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薬院法律事務所

企業法務

解雇無効と金銭請求(使用者が解雇撤回をした場合にどうするか問題)


2021年12月13日読書メモ

以前作成したレジュメです。あくまで当時の考え方ですので、これが絶対的に正解だというものではありません。

2018年3月14日
弁護士 鐘ケ江 啓 司

第1 問題意識

解雇無効に対する争い方としては,
① 地位確認を求めて賃金請求をする(+慰謝料請求)
② 損害賠償請求をする
の2パターンが存在する。
伝統的には①の方針がとられることが多かったが,この手法をとった場合には解雇撤回された場合には復職しなければならない,あるいは少なくとも就労の意思と能力がないとのことで賃金請求が否定されることがある。
一方,②については,依頼者が満足するような金額が得られないということが多いともされている(第二東京弁護士会労働問題検討会『2018年労働事件ハンドブック(以下「ハンドブック」とする)』(2018年3月発行)376頁,日本労働弁護団『労働相談実践マニュアルVer.7(以下「マニュアル」とする)』(2016年6月発行)244頁)。
そこで,それぞれの手法をとった場合の問題点について,文献では余り論じられていない論点につき検討をしたいと考えた。

第2 基礎知識

1 解雇後の賃金請求の要件事実(民法536条2項による)

① 労働契約の締結
② ①における賃金の締日及び支払日の定め
③ (請求している賃金額が①の賃金額と異なる場合)請求している賃金額を支払う旨の合意が成立したこと,又は就業規則もしくは労働協約等に賃金額の根拠となる定めがあること
④ 請求に係る賃金に対応する期間において労務提供が不可能(履行不能)になったこと
⑤ その履行不能が使用者の責に帰すべきこと
(佐々木宋啓ほか編著『類型別労働関係訴訟の実務(以下,「類型別」)』(2017年7月発行)242~244頁)。

解雇無効=賃金請求可能ではない。
菅野755頁では,懲戒解雇がわずかに不相当で無効となった場合等,解雇は無効でも,「責めに帰すべき事由」が否定される場合もあるとしている。
⑤については労働者に労務提供の意思及び能力が必要と解すべきであるとされている(「類型別」244頁)。労働者が就労の意思又は能力のいずれかを失っている場合には,「使用者の帰責事由による履行不能」といえず,債権者の帰責性と履行不能との間の因果関係が否定されるからである。
例えば,労働者が解雇後に転職して新たな職に専念する等して職場復帰の意思を失ったと認められる場合や,労働者が私傷病で就労できない場合には,債権者である使用者の責めに帰すべき事由による就労不能とはいえず,それ以降の賃金請求権は発生しないことになる。なお,単に,労働者が解雇後に他に職を得ているというだけでは,就労の意思を失ったとまでは認められず,他職で得た賃金についての中間収入控除の問題となるに過ぎない。
使用者が,ある時期以降の労働者の就労の意思及び能力について,その理由を示して否認した場合には,労働者において,就労の意思及び能力があることを,改めて立証することになる(「類型別」246頁)。
中間収入の償還は平均賃金の6割を超えた部分につき行われる。平均賃金の算定の基礎に含まれない手当は全額控除の対象になる。
なお,民法536条2項による賃金請求という構成については,民法改正によっても変更はないと考えられる。中田裕康『契約法』(2017年9月)494頁では,使用者の責めに帰すべき事由によって労働に従事出来なかった場合について,新たな規定を設けず,引き続き536条2項に委ねることとされたと解説している。

2 解雇後の損害賠償請求の要件事実

通常の不法行為と同様と考えられる。
① 原告の権利又は法律上保護される利益の存在
② 被告が①を侵害したこと
③ ②についての被告の故意又は過失
④ 損害の発生及び額
⑤ ②と④の因果関係
⑥ ②が違法であること(法律上保護される利益の侵害の場合で,②だけでは違法性が明らかでない場合)
(岡口基一『要件事実マニュアル民法2 第5版』(2016年12月)385頁)

もっとも,解雇についてはそれが無効でも慰謝料請求は否定されること が多い。その理由としては,解雇期間中の賃金が支払われること等により労働者の被った損害は填補されている。解雇は原則として自由なので,別途不法行為の要件を満たすか検討しなければならない,などとされる。

