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薬院法律事務所

刑事弁護

裁判例紹介・性同一性障害と診断を受けた者の胸部を触った行為に対して迷惑防止条例違反の罪が成立するとされた事例[大阪高裁平成30.1.31判決]


2021年08月27日読書メモ

犯罪の成立を認めたのは妥当と思いますが、この「女性に見えるから」云々という判示はもやっとします。
まあ、これを書かないと同性間での暴行罪も迷惑行為防止条例違反にしないといけない、ということからかもしれませんが。

性同一性障害と診断を受けた者の胸部を触った行為に対して迷惑防止条例違反の罪が成立するとされた事例[大阪高裁平成30.1.31判決
掲載誌 新・判例解説watch : 速報判例解説 / 新・判例解説編集委員会 編 24:2019.4 p.161-164

平成30年1月31日/大阪高等裁判所/第6刑事部/判決/平成29年(う)1032号

判例ID
28260952

事件名
平成28年兵庫県条例第31号による改正前の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反被告事件

【第2 法令適用の誤りの論旨について
1 論旨は、要するに、被告人がAの左胸部を着衣の上から右手でつかんだとしても、そのような行為は、兵庫県迷惑防止条例にいう「人に対して、不安を覚えさせるような」「卑わいな言動」には当たらないのに、これに該当するとして原判示の罰条を適用し、同条例違反の罪の成立を認めた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。
2 この点は、原審では特に争点とはされていなかったものではあるが、結論からいえば、原判決が、原判示の事実関係を認定した上で、これに前記罰条を適用したことに誤りはない。
3 所論は、被告人が、Aの「胸が膨らんでいる。」という言葉を確かめるために胸部をつかんだという経緯や、性同一性障害で女装しているAの立場から見て、被告人の行為は、人に性的羞恥心を覚えさせるようなものではなく、「卑わいな言動」には当たらないとか、知人女性もいる飲食店の中で、原判決の説示するように、Aをからかうような意味を込めてその胸部をつかんでも、「人に対して、不安を覚えさせるような」言動とはいえないなどと主張する。
まず、被告人の本件行為が卑わいな言動に当たるかを検討する。ある言動が「卑わいな」ものといえるか否かは、行為者の主観的意図によらず、その言動を客観的に見て、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらなものといえるかどうかにより決すべきと解されるから、所論のいうように、Aの胸部をつかむにあたって、被告人に性的な意図がなく、胸部が膨らんでいることを確認するつもりであったとしても、そのことから直ちに「卑わいな言動」に当たらないとはいえない。
また、Aは、戸籍上は男性であるとはいえ、胸も膨らんでおり、前記のとおり、本件時も一見して女性に見える姿をしていたと認められる上、性同一性障害との診断を受けていたというのであるから、胸部をつかまれた際の屈辱感等は生来の女性の場合と比較しても遜色ないものと考えられる。そのようなAの胸部をつかむことは、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかである。
なお、原判決の「罪となるべき事実」には、被告人がAの左胸部を着衣の上から右手でつかんだという事実しか摘示されていないが、Aの氏名からは同人が男性であることがうかがわれるから、実体を分かりやすく摘示するには、「(Aが)着用した女性用衣服の上から、その膨らんだ胸をつかんだ」というように、Aが一見して女性に見える姿であったことを示すなどした方がより適切であったと思われるが、原判決の判示でも構成要件に該当する事実の摘示に欠けるところはないから、原判決の事実摘示が誤っているとか、不備があるということにはならない。
次に、被告人の本件行為が、人に不安を覚えさせるような行為であったかを検討する。一般に、人に対して、「不安を覚えさせるような」とは、人の身体に対する危険を感じさせ、あるいは人に心理的圧迫を与えることをいうものと解される。本件時、本件飲食店には、Aの連れである知人女性らがいたし、また、店内の雰囲気は、酔った客が談笑し合うような楽しげなものであったことがうかがわれる。また、被告人の内心において、Aをからかうような意図があったことも否定できないであろう。しかし、その日にたまたま飲食店で出会い、若干会話をしただけの男性から、一見して女性と見られるAが、いきなり胸をつかまれれば、通常、身体に対する危険を感じ、心理的圧迫を受けるのは当然といえる。前記のような事情があるとしても、原判示の被告人の行為が、「人に対して、不安を覚えさせるような」行為に該当するのは明らかであり、この点でも原判決の法令の適用に誤りはない。
所論はいずれも採用できず、論旨は理由がない。
よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却し、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき同法181条1項ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

第6刑事部

(裁判長裁判官 村山浩昭 裁判官 田中健司 裁判官 畑口泰成)】