社有車のナンバープレートを取り外して、1日だけ隠したという相談(器物損壊、刑事弁護)
2024年12月11日刑事弁護
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
【相談】
Q、私は、東京都北区赤羽で運輸会社に勤務している50代男性です。社長のパワハラがひどく、いつも暴言を吐いているので職場環境は最悪だと思います。ある日、あまりに腹が立ったので、社有車のナンバープレートを外して、自宅に持ち帰りました。翌日社長は慌てていたのですが、どうも警察に連絡しているのでまずいことになるのではないかと、その日の夜に取り付け直しました。しかし、社長が隠しカメラを仕掛けていたようで、私が犯人とバレて警察に連れて行かれました。「器物損壊」と言われているのですが、私は何も壊していません。
A、裁判例に照らすと、理屈上は器物損壊罪が成立すると思います。とはいえ、情状酌量の余地がある事案のようなので、示談ができなくても不起訴は狙えると思います。弁護士の面談相談を受けられて下さい。
【解説】
以前、自転車のサドルを隠す事案で「器物損壊罪」が成立するか否かについて記事を書きました。今回は、ナンバープレート取り外しの事例ですが、これについては東京高等裁判所の近時の裁判例があります。「成立する」というものですが、相談事例のような場合であれば、処罰まではいかずに解決できることもあると思います。
刑法
https://laws.e-gov.go.jp/law/140AC0000000045/20250601_504AC0000000067#Mp-Pa_2-Ch_40
(器物損壊等)
第二百六十一条 前三条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
(親告罪)
第二百六十四条 第二百五十九条、第二百六十一条及び前条の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
【参考文献】
梶美紗「最新判例解説第52回 軽乗用自動車からナンバープレートを取り外して持ち去った行為が、同車両の「損壊」に該当するとして、器物損壊罪の成立を認めた事例[東京高裁令和4.1.19判決] 」捜査研究2022年10月号(864号)85-93頁
93頁
【これまでみてきたとおり、判例は、一時的に利用を妨げる全ての行為について器物損壊罪の成立を認めるものではなく、本罪が他人の所有する物の物的価値、効用を保護するものであること(『大コンメンタール刑法〔第三版〕』第13 巻799 頁)に鑑み、本来の効用が失われた場合をその処罰対象としているものと思われ、それを超える範囲を処罰対象とするものではないと考えられる。】
https://www.tokyo-horei.co.jp/magazine/sousakenkyu/202210/
吉田誠治『新版第2版 記載例中心 事件送致の手引』(東京法令出版,2022年5月)633頁
【器物損壊罪も財産犯であるので、被害額の多寡及び被害の内容(被害者が大切にしていた、例えば、記念写真のような物については、財産的価格のみでその価値を計ることはできない。)。被害回復(被害弁償)の有無、被害者の処罰意思の有無、程度が重要な情状となるが、この種事件では、例えば飲食店の中で暴れて店内の器物を損壊した場合のように、財産犯としての側面のほかに、粗暴犯的な面を併せ有する事案もあるので、事案によっては、犯行の動機、犯行の手段・方法、被害者等の関係者に与えた影響等も情状として考慮する必要がある。】
※2025/1/8 chatGPT o1 proで検証してもらいました。
以下では,ご提示いただいた**「社有車のナンバープレートを取り外して持ち帰ったところ,器物損壊罪と言われている」という架空の相談事例**の内容や,引用されている法令・文献に照らして「事実として正しいかどうか」を検討します。結論としては,事例自体は架空の設定ですが,「ナンバープレートを外す行為が器物損壊罪に当たり得る」という法的解説や判例の趣旨は,日本の刑法実務の考え方に即しており,正しい内容といえます。
1. 架空の事例としての前提
※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。
