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薬院法律事務所

刑事弁護

粟田知穂「刑事事実認定マニュアル 第13回故意(その2)~錯誤論・薬物事犯の故意」警察学論集76巻7号(2023年7月号)169頁


2024年01月27日読書メモ

違法薬物所持案件については、所持した薬物が、違法薬物であるという「故意」があったか否かが問題になります。そして、この故意については、判例上きわめて広範に解釈されており、具体的な薬物名を知らなかったとしても「(当該薬物を含む)身体に有害で違法な薬物類」であることの認識があれば故意が認められています。

 

https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=57875

事件番号
平成1(あ)1038

事件名
覚せい剤取締法違反、関税法違反

裁判年月日
平成2年2月9日

法廷名
最高裁判所第二小法廷

裁判種別
決定

結果
棄却

判例集等巻・号・頁
集刑 第254号99頁

原審裁判所名
東京高等裁判所

原審事件番号
原審裁判年月日
平成元年7月31日

判示事項
覚せい剤輸入罪及び所持罪における覚せい剤であることの認識の程度

裁判要旨

参照法条
刑法38条1項,覚せい剤取締法41条1項1号,覚せい剤取締法13条,覚せい剤取締法41条の2第1項1号,覚せい剤取締法14条

【所論にかんがみ、職権により検討する。原判決の認定によれば、被告人は、本件物件を密輸入して所持した際、覚せい剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるとの認識があったというのであるから、覚せい剤かもしれないし、その他の身体に有害で違法な薬物かもしれないとの認識はあったことに帰することになる。そうすると、覚せい剤輸入罪、同所持罪の故意に欠けるところはないから、これと同旨と解される原判決の判断は、正当である。】

※刑法

(故意)
第三十八条 罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2 重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3 法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

刑法 | e-Gov法令検索

 

問題は、自白がない場合に、どういった事実が認められればこの「故意」が認定できるのか、ということです。本論文では、故意の認定について、消極方向に働く事実、積極方向に働く事実を分析して、整理しています。警察や検察に提出する意見書、あるいは公判で述べる弁論要旨作成の参考になるでしょう。

 

171頁

【(1)違法性の認識
① 隠匿態様
② 入手形態(時刻・場所・相手・態様)、組織(共犯者)によ
る指示・依頼内容
③ 価格・報酬・費用
④ 発覚時の言動等
(2)薬物類との認識(①~④に加え)
⑤ 対象物の大きさ、重量、形状、感触等
⑥ 共犯者・入手先とのやり取り(説明内容、不審点等)
⑦ 職業・経歴
③ 被告人の弁解内容
⑨ その他(注射器等との一括所持、使用時の体感等)】

警察学論集76巻7号(2023年7月号)

https://tachibanashobo.co.jp/products/detail/3862