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薬院法律事務所

一般民事

草柳和之「効果的なDV被害者支援のために : 被害者ファーストを探求する」家庭の法と裁判46号(2023年10月号)


2024年01月26日読書メモ

大変有意義な論考でしたので紹介いたします。

 

離婚事件に取り組む弁護士だけでなく、刑事事件や債務整理、相続事件など「家族」が絡む問題に取り組む弁護士は読んでおくべきでしょう。また、パワーハラスメントなどの労働問題など、およそ「人間関係」が絡むトラブルに関して示唆を与える内容です。「暴力」によって築かれた支配構造を解体し、傷ついた人の心を救うためにはどうすれば良いのか、という処方箋も示されており、大変参考になりました。

 

家庭の法と裁判2023年10月号<特集:改正DV防止法の概要と実務運用>vol.46

https://www.kajo.co.jp/c/magazine/006/31009000046

 

50頁

【DVには。以下のような暴力が含まれる。
(1)身体的暴力/(2)精神的暴力/(3)物を通じての暴力/(4)子どもを利用しての暴力/(5)性的暴力/(6)社会的暴力/(7)経済的暴力暴力とは何か? 「相手を傷つける行為」との理解では不十分である。暴力の性質を考えるために,以下の手段と目的(意図)というキーワードが有益である。
① 手段一身体的暴力・精神的暴力・性的暴力など
② 目的・意図一何らかの強制力により相手を無力化し,服従させる,言うことをきかせる,コントロールする
②が暴力の本質であり,要するに「思う通りにならないと許さない」姿勢である。
DVでは,日常些細なことで相手を気遣いさせ,服従させる事象が広がっている。例えば,夫は帰宅すると玄関を見渡して物の整い具合をチェックする/料理を一つ一つ論評し,注文を付ける/洗濯物のたたみ方にケチをつける/頼んだ銀行振込が出来ていないと文句を言う等々であるが,これらは単体では暴力とは言えない。

そして思い通りに物事が運ばない時に怒鳴る,物を投げるなど,明確な暴力を駆使する。DVとは,例示したような日常の微細なコントロールの裾野があり(社会的暴力・経済的暴力は,これに含まれる),その範囲に収まらない時, (1)~(5)の暴力を活用する,という二重構造になっているのである(【図表1】)。このことにより最小限の暴力で相手を服属させることができ,暴力のコストパフオーマンスが高くなる。被害者は,暴力のない時間も苦しくなる。「こんなこともキチンと出来ない,ダメな妻」と相手のせいにし,それを周囲の人にも納得させ,しかし本当は加害者が仕組んでいる-この「何もかも相手の責任」と仕立てる戦略を《無責任の達人》と呼んでいる:)

J. Hermanは,「心的外傷と回復』3)の第4章「監禁状態」で次のように述べる。
「人間に自分以外の人間を奴隷化させる方策は驚くほど一つである。人質政治的囚人,強制収容所の生存者たちの報告は地球上のどこからの報告でも気味の悪いほど同じである。(中略)この同じテクニックが女性を屈従させるために用いられている。(中略)恐怖を起こさせるだけでなく,犯人(筆者注=加害者と読み替え可)は被害者の自立性の感覚を粉砕しようとかかる。そのためには被害者の身体とその働きを細々と詮索した上でこれを支配すればよい。犯人は被害者が何を食べるべきか,いつ眠るべきか,いつトイレットに行くべきか,どういう服を着るべきか,までいちいち監督し指示する。」】

 

なお、名論考ですが、一点だけ気になった記述もありました。この記述です。

 

【DV被害者については男性被害者も女性被害者も存在するが,本稿ではDV被害者の大多数を占める女性を前提として記述している。】

 

ここでは、「DV被害者の大多数を占める女性」とありますが、近時の研究によれば、IPV(親密なパートナー間暴力)については、性差はないか、むしろ女性が多いのではないかと言われています。正確には、DV被害者(として申告できた人)の大多数を占めるのが「女性」であって、男性被害者はそもそも「申告」すらできないというのが実態だろうと思います。すなわち、中高年男性のDV被害者は「そもそも「被害」と認知してもらえない」のです。私自身の相談対応経験でも、重篤なDV(身体的暴力)を受けながら警察に申告できない男性、申告しても配慮してもらえない男性が複数いました。警察も、男性のDV被害者には、「(どうしても)被害届を出したいなら…」と及び腰だったようです(ただ、数年前のことですので、今は運用が変わっている可能性はあります)。