今回のQ&A形式の相談は,「実在の人物や具体的な事件」を示すものではなく,典型的なトラブルをモデルにしたフィクションとして書かれています。そのため,この事例が実際に起こったかどうかを問うのは意味がなく,あくまで法的論点の解説を目的に提示されていると理解すべきです。
2. ナンバープレートを外す行為と器物損壊罪
2-1. 刑法261条(器物損壊罪)
(器物損壊等)
第261条 (略)他人の物を損壊し、又は傷害した者は、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金若しくは科料に処する。
「損壊」とは,単に物理的に壊す行為だけでなく,当該物の本来の効用を失わせたり,著しく減少させる行為も含まれる,と解釈されるのが判例・通説です。具体例として,裁判例や学説では
- 自転車のサドルを抜き取って持ち去る
- 他人の車のタイヤの空気を抜く
- 車のキーを壊してエンジンをかけられなくする
などが器物損壊罪に該当し得るとされています。実際に物理的破壊がなくても,「本来の使用価値・効用を喪失させた」点が損壊とみなされる根拠となっています。
2-2. ナンバープレートを外す行為が「損壊」といえるか
ナンバープレートは,自動車として合法的に公道を走行するために欠かせないものです。これを外すと,車としての使用価値(公道走行の効用)が著しく低下ないし失われます。そうした趣旨から,最近の判例(東京高裁令和4年1月19日判決)でも,
- 軽乗用車からナンバープレートを取り外して持ち去った行為は,「車両の本来の効用を喪失させる行為」とみなし,器物損壊罪が成立すると判断した
という例があります。本文中で引用されている「捜査研究2022年10月号(864号)」でもこの判決が詳しく取り上げられています。
よって,ナンバープレートを外して使用できない状態にした行為は,「壊す」行為に限りませんが刑法261条の保護法益である「物の物理的・財産的価値や効用」を毀損する行為として,器物損壊罪になり得るとするのが刑法実務の大勢です。
3. 「壊していないから器物損壊じゃない」の反論は通用するか
相談者が「何も壊していない」と主張しても,前述の通り,
「物理的破壊がない=損壊にならない」というわけではない
のが刑法261条の運用です。裁判所は「本来の使用価値の喪失」を幅広く「損壊」と捉えているため,ナンバープレートを外すことで車としての重要な効用(公道を走れる状態)が失われた以上,「器物損壊」と判断される可能性は高いと言わざるを得ません。
4. 不起訴や執行猶予の可能性
本文のAおよび解説部分では,「示談交渉や動機の酌量により不起訴を狙える」と言及されています。これは実務でもよくある流れで,
- 器物損壊罪は親告罪(刑法264条)である
- 被害者(会社や社長)が告訴を取り下げたり,示談が成立すれば起訴を免れる可能性がある
- たとえ起訴されても,動機や損害の程度などの事情が酌量され,情状によって執行猶予や不起訴処分が見込まれる場合がある
といったプロセスは実際の刑事弁護の場面でよく見られます。したがって,「情状酌量の余地」や「示談・不起訴」の話が出てくるのは実務上妥当な解説といえます。
5. 総合評価:記事内容の真偽
- 「事例そのもの」は架空:実在の会社や社長が出てきますが,すべて「フィクション」と明記されています。
- ナンバープレート取り外し行為が器物損壊罪にあたる可能性についての説明は,近時の東京高裁判決や従来の判例・学説に照らして正しい。
- 「物理的に壊していないから損壊ではない」は通用しにくいという点も実務上そのとおり。
- 被害者との示談や情状を踏まえれば,不起訴や軽い処分が期待できる場合もあるというアドバイスも妥当。
結論として,当該記事の法的解説は刑法・判例の理解に沿っており,虚偽や誤りは認められません。あくまで「架空の事例」を前提としながらも,本当に起こり得る事案として正確に整理された内容と評価できます。
まとめ
- この記事は**「社有車のナンバープレートを外して持ち帰ったら器物損壊罪と言われた」というフィクションの相談事例**を題材に,刑法261条の射程を解説しています。
- ナンバープレートを外す行為が車の「本来の効用」を失わせると評価され,器物損壊罪が成立し得るという判例・学説の通説的見解は正確です。
- 親告罪であることや,示談・情状酌量を通して不起訴・軽い処分を狙える可能性があるという指摘も妥当な弁護方針です。
以上より,当該記事の法的説明は日本の刑法・判例および実務の考え方に則った正しい内容であり,「真偽」を問えば真実に即していると言えます。