第3 問題点の検討

1 地位確認を求めて賃金請求をした場合の問題点

① 使用者が,労働者の就労の意思と能力を争った場合の審理のポイント

(私見)
意思については,労働者が再就職している場合には,その再就職先の条件が一番重視される。紛争における態度も考慮される。
能力については,労務遂行が客観的な可能な状況か(片山組事件も参照)が判断される。出勤不可能なところに転居した場合には,原則として能力が欠如すると考えられる。

※就労の意思を否定した参考裁判例
・労働者の就労拒否(ペンション経営研究所事件・
東京地判平成9年8月26日労働判例734号75頁)
・解雇後の引継ぎ,送別会に出席,再就職(ユニフレックス事件・
東京地判平成10年6月5日労判748号117頁)
(高裁では合意解約を認定)
・解雇に対して金銭解決を求めていた(ニュース証券事件・
東京地判平成21年1月30日労働判例980号18頁)
・再就職先の条件が良い(ライトスタッフ事件・
東京地判平成24年8月23日労働判例1061号28頁)
・退職を考えていた,別の県に転居している(C社事件・
大阪地判平成24年11月29日労働判例1068号59頁)
・別のタクシー会社に正社員で再就職し,別会社で勤務開始するときに解雇無効となれば前の会社に復職するとの意思を表明していない
(東京地判平成26年11月12日労働判例1115号72頁)
・再就職先の条件を明らかにしない,職場復帰に消極的
(弁護法人レアール法律事務所事件・
東京地判平成27年1月13日労働判例1119号84頁)

② 使用者が解雇を撤回して出勤命令を出したときの審理のポイント
特に,労働者側がパワハラやセクハラがあるため出勤出来ない等主張している事例の場合にどう考えるか?

(私見)
一方的な解雇撤回は出来ない。「使用者が行った解雇予告の意思表示は,一般的には取り消すことを得ないが,労働者が具体的事情の下に自由な判断によって同意を与えた場合には,取り消すことができるものと解すべきである。」(昭和25年9月22日基収2824号,昭和33年2月13日基発90号)。
もっとも,使用者側が解雇を撤回して労務の受領拒否の態度を改めた場合には,労働者側が労務の提供をしない限りは,賃金請求権は発生しない。解雇を撤回した場合でも,労務の履行不能が使用者の責に帰すべき事由として賃金請求が認められる事例もあり得ないとはいえないが,労務提供が著しく困難な場合に限られると解釈されるべきと考える(参考裁判例①②)。
参考裁判例③のナカヤマ事件は,割増賃金や配転命令の有効性を争っていることを問題視しているが,復職後の職場環境が問題とされるべきで,過去の紛争に対する態度を問題視することには疑問がある。信頼関係が回復されなければ労務提供をしなくても賃金請求が可能とするのも疑問。
但し,復職しなかった場合で,無断欠勤を理由とする解雇をされた場合には,通常の無断欠勤解雇と同視して考えられるべきではない。

※参考文献
ハンドブック376頁,マニュアル245頁ともに復職が必要としてい る。もっとも,マニュアルでは,労働条件を大幅に切り下げた上での就労命令はそれ自体無効である可能性が強いとしている。
土田道夫『労働契約法 第2版』(2016年12月)247頁では,使用者が積極的に労務の受領を拒否していなくても,必要な安全措置を怠ったために労務を提供することが客観的に困難となった場合には,使用者の帰責事由による労務の履行不能として賃金請求権が発生することがある,とされている。就労の意思がなくても,参考裁判例②と③のような場合には賃金請求権が発生するので,就労の意思と能力そのものが要件事実ではなく,履行不能との因果関係が要件事実になると述べられている(248頁)。

※参考裁判例①
(東京地裁昭和57年12月24日労働判例403号68頁)
「雇用契約に基づいて使用者が労働者から労務の提供を受ける場合において,使用者は,労働者に対し,雇用契約に付随する信義則上の義務として,労務の提供に必要な諸施設を労働者の利用に供することはもとより,労働者の労務の提供及びその準備行為等が安全に行われるよう配慮すべき義務を負っているものと解されるから,使用者が右の義務を尽さないために労働者が労務を提供しようとすればその生命及び身体等に危害が及ぶ蓋然性が極めて高く,そのため労働者において労務を提供することができないと社会通念上認められる場合には,労働者の使用者に対する労務の給付義務は履行不能に帰し,しかもその履行不能は使用者の責に帰すべき事由による履行不能に当たるものと解するのが相当である。そうすると,この場合,労働者は民法五三六条二項によりその間の賃金請求権を失わないものといわなければならない。」