とはいえ、少しずつ時代も変わってきていますし、改正DV防止法では「精神的暴力」というDVの本質的要素が規制されるようになったので、より多くのDV被害者が救われていくことを願っています。大事なことは、「誰であっても」、「どんなに正当化する理由があっても」、「あなたを傷つける権利は誰にもない」ということです。DV被害者は「相手が怒るのは私が「悪いこと」をしたからだ」と刷り込まれていますが、仮に「悪いこと」をしたからといって、「罵倒」や「暴言」などを耐え忍ぶ義務はどこにもないのです。辛いと少しでも感じたら、友人や、弁護士の助けを求めていきましょう。

 

越智啓太・桐生正幸『テキスト 司法・犯罪心理学』(北大路書房,2017年7月)154-155頁

【DV・IPVは男性がパートナーである女性に対して暴力を振るうという構図が一般的であると考えられてきた。また,特に男性の支配や優越性が重要な意味を持つということも同時に議論されてきた。そのためそれまでの研究では,主に男性加害者に関する研究や,女性被害者に関する研究が多くなされている。日本においても基本的には男性の加害者および女性の被害者を想定した研究や報告書が提出されている。
一方で現在は,女性も男性も同様にIPVを行なったり, または男性よりも女性のほうがよりIPVを行なうということが アーチャー(Archer,2000)を筆頭にさまざまな研究をとおして明らかになってきた。IPVの男女の同質性について, 32地域の大学生を対象に研究を行なったのがシュトラウス(Straus, 2008)である。この研究でのリサーチクエスチョンの1つは, IPVの方向性を明らかにすることである。具体的には, IPVは一般的に男性から女性に向けられるのか,女性から男性に向けられるのか, それとも双方向的に行なわれるのか, を明らかにすることである。2つ目のリサーチクエスチョンは,優越性がIPVに及ぼす影響は, 男女でどのように重要であるのかを明らかにすることである。この研究の結果,地域によるIPV率はさまざまであるが, それぞれの地域での暴力の男女差はあまりみられなかった。またどの地域においても男性のみまたは女性のみがIPVを行なうよりも,双方向的に行なわれることが示され, その比率は圧倒的に高いものであった(図8.4)。さらにIPVの発生のリスク要因である優越性についても, 男女で同様のパターンが示されることを明らかにしている(本節(3)④)。(中略)ただし,暴力の重篤性やその暴力を受けた場合の認識には性差があると報告する論文も存在する。モリドーとトールマン(Molidor&Tolman, 1998)では13~18歳の学生を対象に調査を行ない,暴力の頻度に関しては性差がみられないことを示している。しかし,重篤度の高い暴力(物を投げる,殴る,首を絞める,武器で脅す)は男性の加害者が,重篤度が中程度の暴力(髪を引っ張る, ひっかく, はたくなど)には女性加害者が多いことが示されている。さらに, 男性被害者は身体的な傷害を受けたのは10%に満たないが,女性では90%以上に達することを示している。 】

 

※福岡県では、男性DV被害者のためのホットラインが用意されています。

「男性DV被害者のための相談ホットライン」「LGBTの方のDV被害者相談ホットライン」はこちら

https://www.pref.fukuoka.lg.jp/contents/dansei-dvhotline.html

・男性DV被害者のための相談ホットライン

<電話番号>

070-4410-8502(令和5年4月から電話番号が変わりました)

<受付時間>

毎週火曜日・木曜日/18時から21時

毎週土曜日/10時から13時

(年末年始を除く)

※面接相談(オンライン含む)は予約が必要です。

 

※DV加害者の心理については次の文献が参考になります。

中川瑛(原作)・龍たまこ(漫画)『99%離婚 モラハラ夫は変わるのか』
本書は、無自覚にモラハラをする男性が、自分自身が何故モラハラをするのかに気付いて、立ち直っていく姿を、四コマ漫画の形式で描いています。モラハラ被害者側で受任する場合も、加害者側で受任する場合も、参考になる文献だと思います。原作者の『孤独になることば、人と生きることば』もお勧めします。

https://www.kadokawa.co.jp/product/322206000130/

 

※男性DV被害者のエピソードが描かれている漫画を挙げます。

死にたいと言ってください ―保健所こころの支援係― : 1

https://www.futabasha.co.jp/book/97845758577020000000?type=2