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薬院法律事務所

刑事弁護

警察官が、刑事訴訟法第47条を理由に被疑者の認否を回答してくれないという相談(刑事事件)


2024年11月24日刑事弁護

※相談事例はすべて架空のものです。実在の人物や団体などとは一切関係ありません。

 

【相談】

 

Q、私は、東京都23区に在住する司法記者です。首都圏で起きた連続強盗事件の取材をしているのですが、警察官に被疑者の認否について取材をしても「刑事訴訟法47条により回答できない」といわれてしまいます。捜査に支障があるから、マスコミには回答できないというのはわかるのですが、刑事訴訟法47条が理由とされるのは良くわかりません。警察の回答に根拠はあるのでしょうか。

A、後掲の参考文献に記載があるように、警察官は刑事訴訟法47条を理由に捜査状況について回答しないことがあるようです。認否に対する回答そのものが刑事訴訟法47条で禁止されるとは考えにくいですが、警察がマスコミに対して報道発表する義務もないので、警察官の対応が違法とはいえないでしょう。地方公務員法、国家公務員法の守秘義務違反となる可能性もあることから、警察官がマスコミに対して慎重な対応をすることはやむを得ないと考えます。

 

【解説】

 

先日読んでいた本にありましたので、検討しました。明確な記載をした文献は見当たりませんでしたので、以下の記述は現時点での「私見」です。

 

刑事訴訟法47条は「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と定めています。この「公にする」ということは「内容を知らせることを含む」とされているところです。もっとも、被疑者の認否を回答することについては、書類の「内容を知らせる」ことにあたるか疑問があるところです。この点について明示的に検討した文献は見当たりませんでしたが、仮に刑事訴訟法47条が「捜査書類に記載されたことは一切開示してはならない」という規制だとすると、逆に捜査に支障が生じることが考えられます。例えば、聞き込みなどの捜査協力を求めるにあたって理由を開示することもあると思いますが、それが刑事訴訟法47条に反する可能性もある、ということになるからです。

 

私は、刑事訴訟法47条は、あくまで書類の内容そのものを公開ないし開示することを規制するものであって、捜査の進捗を話すといったことは、刑事訴訟法47条が直接規制するものではなく、刑事訴訟法196条や、地方公務員法、国家公務員法の守秘義務の解釈によるものと考えています。

 

刑事訴訟法

https://laws.e-gov.go.jp/law/323AC0000000131

第四十七条 訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。

第百九十六条 検察官、検察事務官及び司法警察職員並びに弁護人その他職務上捜査に関係のある者は、被疑者その他の者の名誉を害しないように注意し、且つ、捜査の妨げとならないように注意しなければならない。

 

地方公務員法

https://laws.e-gov.go.jp/law/325AC0000000261/20200401_429AC0000000029

(秘密を守る義務)
第三十四条 職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする。

 

国家公務員法

https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000120/

(秘密を守る義務)
第百条 職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする。

 

【参考文献】

 

中山善房「刑事訴訟法47条」中山善房編『大コンメンタール刑事訴訟法第三版第1巻〔第1条~第56条〕』(青林書院,2022年6月)

572頁

【本条は,訴訟に関する書類について,これが公判で公にされる以前では,非公開を原則とする旨を定めたものである。その日的は.公判以前に訴訟書類が公開されることにより,被疑者・被告人その他の訴訟関係人の名誉その他の利益を侵害するおそれがあるとともに,捜査・裁判の面にも不当な影響を及ぽすおそれがあると考えられることから,これらを未然に防止しようとするところにある】

573頁

【「公にしてはならない」とは,一般的公開すなわち不特定多数の人に対する開示(内容を知らせることを含む)を許さないことを意味する。】

574頁

【「その他の事由」とは,公益上の必要に準ずる重要な事由をいう。報道機関からの要求については,原則としてこれに当たらないと解する立場(松尾ほか・条解刑訴(4版増補版) 107頁)と場合によっては積極的に解する立場(注解刑訴(上)(全訂新版)〔中武〕155頁)がある。この点についても,裁判所の合理的な裁量により判断されるべき問題であるが,一般的には開示の必要性の面でチェックされる場合が多いであろう。】

 

松尾浩也監修「刑事訴訟法47条」『条解刑事訴訟法〔第5版〕』(弘文堂,2022年9月)110頁

【6) その他の事由 公益上の必要に準じて考えられる事由をさす。報道機関の報道の自由といえども原則としてこの事由にあたらない。】

 

平場安治ほか『注解刑事訴訟法上巻〔全訂新版〕』(青林書院,1987年5月)152-154頁

【四 いかなる場合に「公益上の必要」が存在するかに関しては、法律に一般的な規定はないが…(中略)…本条但書はかかる裁判所の裁量権を規定したもので、裁判所を強制するものではなく、したがって、司法権独立の原則とは関係がない。要は、個々の場合の利益衡量により決すべきものである。したがって、新聞その他の報道機関からの要求も、場合によっては「公益上の必要」と解されることもあるであろう。】

 

三枝玄太郎『三度の飯より事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社,2024年5月)69頁

【この事件記者によると、検察庁の幹部は記者に対し、何かにつけて「刑事訴訟法47条があるから、認否については話せない」と強調するのだそうです。…(中略)…私からすると、公にするというのは「供述証拠をそのまま閲覧させること」であって、単に容疑者の認否を明らかにすることは「公にしてはならない書類」には当たらないのではないか、という気もします。…(中略)…実際は先に述べたように、供述が証拠の柱となる捜査にとっては「認めているか、否認しているか」が漏れただけでも捜査に支障があると考え、レクでもそう言い始めたというのが本当のところではないでしょうか。】

https://str.toyokeizai.net/books/9784492396759/