※参考裁判例②
(新清社事件・横浜地判平成2年10月16日労働判例572号48頁)
「雇用契約は,労働者の労務提供と使用者の報酬支払をその基本内容と する契約であるが,労働者は使用者の指定した場合に配置され,使用者の供給する設備,器具等を用いて使用者の指揮下で労務の提供を行うものであるから,使用者は,信義則上,労働者の労務の提供あるいはその準備行為の安全を確保するよう配慮すべき義務を負うものというべきである。そして,使用者が右義務を尽くさないために労働者が労務の提供及びその準備行為をするについて生命・身体への危険が生じ,労務の提供をすることが社会的にみて著しく困難である場合には,労働者の労務供給義務は,使用者の責に帰すべき事由により不能となったものと解すべきである。」

※参考裁判例③
(ナカヤマ事件・福井地判平成28年1月15日労働判例1132号5頁)
配転命令の撤回と出勤命令について,使用者が配転命令の違法性を認めていないことや時間外労働に対する割増賃金を支払うことを否定していることから「被告が権利を濫用して本件配転命令を発令したことにより破壊された原告との間の労働契約上の信頼関係は,被告が本件配転命令を撤回し,出勤命令を発令し,前記誓約書を提出しただけでは回復したものとは到底認めることができない。そうすると,原告が本件配転命令発令後も出勤していないのは,被告の責めに帰すべき事由によるものといえるから,民法五三六条二項により,被告は,原告に対し,本件配転命令の撤回後も,現在まで賃金支払義務を負うと認めるのが相当である。」

③ 民法536条2項の適用を雇用契約や就業規則で排除出来るか?

(私見)
任意規定のため可能である。

※参考文献
東京弁護士会労働法制特別委員会編『新労働事件実務マニュアル 第 4版』では「また,民法536条2項は任意規定であるため就業規則,労働協約や個別契約等による適用排除が可能であるが,その場合,民法536条2項の適用を排除する旨を明確に規定する必要がある(いすゞ自動車(雇止め)事件:東京地判平成24年4月16日労判1054号5頁は, 「臨時従業員が,会社の責に帰すべき事由により休業した場合には,会社は,休業期間中その平均賃金の6割を休業手当として支給する。」との就業規則上の定めにつき,民法536条2項の「債権者の責めに帰すべき事由」による労務提供の受領拒絶がある場合の賃金額について定めたものとは解されないとしている。)。)と記載している(89頁)。
新版注釈民法13巻債権4の656頁でも「危険負担に関する規定は 任意規定だとされるので,特約によってその適用を排除しうる」とされている。

2 労働者が損害賠償請求をした場合の問題点

① 労働者が解雇無効での賃金請求をせずに,逸失利益を請求した場合に,どの範囲で損害賠償を認めるべきか?

(私見)
現実に再就職に期間がかかった場合には,再就職にかかった期間をベースに逸失利益を認めるべきである。また,新しく再就職した先との間で賃金の差額が生じている場合には,その差額についてはその差額も賠償の範囲に入る。
もっとも,再就職までが長期化した場合については,通常生すべき損害とはいえない,あるいは予見可能性がない,損害軽減義務に違反するといった理由で減額されることもあり得る。

※文献
菅野758頁では,事案上適当な期間(たとえば,当該職種・職歴の者であれば通常再就職に要する期間)の得べかりし賃金相当額を逸失利益として認めるのが実際上の妥当な決着方法である,としている。
マニュアル242頁では,6ヶ月分の賃金を逸失利益と認めているが,それを超えるものもあるとしている。

② 労働者が損害賠償請求を選択した場合において,解雇は無効だが,不法行為まで成立しないから損害賠償請求を棄却するというのはどういった場合があるのか?

(私見)
理屈上はあり得るが,限定的に考えるべきと思われる。
この考え方が一般的になると,地位確認をしておいた方が無難ということで,実際には就労の意思がなくても名目上地位確認をすべきという方向になる。

※文献
東京弁護士会労働法制特別委員会編著『労働事件における慰謝料―労働判例からみる慰謝料の相場―』(2015年8月)では平成15年から平成25年の判例を分析しているところ,静岡第一テレビ事件(静岡地裁平成17年1月18日労働判例893号135頁),モリクロ事件(大阪地裁平成23年3月4日労判1030号46頁)は解雇無効としつつ損害賠償請求を棄却している。
以上