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薬院法律事務所

刑事弁護

自首の手順(万引き・盗撮・痴漢・児童買春等)


2021年07月07日読書メモ

刑事弁護を掲げていると自首をしたいという相談をしばしば受けます。
こういった場合、弁護士としては刑法42条の自首要件を満たすことを意識して対応することになります。
刑法
(自首等)
第四十二条 罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2 告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=140AC0000000045
この要件は、分解すると
①罪を犯した者
②捜査機関に発覚する前
③自首
になります。
弁護士が依頼を受けた場合、まず、依頼者が①「罪を犯した者」にあたるかどうか事実を確認します。
①にあたらないけれども、誤解されるかもしれないという場合は、警察相談という形で出頭することがあります。これでも逮捕の可能性を低める意味はあります。
次に、②「捜査機関に発覚する前」かを検討します。が、これは実際のところわかりません。
②「捜査機関に発覚する前」ですが、犯罪事実がまったく捜査機関に発覚していない場合に限られず、犯罪事実は発覚しているが、その犯人が誰であるかは発覚していない場合も含まれるとしています。ただし、犯人の所在だけがわからない場合は含まれません。
福岡県警的には、手配画像共有システムに被疑者の画像を登録した段階ではまだ自首成立で、被疑者を特定し逮捕状請求の準備をしている段階では自首不成立としているようです。数名に絞り混んだがまだ誰か特定できていないという場合も自首成立としています。当然ですが、被疑者が、事件及び被疑者について全く関知していない警察署に出頭した場合でも同じです。
※KOSUZO FUKUOKA 2018年4月号 平成30年度福岡論文直前対策
【防犯カメラに犯人が映っている場合等における自首の成否
ア 犯人が犯罪事実の申告をしたときに、捜査機関が相当の合理的根拠によって犯罪を知り、かつ、犯人を特定していたときは、自首に該当しない。
イ 犯人の氏名、住居が不明でも、犯人が何人か特定できる程度の事項が分かっている場合(容貌、体格、その他の特徴により誰が犯人であるかが特定できている場合)は、 自首に該当しない。】
最後に③「自首」の意義ですが、
ア、自発的に
イ、自己の犯罪事実を申告することと、
ウ、自己の訴追を含む処分を求めること
の3つの要素を満たす必要があります。
アについては、捜査機関からの追及によって自白したような場合は含まれないということです。
イについては、自己の刑責を軽くするために犯行の重要部分を殊更隠したり、虚偽の事実を申告するものであってはならないとされます。
弁護士が自首同行をする際は、この要件について特に気を配ります。
※令和2年12月7日の最高裁判例は殺人罪を嘱託殺人罪と偽った事例で自首の成立を否定しています。同判例の評釈として南部晋太郎(法務省刑事局総務課企画調査室長)「刑事判例研究(520)」警察学論集74巻8号129頁~があります。
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail2?id=89889

判示事項
捜査機関への申告内容に虚偽が含まれていた事案につき刑法42条1項の自首が成立しないとされた事例

裁判要旨
被告人が,自宅で,被害者をその嘱託を受けることなく殺害した後,嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の事実を記載したメモを遺体のそばに置いた状態で,自宅の外から警察署に電話をかけ,自宅に遺体があり,そのそばにあるメモを見れば経緯が分かる旨伝えるとともに,自宅の住所を告げ,その後,警察署において,司法警察員に対し,嘱託を受けて被害者を殺害した旨の虚偽の供述をしたという本件事実関係の下においては,刑法42条1項の自首は成立しない。

※前田雅英ほか編『条解刑法〔第4版〕』(弘文堂,2020年12月)191頁
【自首は, 自己の犯罪事実の申告でなければならない。他人の犯罪事実について申告した場合は,その事実が自己の犯罪事実と密接な関係にあったため自己も訴追を受ける結果になっても,自首ではない(広島高岡山支判昭30・12・13裁特2-24-1278)。犯罪事実とは,犯罪成立要件すなわち構成要件該当性,違法性,有責性を備えた行為(事実)の意味である。
何らかの罪をほのめかす程度の供述では自首があったとはいえない(名古屋高判昭29.6.17判特33-99)。
言語によらない場合は,外形上犯罪事実の申告と分かる態度を示す必要がある(福岡高判平24・9・19高検速報1495)。
犯罪事実の申告であるから, それがどのような刑罰法規に触れ,どのような罪名に当たるかという法的評価を積極的に認識している必要はない。また, 申告された罪名や法的評価に拘束されない(社会的事実に同一性があれば足りるとするものとして東京高判平18・9・21束時571=12-49)。
しかし, その申告は自己の刑責を軽くするために犯行の重要部分を殊更隠したり虚偽の事実を申告するものであってはならない(なお後掲注(イ)参照)。
例えば,殺人を犯した者が,情死を企て共に投身したが生き残った旨申告しても,殺人罪の自首に当たらない(大判昭9・5・21集13651)。
強盗殺人を犯した者が嘱託殺人を犯したかのような申告をしたり(東京地判昭59.8.31判タ544275),強盗を犯して被害者を死亡させた者が, 強盗の故意認定に関連する言動暴行態様等を偽り,暴行の結果予想外にも被害者が死亡したかのような申告をした場合(東京高判平17・3.31判時1894-155)も犯罪事実の申告とはいえない。さらに,共犯者がいるのに単独実行犯である旨の虚偽の申告をして共犯者の存在を隠そうとした場合は, 犯罪事実の重要部分を偽るものであって,犯罪事実の申告に当たらない(東京高判平17・6・22判タ1195299,東京高判平22・7・5東時61 162)。
自首が成立するためには,一罪を構成する事実全体についての申告がなされなければならない(東京高判平12・2・24判時1738-140は,所持していた覚せい剤の一部が発覚した後に残部の所持事実を申告した事案において, 自首の成立を否定している。
なお, 名古屋高判昭56.7 . 9判時10366-138は,常習累犯窃盗中の一窃盗行為について自首しても,その後捜査官の取調べに応じてなしたその余の窃盗行為についての自供が,必ずしも自首に当たるものでないときは,結局, その常習累犯窃盗罪の自首に該当しないとする)。】
ウについては、申告の内容が犯罪事実の一部を殊更に隠すものであったり、自己の責任を否定しようとするものであるときは、 自首に当たらないとされます。
弁護士が依頼を受けた場合は、こういったことを意識して供述調書を作成し、併せて事前に警察署に連絡を入れて、自首のスケジュール調整をします。
刑訴法上受理する権限のない検察事務官及び司法巡査に対する犯罪事実の申告は、刑法上の自首に当たらないとされますので、交番の巡査などに自首するわけではありません。
その他、自首同行に関しては、服部啓一郎ほか編著『先を見通す捜査弁護術』(第一法規,2018年3月)という書籍に一般的なやり方が書いてあります。弁護士に依頼する費用がなく自らで自首したいという場合には参考にすると良いでしょう。
https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/103132.html