまで増えるかは今後の運用次第だが、性犯罪被害に対する厳罰化と被害者目線の強化という社会情勢を踏まえると、記事が言うように「今後増える可能性がある」という予測は合理的。
  2. 「一瞬触っただけ」で即必ず不同意わいせつ罪になるかどうかは、具体的な行為態様次第。記事も「撫でまわした」「執拗に触った」等の要素で重視しているので、十分慎重な書きぶりである。
  3. 実務では、仮に送致されても検察段階で「迷惑防止条例違反」に切り替える例は残ると思われる。しかし、改正法施行後は取り調べや捜査がより詳細に行われ、被害の深刻性が認定されれば躊躇なく不同意わいせつ罪で起訴する例が出るだろう。

6 結論

本記事は、

  • 令和5年度刑法改正(強制わいせつ罪→不同意わいせつ罪)の趣旨とその効果
  • 痴漢行為(条例違反)と不同意わいせつ罪の境界
  • わいせつ行為の認定に関する近時の最高裁判例や社会通念の変化

これらを正しく踏まえたうえで、「着衣の上からであっても、執拗に撫でまわすなど深刻な性的侵害を与えれば、逮捕され起訴されるリスクが高まった」ことを解説しています。内容の中心は、改正法および新しい社会通念の下で痴漢(背後から臀部を触るなどの行為)が条例違反にとどまらず、不同意わいせつ罪に該当する可能性が十分にあるという点であり、これは実務上・法的にも整合的かつ信憑性が高い記載です。結論として、記事の主張・分析はおおむね真実性・正確性を備えたものと評価できます。

もっとも、

  • どの程度の態様・時間・強度で「条例違反」から「不同意わいせつ」に切り替わるかは、ケースごとに極めて事実認定が左右し、捜査実務・裁判所判断も一定の裁量がある。
  • 記事が示す「撫でまわしたり執拗に触る場合は立件されやすい」という線は正しいが、「一瞬のタッチでも不同意わいせつ罪」かどうかは今後の運用次第で変わる余地あり。

以上の点に留意しつつも、記事は概括的に実務傾向を反映しており、改正後の運用に関する見通しも十分説得力がある。したがって本記事の内容は、捜査実務・法律学的観点ともにおおむね正確であり、真実性が高いと言えます。